35. 洞窟探検と実験
「よし、着いたぞ。あれが目的の洞窟だ」
オードさんが指差すのは、山裾の一角。ぽっかりあいた大穴が、そこにあった。
ここは街から北にある山のふもと。跳び鼠よりも手強い魔物と戦いたいという僕らの要求が通って、紹介されたのがあの洞窟ってわけ。
本来なら見習い冒険者が来るような場所じゃない。討伐依頼が出るならDランク以上になるような魔物が出没するって言うからね。自分たちが付き添うという形でオードさんがベルさんを説得してくれたんだ。
「いいか、お前たち。洞窟内は暗くて狭い。明かりは必須。武器も取り回しの良い物を選ぶ必要があるんだが……お前たちはなぁ」
「魔法で倒すよー!」
「明かりも魔法で出せる!」
「だよなぁ……」
オードさんは苦笑いを浮かべている。
僕ら、完全に魔法パーティだからね。一般的な冒険者パーティの定石とはちょっと違うかもしれない。
でも、イリスさんは真剣な表情だ。
「たしかに、魔法でいろいろできるけど、油断しては駄目よ。魔法を使いすぎると、マナ切れを起こしてしまうし、魔法を封じてくる魔物もいるんだから。普段はともかく、非常時用にランタンは携帯しておきなさいね。それと、魔法以外の攻撃手段も持っておくこと」
なるほどなぁ。やっぱり、魔法使いとしての経験がある人の意見はためになる。
まぁ、マナ切れに関してはあまりし心配いらないけどね。“安らぐ香り”の因子が意外に役に立つんだ。マナの回復速度はゆっくりだけど、服に付与して常時香るようにしておけば、移動しているときにも回復するからね。
「じゃあ、進むぞ。俺が先頭、イリスが後ろで警戒する。戦いは基本的にお前たちに任せるぞ」
魔法で明かりを灯したオードさんが洞窟に入っていく。僕らもそれに続いた。二列になって、ライネとレイネが前に僕とルクスが後ろだ。その後をイリスさんが続く。
「魔物、か?」
「お、やるなルクス。この先の天井だな」
しばらく歩いたところで、ルクスが魔物の気配を察知した。オードさんは気づいていたみたいで、ニヤリと笑う。
ここの魔物については事前に聞いているので、僕にもその正体に察しがついた。
「天井ってことはコウモリ?」
「そうだ。狭い場所で器用に飛ぶからな。うまく落とせないと手間取るぞ」
名前はブラックバット。特別な能力はないけど、空から噛みつき攻撃をしてくるから、対抗手段がない非常に戦いづらいと聞いた。僕らは魔法があるから大丈夫だと思うけど。
「ルクス、数はわかるか?」
「そこまでは……複数いるのはわかるけど」
「予想でいいぞ」
「3匹、かな?」
「よし、正解だ」
オードさんとルクスの報告によれば敵は3匹。それをもとに動きを決める。
「レイネがやるー!」
「ライナも!」
「じゃあ、残りはルクスがお願い。僕は試してみたいことがあるから」
「ああ、わかった。それならレイネは右を、ライナは左を狙え」
「「わかったー!」」
オードさんに先頭を譲られ、僕らは慎重に進む。少し道幅が広くなったところでルクスが手振りで僕らを制止する。指差す場所を見ると……いた!
ルクスたちが一斉に圧縮された水球――水弾を放つ。中央のコウモリがそれに撃たれて落ちる。けれど、右と左のコウモリには紙一重で避けられてしまった。
「ああ!」
「しっぱーい!」
双子は嘆いているけど、僕としては望んでいた展開だ。素早くウィンドウを操作して、まずは右のコウモリに、次に左に感情因子の“驚き(Lv3)”を付与する。
直後、右のコウモリが壁にぶつかった。左のコウモリも動きがおかしい。
「今だよ」
「もう一回!」
「今度こそ!」
双子が再び魔法を放つ。コウモリたちの動きは鈍く、水弾は今度こそ命中した。
「「やったー!」」
双子が嬉しそうにくるくる回る。狭いし足場が悪いから危ないよ。
「コウモリの動きがおかしかったな」
「そうだね。あれが感情因子?」
オードさんとイリスさんは、コウモリの挙動にしっかり注目していたらしくて、因子を付与したことに気付いたみたい。
「そうです。“驚き”を付与してみました」
「なるほど。一瞬で付与できるなら、意外と効果的だな」
「マナもいらないんでしょ?」
「はい」
そうなんだよね。あまり使えないかもって思った感情因子だけど、戦闘に関していえば意外と使えるかもしれない。
オードさんとイリスさんが言った点はもちろん便利だ。けれど、それは感情因子じゃなくてもいい。というか、むしろ普通の因子の方が永続するし便利だ。
ただ、普通の因子はストックに限りがあるからね。複数の敵に付与しようとすれば、一旦複製しなければならない。ちょっと手間がかかるんだ。
その点、感情因子は一旦取り込んだあとはリストから消えない。何度も付与できるんだよね。複製の手間がないので、手軽に使えるってわけ。
平穏状態の対象には効果がないって弱点もあるけど、味方の攻撃に合わせると効果的だ。どうやら、その感情が生じてもおかしくない状況にあれば、効果が名続きするみたいだ。
強敵には通常因子、普段の敵には感情因子と使い分ければ、強力な武器になりそうだ。50GPが無駄にならなくて良かったよ。




