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29. 何も間違ってないよ

「ここまでにしようぜ」


 オードさんが宣言したのは、太陽が一番高いところを過ぎて、傾き始めた頃だった。


 全員がある程度簡単な魔法なら扱えるようになっている。イリスさんに言わせれば、この習熟速度は異常って話だ。“魔法の才能(Lv5)”はかなりの資質ってことみたいだね。


 レベル5が上限なのかな? でも、武器屋で見た“自動修復”はレベル7だったよね。因子によって上限レベルが違う可能性もあるか。


 因子付与のおかげで才能は横並び。なので、イリスさんを除けば、できることは同程度だ。でも、水魔法に関しては“水霊の加護”があるルクスが飛び抜けてる。


 生成できる水の量や勢いが段違いなんだ。オードさんやイリスさんからも実戦で通用するレベルとお墨付きを得ている。やっぱり恩寵の有無はデカいんだね。


「基礎はひと通り教えたから、あとは練習あるのみ! もちろん、相談があればいつでも乗るから、遠慮なく聞きに来ていいからね」


 最後にイリスさんがそう言って、魔法訓練を締めた。


 魔法の練習に付き合ってもらえただけでもありがたいのに、今後も相談に乗ってもらえるみたい。本当に、いい人ばかりだね。


 さて、訓練が終わりなら、街に戻らなくちゃならないけど……そこで必要になるのが通行税だ。外に出るときは素通しだけど、入るときには簡単な審査がある。そのときに1人当たり小銀貨を1枚支払わなくちゃならない。


 今となっては払えない額ではないけど、少しだけもったいなく感じるよね。スラムにある崩れた壁を乗り越えれば無料で出入りできると思うとさ。


 とはいえ、今や僕らも街の住人だからね。もちろん、ちゃんと払うつもり、だったんだけど……


「オードか。仕事帰りか?」

「いや、今日は仕事じゃねぇよ。コイツらの訓練みたいなもんだ。全員で小銀貨6枚だな」

「お、引率か。お前も先輩面するようになったんだなぁ」

「うっせい!」


 入り口に立っていた兵士の人と知り合いらしく、オードさんがぱぱっと通行税を支払ってしまった。顔馴染みだからか、審査も特にない。僕らまで審査を免れたのは、子供なのもあるけど、オードさんが信頼を得ているからだろうね。


「通行税、出しますね」

「いらんいらん。しまっておけ」


 門をくぐったところで、4人分の通行税を出そうとしたら、いらないと言われてしまった。


「でも……」

「でもじゃないって。これくらいさせてくれ。もらい過ぎで、正直、この程度じゃ恩を返しきれないんだから」

「うっ、そうよね……」


 オードさんの言葉に、イリスさんががっくり肩を落とした。因子を付与して欲しいと暴れたときとは別人のようだ。


 二人からすると、僕らに大きな借りがあるって認識みたい。


 まあ、普通、“魔法の才能”を後天的に獲得するなんてできないからね。お金で買えない価値があるっていう発想なんだろう。


 僕からすれば因子を付与するだけだから、そこまで大袈裟にしなくてもって思っちゃうんだけどね。オードさんからは“魔法適性:水”をコピーさせてもらったし、イリスさんには魔法の指導をしてもらった。その報酬だと思ってもらえればいいんだけど。


 そう伝えてみたけれど、二人は納得しなかった。


「恩恵を得たアタシたちが言うのもなんだけど、力の安売りはしないほうがいいよ。際限なくねだられちゃうからね」

「ま、これは俺たちなりのけじめみたいなものだから、気にするな」


 ということなので、気にしないことにした。


「こんなもんじゃまだまだ足りないからな。欲しいものがあったら言えよ」

「欲しい物かぁ」

「と言われてもな……」


 オードさんに言われて、僕とルクスは顔を見合わせる。スラム暮らしだった頃に比べると格段に良い生活が送れているから、ぱっとは思いつかないよね。


 この点、ライナとレイネは欲望に素直だった。


「じゃあ、食べ物!」

「美味しいものー!」

「おお、そうか。じゃあ、たまには外で食うのもいいな! リッドさんのとこも値段にしてはうまいけど、せっかくならもっと美味いものを食おうぜ!」

「「わーい!」」


 まぁ、食事ならそこまで高額になるわけじゃないし、甘えてもいいかな。ルクスに目配せすると、頷きが返ってくる。同じ考えみたい。


「今から……はまだちょっと早いか。そうだ、お前らをいいところに連れて行ってやろう!」


 オードさんが眩しいくらいの笑顔でそんなことを言った。


 たしかに、夕食にはまだ早い時間だ。でも、いいところって?


 答えはイリスさんからもたらされた。彼女は呆れた様子でオードさんにジト目を向けている。


「まあ、浴場? オードって本当に風呂好きね」

「はっはっは! 俺は綺麗好きな紳士だからな!」

「ちょっと前まで、フケだらけの髭もじゃだったクセに何を言ってるの」


 オードさんとイリスさんが言い合いを始めたけど、僕はそれどころではない。だって、お風呂だよ!


 これまでの人生でお風呂に入った記憶はない。体を清潔にすると言ったら、川で水浴びをするか、濡らした布で拭くかのどちらかだ。


 僕は特別綺麗好きってわけじゃない。けど、前世の記憶があるせいか、それじゃどうもスッキリしないんだよね。


 つまりどういうことかと言えば……すっごくお風呂に入りたい!


「いいですね! 行きましょう!」


 思わず大声になってしまって、みんなをポカンとさせてしまった。ただ、オードさんだけは同志を見つけたって顔で肩を叩いてくる。


「さすがはロイ! お前ならわかってくれると思ったぜ!」


 本当かなと思いつつも、余計なことは言わずニコニコ頷いておく。そうなると、特に反対する人もいないから、夕ご飯前に浴場に向かうことになった。やったね!


 浴場は街の中央辺りにあった。かなり大きな建物で、出入りも激しい。人気の施設みたいだね。


 中に入るとすぐにまた、2つの出入り口とぶつかった……のはいいんだけど、既視感のあるものを見つけちゃった。


 暖簾(のれん)だ。左右の出入り口に独特のマークが描かれた暖簾がかかっている。まるで、前世の温泉宿みたいに。


 でもまぁ、暖簾くらいはあってもおかしくないか。作るのが難しいわけでもないし、偶然似たようなものができる可能性は十分にある。


「ここからは男女別だ。こっちが男用、向こうが女用だ」


 オードさんが暖簾を指さしながら告げる。まぁ、これは予想通り。その言葉通りに二手に分かれた。オードさんと僕とライナが左、イリスさんとルクスとレイネが右だ。


「おい、ルクス! お前はこっちだぞ」

「いや、俺は……」


 オードさんの指摘にルクスが困った顔をする。ので、僕とライナでオードさんをグイグイ押した。


「何も間違ってないよ」

「ルクスは女の子だよー?」

「はぁ!?」


 まぁ、驚く気持ちはわかるけどね。普段から服装も言葉遣いも男っぽいから。でもまぁ、スラムではいろいろあるんだ。


 とはいえ、もうスラムを出たんだし、女の子っぽい格好をしてもいいとは思うけどね。いずれにせよ、ルクス次第だ。

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