27. また何かやったな?
次の日、エッダさんのお店で因子付与の仕事をして宿屋に戻ると、昨日と同じく食堂にオードさんがいた。偶然ではなくて、僕を待っていたみたい。
「おい、今から行けるか? 魔法の訓練をやるぞ!」
「え、ええ? 昨日の今日ですよ? 知り合いの人の都合はいいんですか?」
「問題ねぇ。話はつけた。とうせアイツも暇してるんだ」
なんでも、知り合いっていうのはオードさんのパーティメンバーらしい。朝のうちに話をつけにいったんだって。オードさん、やる気だね!
食堂にはすでにルクスの姿もある。それどころか、ライナとレイネまで。
ルクスは少し困り顔。一方でライナとレイネは梃子でも動きませんって顔つきだ。
「ライナとレイナもついてくるって?」
「ああ。まぁ冒険者登録のときは置いていったからな……」
「今度はレイネも行くからね!」
「ライナも!」
いや、別に意地悪したわけじゃないんだよ。冒険者登録ができるのは10才からなので、仕方がなかったんだ。二人もそれは理解しているはずだけど、それはそれとして仲間外れは嫌みたい。
「いいんですか?」
「まぁ、いいんじゃねぇか?」
念のために聞いてみたけど、オードさんは気にしてないみたい。
問題は教えてくれる先生がどう思うかだけど……まぁ、オードさんの知り合いなら大丈夫か。何かあってもオードさんが取りなしてくれるよね。
正式に許可出て、ライナもレイネも大喜びだ。
「わーい」
「やったー!」
「「ありがとう、オードおじさん」」
「お兄さん、だろ!」
「「きゃー!」」
「ほら、ふざけてちゃ駄目だよ」
「「はーい」」
最近のオードさんは髭を剃っているから、以前ほど老けて見えない。双子のあれは、からかって遊んでるだけだ。ライナとレイネはわりと人見知りなんだけど、仲が良くなると遠慮がないからなぁ。
さて、双子のおふざけでちょっと時間をとってしまったけど出発だ。訓練は街の外でやるみたい。オードさんについて、街の門をくぐった。出るときは審査みたいなことはしないんだね。特に呼び止められることもなく素通りだった。ちゃんとした門を使って外に出たの、初めてだよ。
「お、いたいた。おーい、イリス!」
「遅い! ……って、えっ誘拐!? 考え直しなさい、オード!!」
「誰が誘拐犯だ、こらぁ!?」
オードさんの知り合いはイリスさんと言うみたい。魔法使いらしくローブに杖という出で立ちだ。年はたぶんオードさんと同じくらいかな。
誘拐なんて単語が飛び出してきてぎょっとしたけど、どうやらオードさんが僕らを連れ去ろうとしていると勘違いしたみたい。
「オードさん、魔法の訓練の話、してないんですか?」
「いや、したぞ! したよな?」
「聞いてないんだけど! 急ぎ頼みがあるから、草原に来いってだけでしょ、あんたが言ったのは!」
「そうだっけ……?」
これはオードさんが悪い……かな? 用件を伝えずに呼び出したみたい。そこに4人の子供を引き連れてきたら……いや、さすがに誘拐って発想にはならない気がするけど。
「ええと、それでアタシはこの子たちに魔法を教えればいいの?」
「俺にもな」
「オードにも? あんた、魔法の才能はなかったって言わなかった」
「事情が変わったんだ」
「はぁ?」
イリスさんは怪訝な表情をしていたけど、とりあえず基礎的なことは教えてくれることになった。
まずは簡単に自己紹介をしてから、注意事項の説明だ。
「いい? 魔法っていうのは素質がないといくら頑張っても使えないの。アタシが才能なしと言ったら素直に諦めなさいね?」
「まぁその辺は説明してある。問題ないから、さっさと進めてくれ。あ、水の魔法から頼むな」
「ふーん?」
オードさんは僕らの事情を知ってるから、簡単に流そうとする。イリスさんはその様子を訝しんでいたみたいだけど、結局何も言わずに訓練に入った。
「ざっくりと説明するからね」
子供が4人だからか、イリスさんは本当にざっくりと説明してくれた。要は体の中にあるマナと呼ばれるエネルギーを様々な属性に加工して放出するのが魔法なんだって。
短い講義だったけど、双子がソワソワしてきたのですぐに実践トレーニングに入る。
「で、できたぞ!」
まず、最初に成功させたのはルクスだ。“水霊の加護”があるからだろうね。宙に浮かせた水球をみるみるうちに大きくして、イリスさんを驚かせた。
「できたー!」
「ライナもできたー!」
次にライナとレイネが同じくらいのタイミングで魔法の発動に成功。ルクスほど出力は強くないけど、それでもうまいこと水球を作っている。
「あ、できた」
僕も少し遅れて、使えるようになった。マナの動かし方さえ掴めればすぐだ。
「ぜ、全員が魔法の素質を持ってるの? しかも、こんなに早く魔法を使えるようになるなんて……」
因子のことを知らないイリスさんはビックリ仰天しているね。
一方、未だ魔法を発動させることができないオードさんは、焦るでもなく、呆れ顔だった。
「これが若さ……じゃねぇよな。同じ適性とは思えねぇ。ロイ、お前また何かやったな?」
まぁ、気づくよね。




