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22. 真夜中の来訪者を撃退します

「おい、起きろ。嫌な気配がする」


 ルクスの声で目が覚める。部屋の中は真っ暗。すぐ近くにいるはずの、ルクスの顔もよく見えない。


 昨日はみんなでくっついて寝たので、近くにライナとレイネの気配もある。二人は僕と同じで、今、目を覚ましたみたい。


「どうしたの?」

「……たぶん、誰かが近づいてくる」


 根拠もない曖昧な言葉だったけど、疑う理由はない。ルクスはスラム暮らしが長いし、直感で何かを感じ取っている可能性が高い。


「ここが目的?」

「それはわからない」


 真夜中の訪問者なんて、絶対にろくなものじゃない。できればやり過ごしたいところだ。でも、ここが目的地なら、じっと待っているのは悪手だ。


 どうしたものかと考えていると、ガラスのない窓越しにうっすら赤い光がちらつき始めた。同時になにか罵るような声が聞こえてくる。


「――邪教――ぶっ殺し――――!」


 聞き取れたのは断片的だったけど、それだけで訪問者の正体も目的もわかった。トンガさんだ。あの人が僕に復讐しに来たんだ。


 ミルケ茸に毒を盛ったことがバレたわけではないはずだ。因子の付与を見破られるとも思えない。


 でも、たぶんそんなことは関係ないんだと思う。あの人は、混沌神の信徒を深く恨んでいる。何か悪いことがあれば、そのことを僕と結びつけるだろう。証拠があるとかないとか関係なしに。


 そんなこと、簡単に予想できたのに。僕は……軽率だった。恩寵を授かって調子に乗っていたみたいだ。


「ごめん。トンガさんだ。狙いは、きっと僕だよ」

「あぁ、あのミルケ茸か」


 暗闇の中で、ルクスが笑う気配がした。


「うん、たぶんそう。だから、自業自得だ。みんなを巻き込むのは悪いし、僕が出て行けば――」

「おい、待て」


 ルクスが僕の手を掴んだ。


「お前、自分一人で出ていくつもりか。あの様子じゃ無事ですむとは思えないぞ」

「そうかもしれないけど……みんなを巻き込むわけにはいかないから」

「馬鹿か。巻き込むって言うなら、俺は共犯だろ。あれに何か仕込まれてるのは気づいていたんだから」

「いや、でも……」

「いいから、聞け」


 僕の手を握る力が強くなる。寝る前に見せた甘えん坊の気配はすでにない。いつものルクスだ。


「自分が言ったことを忘れたのか? 俺たちは家族なんだろう? このまま行かせるわけないだろ。なぁ?」

「そうだよー」

「ロイ、一緒!」

「……っ」


 ルクスだけじゃない。ライナとレイネにもそう言ってもらえて、目頭が熱くなる。


 あ、あはは。これは……ちょっと不意打ちだ。涙が溢れそう。今が夜で……真っ暗で良かったよ。


「そっか。そうだね。僕が間違ってた」

「わかったならいい。どうせスラムを出るつもりをだったんだ。ちょうどいいタイミングだろ」

「そうだね。そうしようか」


 僕らは闇の中で、トンガさんを待ち伏せた。灯りはすぐそこまで来ている。呟いてるのか、怒鳴ってるのかよく分からない声量で喚き散らしてるから、接近を知るのは簡単だ。


 そして、そのときが来た――――


「ゴラァァア! 邪教徒めが! 殺してやる……殺してやるからな!」


 部屋に飛び込んできたトンガさん……いや、トンガはランタンを掲げて、部屋を見回す素振りを見せる。だけど、僕らを見つけることはできないみたいだ。


「ああん!? ガキどもどこに行きやがった!」


 入り口そばの壁に張り付いてるだけなんだけどね。怒りで視野が狭まっているのか、背後にいる僕らに気づけないでいる。予想以上にうまくいった。


 このままこっそり出ていくこともできそうだけど、それだけで済ます気はない。大人と子供では移動速度に差があるからね。気づかれて追いつかれるのがオチだ。足止めの策を考えないと。


 僕にできることと言えば――――もちろん、因子の付与だ!


「……な、なんだ? どうなってる!!」


 付与がうまくいったようで、トンガが怒声とも悲鳴ともつかない声を上げる。


「今だよ!」

「なにぃ!?」

「「どーん!」」

「がぁ!?」


 掛け声とともに、僕と双子が突進した。


 トンガには、“脆い”を付与してある。対して、僕ら“硬い”&“頑丈”で防御力アップ状態。体格差はあれど、不意を突かれたこともあってトンガには耐えられなかった。態勢を崩し、よろめいている。


 そこに――――


「取った!」


 ルクスが迫り、その手からランタンを奪い取った。


「逃げるぞ!」

「うん」

「「はーい」」


 すかさず反転。これで足止めは十分だ。


「くそが! 何をしやがったガキども! ぶっ殺してやるからな! 待ちやがれ!」


 背後から罵る声が聞こえる。でも、そんなこと言われて待つわけないよね。


 無視して走ると、声はだんだん小さくなっていく。どうやらうまく撒けたようだ。


「何をしたんだ?」

「“弱視”を付与したんだ」

「ああ、俺の……そりゃランタンなしじゃ走れないな」


 ただでさえ暗くてよく見えないのに、弱視で視力がさらに落ちてる。今のトンガは真っすぐ走ることすらおぼつかないだろう。


 こんなことになるとは思わなかったから、“弱視”はコピーしそこねたけど、使い惜しんで不利になるよりはいいよね。


 こうして僕らはスラムを出た。住む場所を失ったけど、不思議と清々しい気分だ。みんなも同じ気持ちなのか、誰ともなく笑い出す。


 ちょうど登り始めた太陽が僕らの未来を祝福しているような気がした。


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