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1. 振り返ればギャルがいた

「ほら、行ってこい。恩寵(ギフト)を授かったら戻ってくるんだぞ。逃げたらわかってるだろうな?」


 そう言って僕の背中を押したのは、チンピラみたいな見た目の男。みたいなというか、純度100%のチンピラだ。僕は心の中でピラさんと呼んでいる。チンピラのピラだ。


 ちなみに本当の名前は知らない。きっと、向こうもそうだろう。一応、ロイって名前は伝えたんだけど、一度も呼ばれたことはない。いつも“おい”とか“お前”とかだ。


 ピラさんはスラム街に流れてきた僕を拾って世話してくれた。世話と言っても寝床を用意して、しばらくの間、粗末な食事を用意してくれたくらいだけども。それでも、僕が生き延びられたのは、きっとピラさんのおかげだ。


 だって……スラム街、思ったよりもヤバいところだったし!

 普通に死体が転がってるし!


 たぶん、ピラさんが保護してくれないと、早々にその仲間入りをしていたんじゃないかと思う。今もよくわかってないけど、スラムには複数のギャング団があって、縄張り争いが激しいらしい。


 ピラさんは特別に強い権力を持っているわけではなくて、とあるギャングの下っ端だ。僕はその庇護下に置かれているという扱い。


 ろくでもない環境だ。敵対組織との抗争に巻きこまれて死んでしまう可能性だってある。それでも、無所属でいるよりは安全なんだよね。一応、ギャング団にも面子(メンツ)ってものがあるから、庇護下の人間に手を出されれば反撃する。それが一種の抑止力になるっぽい。意味もなく手を出して手痛い反撃を食らうよりは、放置しておこうってわけだ。


 下っ端の庇護下にある子供一人が殺されたところで、大した報復はしないだろうけどね。そういう意味ではどこまでの当てになるかわからない。それでも、何の庇護もないよりはマシだ。


 そもそもスラム街には無所属の人なんてほとんどいないけどね。数日のうちに、どこかに取り込まれるか、冷たくなって転がっているかだ。死体の仲間入りをしなくて済んだだけ、僕は運が良かった……と思いたいね。



 ピラさんはある意味で僕の命の恩人……なんだけど、感謝する気にはいまいちならない。天井のある場所で眠れるのはありがたいけど、殴るは蹴るはで扱いが悪いんだ。殺すつもりはないのだろうけど、暴力で従わせようとする意図を感じる。まぁ、チンピラだからね。


 それに、ピラさんは僕を利用する気満々だ。当然か。チンピラが慈善事業で子供を助けるわけがないよね。


 彼の狙いは僕が授かる予定の恩寵(ギフト)だ。恩寵は、その名の通り、神々からの贈り物。10才以降、“神授の儀”という儀式を受けることによって授かる。ある人には武器を上手く扱える才能を、またある人にはその人だけが使える不思議な道具を、といった感じで、恩寵の内容は人それぞれ多種多様。基本的には便利なものが多くて、上手く利用できれば大きな力になる。


 要するに、僕の恩寵が強力なものだったら、それを利用してギャング団で成り上がろうって腹なわけだね、ピラさんは。


 というわけで、僕は恩寵を授かるべく、連れ出されたのです。目的地は、街外れの広場。一応この辺りはスラム街ではなく、正規の市民が住む区画だ。


 だからまぁ、僕の格好は目立つ。全身でスラムの住人ですって主張するような格好だから仕方がないね。ピラさんも僕を押し出すとそそくさと去って行ったよ。


 広場には人集りができている。そのほとんどは子供たちだ。彼らも僕と同じ目的……つまりは恩寵を授かりにきたってことだと思う。


 本来、“神授の儀”を受けるには神殿を訪れて寄付金という名の費用を支払う必要があるんだって。でも、今日の、この場に限っては誰でも無料で受けられるらしい。


 たぶん、この場合の“誰でも”は“貧しくて寄付金を支払えない市民でも”という意味だと思うけどね。だけど、スラムの住民が駄目とも言われていない。だから、便乗して恩寵を授かってしまえっていうのがピラさんの指示だ。まぁ、恩寵が授かれるなら僕も異論はないけどね。


 とはいえ、どうすればいいのかな。儀式を受けろとだけしか指示されてないから、その後の動きがわからない。誰かに聞ければいいんだけど、僕が近づくとみんな逃げちゃうし。


 まぁ、仕方がないことだ。スラムの住人に関わっていいことはないし。たとえ、子供でもね。


 スリなんて可愛いもので、僕と同じくらいなのにナイフを振り回す暴れん坊もいる。そういうのは長く生きられないって話だけど。


 僕はというと、流れてきたばかりだし、ちょっとした事情があってまだ染まってはいない。とはいえ、他の人から見て区別なんてつかないだろうからなぁ。


「キミキミ。いったい、どしたの?」

 

 途方に暮れていると、声をかけられた。聞き覚えのない女の人の声だ。


 え、これ、本当に僕が声をかけられたのかな?


 だって、僕、この街に知り合いなんていないはずだよ。見知らぬスラムの子供に声をかけるなんてありえないとまでは言わないけど、普通はない。そう考えれば、誰か別の人に声をかけたのかなと思うところだけど……でもわざわざ隣に立って声をかけてきたから、さすがに僕に向けられた言葉だよね。


 意外に思いつつ振り向くと、そこには――――ギャルがいた。

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