18. 無駄遣いではないのです
「それで、食べ物を買い込んできたのか」
「すみませんでしたー!」
僕はルクスたちを前に渾身の土下座を披露していた。謝罪理由は共有財産の使い込みだ。リッドさんにもらった大銅貨10枚が不思議なことに消えちゃったんだよね。
狐につままれたみたい。いや、買った商品が動かぬ証拠として存在しているから、不思議でも何でもないんだけど。僕がついつい買いすぎちゃっただけなんだけど。
ちなみに、この世界に土下座はない……とは断言できないけど、少なくともこの辺りでは一般的ではないみたい。でもいいんだ。僕にとって、これが最大限の謝罪を表現する手段だから。
ひとしきり頭を下げてから、恐る恐る顔を上げた。みんな怒ってはいないね。ライナとレイネなんて食べ物に視線が釘付けだ。僕のことなんて見てもいない。
ルクスはというと呆れ混じりの困り顔だ。
「そこまで大袈裟にしなくても。そもそも、ほとんどロイが稼いだようなものなんだから、好きに使えばいいと思うぞ。いや、まぁ、全部を食べ物に使うとは思わなかったが」
いや、本当に。なんで食べ物しか買ってないのかな? それは目に入る美味しそうなものを次々に買い込んだからです。
違うんだよ。僕が食いしん坊とかいう話ではなくて、みんなが欲しがるものは何かなって考えた結果なのです。仕方ないね。みんな、美味しいものが好きだからね。
でも、一つ訂正しておかないと。
「モルックの実はほとんどルクスが集めたものだし、因子を増やすアイデアはライナとレイネが教えてくれたわけだから、僕の力だけで稼いだっていうのは違うよ。僕なんて因子くっつけて甘くしただけだし」
「いや、それが一番肝心なところだと思うが。売ろうと考えたのもロイだしな」
うーん、そうかな。そうだとしても、みんなの成果だと思うな、僕は。
「ま、俺たちに相談しても買うのは食べ物だろうし、いいんじゃないか。また売れたら、今度はみんなで使い道を考えよう。宿のおじさんは、また買ってくれるって言ったんだろ?」
「リッドさんね。たぶん、買ってくれると思うよ。まぁ、お客さんの反応次第だとは思うけど」
「じゃ、謝罪はこれでおしまいだ」
「うん、ごめんね。ありがとう」
ルクスたちはあまり気にしてないみたいだから、長々と謝り続けても迷惑だね。土下座形態はここで解除だ。
「おいしそー!」
「食べていーい?」
謝罪タイムが終わったと判断したのか、大人しくしていた双子がワイワイ声をあげた。僕の土下座中もそわそわとして、落ち着かなかったものね。お待たせしました。
ルクスと目を合わせて頷き合う。
「もちろん、いいよ」
「さあ、食べよう」
「わーい」
「どれから、食べよう……!」
普段はまともなもの食べてないから目移りしちゃうよね。我ながら、よくつまみ食いしなかったと思うよ。前世の記憶がなかったら、たぶん耐えられなかったね。
まずは、串焼き肉。屋台が並ぶ通りがあって、そこで良い匂いをさせてたので、思わず買いました。お値段は一本大銅貨1枚也。これはまぁ、串焼きとしてはそこそこのお値段。他の屋台にはもっと安いところもあったけど、あえてそこで買った。
僕の他にもお客さんがたくさんいたから、人気店なんだろうね。たぶん、店主の腕がいいんだ。おかげか、良い因子が手に入ったよ。
◆絶品◆
食べ物に付与された場合、高評価を得やすくなる。
高評価を得るだけなら、味は変わらないのかな? 食べ比べてみないとわからないね。でも、モルック粉につけるには悪くない因子だ。それを使った料理にまで引き継がれるかどうかは分からないけどね。
ちなみに、お肉は跳び鼠っていう魔物の肉なんだって。魔物分類ではあるけど、とても弱いらしい。冒険者じゃなくても普通に駆除できるって聞いた。お味は可もなく不可もなくだけど、とにかく安く仕入れられるから、庶民の強い味方なんだって。
次は、果物。ルル柿という……まぁ、前世の記憶そのままの柿だね。とびきり甘いって触れ込みで、なんと1個大銅貨5枚もした。高いよ!
1個しか買えなかったから、四等分だ。
「「「甘い!!」」」
「そうでしょー」
一斉に齧ったルクスたちは、感想まで揃った。ふふふ、予想通りの反応だ。なにせ、このルル柿、“甘味アップ”のLv5が付与されてたからね。他のは高くてもLv2だったから、これは買いだと思ったんだ。まぁ、買わなくても因子は手に入るんだけど……せっかくだからね!
もちろん、枝ポキ方式で因子はコピーしてある。これでモルック粉がさらに甘くなるよ。
おっと、考えてないで僕も食べよう。双子の目が獲物を狙う猛獣みたいになってる。
「あっ!」
「ロイ、食べたー!」
そりゃ食べるよ。
お、本当に甘いね。前世で食べた柿と遜色ないかも。良い買い物をしたなぁ。
なんと、串焼きとルル柿で大銅貨9枚を使っているんだよ。気づいたときには慌てたよね。
でまぁ、大銅貨1枚残しても仕方がないかなと思って。だから、追加で大きめのパンを一つ買いました。財布代わりに袋を買う予定も無かったことに。だって、残金ゼロだもの。必要ないよね。
まぁ、でも悪い買い物ではなかったと思う。甘味モルック粉をクオリティアップさせるための先行投資だと思えばね。
明日はみんなで宿屋に行こう。リッドさん、きっと驚くぞ。




