17. 硬貨にも因子
リッドさんはモルックの実一つあたり大銅貨1枚で買い取ってくれた。全部で大銅貨10枚の売り上げになる。試食用に使った2個の分まで支払ってくれたから嬉しいやら申し訳ないやらだ。
大銅貨1枚はちょっとしたお駄賃くらいの価値だけど、モルックの実一つの価値としてはかなりお高い。モルックの実って、その辺りで簡単に拾えるものだから、基本的に値段がつかないんだ。10や20のまとまった数を持ち込んだら、それこそお駄賃に大銅貨一枚もらえるかもってレベル。そう考えると、リッドさんは大盤振る舞いだ。
特製モルック粉にそれだけの価値を見いだしてくれたというのならいいんだけど、僕らを支援するために高値をつけたとかだったら申し訳ない。今度、その辺りのことをちゃんと話そう。
「大銅貨はえっと……10枚で小銀貨2枚だったかな?」
実はその辺り、僕の記憶では曖昧だ。何か微妙にややこしかった記憶はあるんだけどね。
たしか、この国で一般的に流通している通貨は6種類だったはず。価値の低いものから並べると、銅貨、大銅貨、小銀貨、銀貨、小金貨、金貨だ。銅貨5枚で大銅貨1枚なのは覚えてる。そして大銅貨5枚が小銀貨1枚だ。でも、銀貨は小銀貨4枚と等価なんじゃなかったかな。4倍と5倍が混ざってややこしかった記憶がある。
まぁ、スラム住人にとって関係があるのはせいぜい小銀貨までだよね。あまり気にしなくてもいいかも。
「あ、そうだ」
せっかく珍しいものを持っているんだから、やっとこう。因子チェックです!
「ほほう」
今までチェックしてなかった素材だからか、見たことのない因子ばかりだ。
・劣化(Lv2)
・手に馴染む
・劣化(Lv1)
・年代物の風格
・打撃耐性(Lv1)
・劣化(Lv2)
・劣化(Lv3)
・年代物の風格
・呪力を帯びる
・劣化(Lv1)
◆劣化◆
劣化により品質が低下する。
如何なる劣化を引き起こすかは対象による。
劣化具合はレベルによる。
◆手に馴染む◆
道具に付与された場合、扱いやすくなる。
◆年代物の風格◆
物品にある種の風格が備わる。
◆打撃耐性◆
物理的な打撃に強くなる。
耐性強度はレベルによる。
◆呪力を帯びる◆
呪いの触媒として使用したときに、その効果を向上させる。
古い硬貨だから半分くらいは“劣化”だった。これがなかなか面白くて、因子を取り除くと緑青だらけの硬貨が瞬間的に綺麗になるんだよね。で、戻すとまた緑青だらけになる。因子がないと、緑青が浮かないとか、黒ずんだりしないとか、そんなことはないんだけどね。因子がつくと、劣化が数割増しになるって感じかな。
まぁ、実験的には面白いけど、使えるかと言えば微妙だね。悪さはできそうだけど、平和利用には向かないと思う。
当たりは“打撃耐性”と“手に馴染む”くらいかな。残り2つはよく分からない。“年代物の風格”は硬貨の色艶に関係してそうだけど、たぶんそれだけ。“呪力を帯びる”は呪いなんて不吉な言葉があるから見なかったことにしたい。
とりあえず、“打撃耐性”と“手に馴染む”、おまけで“劣化”のレベルが高いのをストックしとこう。
■ストック中の因子■
・虫除け
・安らぐ香り
・脆い(Lv2)
・甘味アップ(Lv2)
・優れた薬効
・バランス栄養食
・弱視(Lv4)
・打撃耐性(Lv1)〈new〉
・手に馴染む〈new〉
・劣化(Lv3)〈new〉
うーん、ストック枠がいっぱいだ。いざとなったら、服とかその辺りのものに移せばいいんだけど、意外と移し替えが面倒なんだよね。もうちょっとストック枠が欲しい。
ええと、今のGPは幾つかな?
■現在の保有GP:10
お、増えてる。たしか、前に見たときは7だったから、3プラスだ。タイミング的に、リッドさんと話しているときに増えたのかな。でも何か常識を壊すこと、したっけ? まぁ、いいや。
この10GPで枠を増やせないかな。ついでにストック上限と現在値が見れるようになれば嬉しいんだけど。
どうかどうか、お願いします。はい、お祈りヨシ!
■現在の保有GP:0
■ストック中の因子■(10/20)
おお、ぴったりで強化できたみたい。枠数表示もされるようになった。追加は10枠か。もうちょっと欲しいな。
まぁ、GPがあれば増やせるんだから、わがまま言っても仕方がないよね。地道にGPを増やさないと。やっぱりどこかで“水霊の加護の本当の使い方、教えます!”講座をしたいところだ。人が集まるところと言えば……冒険者のギルドかな?
それはさておき、このお金はどうしよう。モルックの実はみんなで集めたものだから、僕一人で使うってわけにはいかないよね。使うにしても、みんなで相談したいところだ。
でも、このまま持ち帰るのも怖いんだよねぇ。大金と言うほどではないけど、スラムで持ち歩くには怖い額だ。少なくとも、何かで隠したい。財布代わりに、どこかで袋でも買えないかな。
ついでだ。みんなへのお土産も買っていこう。無駄遣いはよくないけど、少しくらいはいいよね?
さぁ、何を買おうかな?
ふふふ、買い物する機会なんて滅多にないから楽しみだ。




