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152. 亜空間収納

「おい、どうなんだ?」



 因子を確認している僕を急かすように、オードさんが覗き込んでくる。結果が気になっているみたいだ。まぁ、気持ちはわかる。僕だってドキドキしてるからね。


「もうちょっと待って。因子の説明を見てみるから」


 オードさんに答えながら、詳細をチェックしていく。



◆亜空間収納◆

位相の異なる空間に任意の物体を収納できる。

収納量はレベルによる。


 位相っていうのはよくわからない。でも、空間に荷物を収納できるってことは、つまりそういうことだよね?


「あったよ! たぶん、これがマジックバッグの因子だと思う!」


 思わず大きな声になっちゃった。だって、仕方ないよね。マジックバッグだよ。


 僕の言葉を聞いたオードさんは手で顔を覆うと天を仰いだ。


「マジかよ……」


 信じられないという反応だ。でも、その気持ちもわかるかな。


 マジックバッグの機能にまで因子が関わっているとは思わないよね。僕だって、もしかしたらって程度の気持ちだったもの。


「コ、コピーはどうですの? できますの?」


 エリザさんが期待を込めた声で聞いてくる。他の面々も固唾を飲んで僕を見つめている。


 そう、そうだ。僕に複製できるかどうか。それが重要だよね。


「たぶん、できると思います。ただ……」


 僕はちょっぴり言葉を濁す。固有因子じゃないから、コピーはできると思うんだ。けど、少しだけ懸念もある。


 もともと、僕の恩寵は一度取り込まないと複製できなかった。今は取り込まずともコピーできているけど、ひょっとしたら見かけの上でのことかもしれない。


 一つの操作で実現できているように見えるコピー能力だけど、実際には複数操作を連続でやってるだけって可能性がある。①取り込み、②ストック内でコピー、③因子を付与という3操作かな。その場合、因子を取り込んだ時点でマジックバッグ――形は瓢箪だからバッグって呼び方はおかしいけど、あくまで魔道具の分類だ――の機能は失われるはず。そうなると、中に収納されている物がどうなるかわからない。


「あー……たしかにね」


 懸念を説明すると、イリスさんがふむふむと頷く。ルーグさんもなるほどと唸った。


「一時的に機能を失ったとしても元には戻せるんだよね?」

「それは、たぶん」


 イリスさんに答えてから、“亜空間収納”の説明を伝える。


「ルーグたちの魔道具だから判断は任せるけど、元に戻せるならやってみてもいいんじゃない?」


 イリスさんはコピーに賛成みたい。


「まぁ、消えて困るようなものは出しておくべきだな」


 注意はしたけど、オードさんも賛成。


「大したものは入ってませんし、やってみてもいいんじゃありませんの?」

「そうですね」


 ルーグさんとエリザさんが視線を交わして頷く。エリザさんがマジックバッグの口から何かの指輪とか短剣とか、一部の大事なものだけを取り出して、僕に手渡してきた。


「じゃあ、やってみるね」


 少しドキドキしながら、僕は因子のコピーを実行する。


 結果として、コピーはすんなりできた。中の物をぶちまけたりせず、確かめてもらったら中身も消えてなかった。どうやら杞憂だったみたい。


「できました」


 思わず息を吐く。みんなも緊張してのか、ため息が重なった。


「それで、付与はできるのかしら?」


 エリザさんの言葉に、僕ははっとする。そうだよね。それが、重要だ。


「やってみます」


 何に付与しようか。まぁ、何でもいいか。

 

 目についた石ころを拾って、因子を付与してみる。


 ……ん、あれ?


 因子は付与できたはず。だけど、手応えがない。


 この感じは覚えがある。食品にのみ効果を発揮する因子を食品以外に付与したら、こんな感覚になるんだよね。


「どう?」

「できたー?」


 ライナとレイネがわくわく笑顔で尋ねてくる。僕は苦笑いでその二人に首を振った。


「石に付与してみたけど、駄目みたい。付与はできたけど、効果が発揮されている感じじゃないよ。たぶん、対象外だと思う」

「「えー!」」


 ライナとレイネは残念そうに肩を落とした。けど、すぐにくすくす笑い出す。次はあれに付与しよう、これに付与しようと楽しげだ。


「マジックバッグというくらいだから、鞄しかだめなのかもな」


 ルクスが推測を口にする。


「鞄かぁ」


 ルーグさんのマジックバッグはどう見ても鞄じゃないけど……でも、収納口があって、中に空間があるってところは共通しているかな?


「じゃあ、これはどうだ?」


 オードさんが革袋を差し出してきた。小物入れみたいな、小さな革袋だ。


「試してみるね」


 革袋に触れて、因子を付与する。今度は手ごたえがあった。たぶん、うまくいってるはず。


「できたと思う」

「お、おお……」


 オードさんがまじまじと革袋を見る。因子の影響なんて見た目じゃわからないと思うけどね。


 いつまで経っても試そうとしないオードさんに痺れを切らしたのか、イリスさんがその手から革袋をひったくった。そして、その辺りの石に向ける。すると、石は革袋に吸い込まれていった。


「できてる……」


 イリスさんが呆然と呟いた。


 実験は成功だ。袋状のものなら付与できるみたいだね。


「マジックバッグが量産できるじゃねえか」

「しかも、好きな物に付与できるなら偽装もしやすいよね」

「わたくしたちの物はレベル5という話ですわよね?」

「最大レベルではないのなら、もっと収納量を増やせそうですね」


 驚きから復帰したオードさんたちは、興奮した様子で話しはじめた。もちろん、因子をコピーさせてくれたオードさんたちには最大限便宜を図るつもりだ。きっと、冒険の役にも立つよね。


 一方で、レグザルとルーナは目を丸くしている。何が起きたのか、わからないって反応だね。そういえば、彼らにはまだ僕の恩寵について詳しく説明してなかったっけ。


『ああ。ロイは特殊な能力を持ってるんだよ』


 リックが説明してくれているから、そっちに任せよう。


 なんにせよ、便利な因子をゲットできたよ。やったね!

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