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148. ラーベルラのその後

 事件から3日。僕らはまだラーベルラの街にとどまっていた。


 領主が邪教徒と結託して街に被害を与えた今回の事件の影響はとても大きい。勇者という立場のトールさんは、動揺する住民たちを放置できなかったんだ。僕らもそれに付き合う形でここに残っている。


 討伐隊の一部はブルスデンへの報告がてら帰還した。けれど、多くのメンバーは冒険者も含めてこちらに残っている。その日の暮らしのイメージが強い冒険者だけど、高ランクになれば生活にも余裕ができるみたい。討伐隊に参加した冒険者は高ランクの人ばかりだから、困っている住人のために一肌脱ごうって人が多かったようだ。


 討伐隊メンバーは主に倒壊した建物の瓦礫の撤去や周辺の見回りをやってくれた。彼らの活動のおかげで、街は落ち着きを取り戻しつつある。


 とはいえ、それは比較的被害が軽かった人たちだけだ。火事によってけがをした人、身内や知り合いを亡くした人、住居を失った人たちは元通りの生活とはいかない。


 街の運営費用から見舞金でも出せればいいんだけど、肝心の領主が犯人の一人として捕らえられているから困ってしまうよね。勝手に街の運営費に手を付けるわけにもいかないので、金銭的な援助は見送られている。代わりに、各々ができる範囲で支援はしているけど。


 僕は付与術師のふりをしてけが人の治療をした。直接的な治療はできないけど、自己治癒能力を高める"溢れる生命力"を一時的に付与すれば多少は回復の役に立つからね。


 あとは、仮の住居を作ったりもした。ビネにも協力してもらって、土魔法で簡易的な建物を立てたんだ。土づくりだから扉もないような簡素なものだけど、壁があるだけでも助かると感謝された。


 ラーベルラの復興はまだ半ば。やるべきことはまだまだあるけど……


「とはいえ、いつまでもこうしてはいられないよね」


 すでに遠征期間は予定を大幅に超過している。僕はブルスデン開発特区の区長代理だから、長々と留守にするわけにはいかないんだ。それにきっとルクスたちも心配している。


「おーい、ロイ。いるか?」


 宿の一室でぼんやりと今後のことを考えていると、僕の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。この声はトールさんだ。


「いるよー。どうしたの?」

「いや、放ったらかしだったから、一応、師匠として様子を見にな」


 部屋のドアを開けると、トールさんだけではなくキースさんもいた。領主不在の今、街の運営は二人が代行しているような状況だ。忙しいはずだけど、わざわざ訪ねてきてくれたみたい。


 でも、ちょうど良かったかも。ブルスデンへの帰還も含めて相談してみよう。


「――というわけで、そろそろ戻ったほうがいいと思うんだけど」

「あー、まぁな。だが――」


 僕の話を聞いて、トールさんが言葉を濁す。そのあとをキースさんが引き継いだ。


「ロイ殿の事情はわかるが、できればもうしばらく力を貸して欲しい」

「僕の力ですか? 大したことはできてないと思いますけど……」

「そんなことはない。街の住人がまがりなりにも平静でいられるのは、君の存在が大きいんだ」


 キースさんが大げさなことを言う。けれど、話を聞いてみると、少しだけ納得もできた。


 今回の事件、大規模な火災に発展してもおかしくなかった。それに加えて、人々の不安を煽ったのが邪教徒の存在だ。しかも、街に火を放った邪教徒は住人の中にいた。他にもまだ潜んでいるのではないかと怯えているみたいだ。


 そんな状況で心の支えになるのが、“アライグマの神様”の存在なんだとか。火災を食い止め、今も街の復興に手を貸してくれている。街の住人からすると、神様に見守られていると感じられるんだって。


 で、その“アライグマの神様”の使徒が僕ってわけ。もちろん、誤解なんだけど今さら訂正もできない。いや、できなくはないけど、人々の希望みたいになってるから訂正しにくいというか。実は混沌神様の使徒なんですよって少しずつ軌道修正したいところだけど、今すぐはやめたほうがいいかなって思っている。


 あのとき、否定しなかったことでこんなことになるなんて。まぁ、混沌神様は細かいことは気にしないと思うけど。むしろ、面白そうだと気に入ってくれるかもしれない。


 ただ、現状を不服に思っている子もいるんだよね。


「チュチュウ!」

「う、うん。そうだね、アライグマの神様の使徒じゃないものね」

「チュウ!」


 抗議し、訂正を要求するのはビネだ。ただ、その要求もちょっとおかしい。アライグマじゃなくて、トビネズミの神様にしろって言ってる。そんなこと、僕に言われても困るんだけどね。


「あ、そうだ。結局、ターブルは見つかったの?」

「いや、まだだ。こうまで見つからないと、街を出たのかもしれないが」


 僕が尋ねると、トールさんが厳しい顔で首を振る。


 事件後にも、数人の邪教徒――“邪なる痕跡”を持つ人たちを捕縛している。その中にはターブルの仲間だったベンとザクもいた。ドルフと同じく"邪なる痕跡〈強〉"が付与されていて、錯乱状態だったので比較的簡単に見つかったんだよね。今は因子削除の影響で昏睡状態だ。意識を取り戻したら話を聞きたいところだけど、レグザルのように記憶が曖昧なら情報源としてはあまり役に立たないかもしれない。


 一方で、リーダーのターブルはまだ捕まっていない。どこかに潜伏しているのか、それとも街を出たのか。いずれにせよ、邪教徒の脅威が完全に払拭されたわけではないってことだ。


 同じように“邪なる痕跡”を付与されたまま、まだ見つかっていない人は他にもいそうだ。その辺りの調査はまだまだ追いついていない。


「だったら、僕は住人のチェックをしたほうがいいのかな?」

「そうだな。できれば、どこかの機会で住人を集めてやっておきたいところだ」


 僕の言葉にキースさんが頷く。たしかに、一人ずつ訪問して確認するってやり方は現実的じゃないよね。その辺りの段取りはキースさんに任せたほうが良さそうだ。


「区長の仕事は行政官に任せておけば問題ないだろ。問題はルクスたちだな」

「近いうちにラウル様へと使いを出す。そのときに、ルクスたちにも言伝を頼めばいいだろう」

「そうだな。それでいいか?」


 トールさんとキースさんが話を進めていく。二人もいつまでもラーベルラの統治に手を取られるわけにはいかないから、今後のことについてブルスデンのラウル様と相談するつもりみたい。そのついでにルクスたちにも連絡してくれることになった。それなら、ひとまずは大丈夫かな。

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