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147. 騒動の終焉と暗躍する者

『んがが……こ、このぉ、ぐわぉぉあああ!?』


 領主ロワクロの叫び声とともに、暴走したロボがまた別の建物に突っ込んだ。大質量が猛スピードで衝突すれば、その衝撃は凄まじい。壁は一瞬にして粉々になった。


 その様子を見て、オードさんがぶるりと体を震わせる。


「止めるったって、あれはヤバいぞ」

「正面からぶつかれば、わたくしたちも粉々ですわよ」


 エリザさんも顔をしかめて同意する。冒険者は一般の人よりも丈夫だけど、巨大ロボを止めるほどではない。そもそもサイズが違いすぎる。粉々になるかどうかはともかく、真正面からぶつかっても弾かれて終わりだろうね。


「僕がやってみるよ」


 やっぱり、ここは僕が出るべきだ。因子付与なら巨大ロボと接触する必要もないし、一瞬で終わるからね。高速で動くロボは視界に捉えるだけでも大変だけど、どこかに衝突した直後はしばらく動きを止める。その隙を狙えば因子付与は難しくない。


「わかった。だが、無理はするなよ」


 オードさんと視線を交わしたあと、トールさんが頷く。


 さて、問題は付与する因子だ。機械なので邪教の館のときと同じく"吸熱"は有効だと思う。でも、今回の暴走ロボは有人機だ。強力な吸熱効果を付与すると、操縦者にも影響が及ぶ。熱を吸われてちょっと寒いくらいならいいんだけど、短期間で周囲に霜が降りるくらいだからかなり危険だ。中の人が無事に済むとは思えない。


 黒幕っぽく現れたけど、領主は操られているだけの可能性がある。そうでなくとも情報を得るためには生かして捕らえたい。そういう意味では“吸熱”以外手段を取りたいところだ。


「うーん、そうだな。アレにしようかな」


 むむむと考えて、因子構成について考える。まぁ、欲張らなければやりようはある、かな。


――ドォォン!


 巨大ロボがまた建物に突っ込んだ。今度の建物は特に頑丈だったのか、完全には破壊できなかったみたい。頭だけが壁にめり込んで、巨大ロボはジタバタもがいていた。


 折しも絶好のタイミングだ。今しかない!


「よし、これで!」


 素早く巨大ロボに因子を付与する。抵抗されたような感じはない。確認してみると、しっかりと付与されている。


「何を付与したの?」

「ええとね――」


 尋ねてきたのはイリスさんだけど、他のみんなも気になっているみたいだ。手短に説明する。今回の付与したのは"自動修復(Lv10)"だ。もちろん、そのままではなく〈反転〉加工で付与した。


「自動修復の反転……自壊というところでしょうか」

「そうですね。ついでに“頑丈”の反転と、“脆い”もつけておきました」


 ルーグさんの呟きに頷きつつ、情報を付け足す。とても脆くなった上に、自動で壊れていくってわけだね。即効性はないけど、これなら確実にロボを破壊できる。


 本当のことを言うと、ちょっともったいないかなと思わないでもない。でもも、今はそんなこと言っていられないからね。どのみち暴走ロボじゃまともに運用できないし、ここは潔く諦めた。


「おぉ……たしかに壊れてるな」

「このまま、終わるならいいんだがな」


 トールさんとキースさんが、もがく巨大ロボを見て、そんな感想を漏らす。その言葉通り、幾つかパーツが落ちている。因子の効果はちゃんと発揮されているみたい。


 だけど、それが裏目に出た。頭がすぽっと抜けたんだ。頭のないロボはフラフラとしながらも、まだ動いている。


『……お……ぉぉ』


 スピーカーから聞こえる領主の声は弱々しい。あちこちに衝突しているから、体にかかる負担が大きいみたいだ。できれば、そのまま気絶して欲しかったんだけど、領主は無駄に根性があった。


『……ま、負けんぞぉぉ!』

「いや、俺たちも何もしてないけどなぁ」


 吠える領主にオードさんが突っ込む。けれど、すぐにその余裕もなくなった。


 偶然か、それとも根性で引き寄せた奇跡か。態勢を立て直した巨大ロボは僕らのほうに体を向けたんだ。


「お、おい、この方向だと……!」

「まずいですわ!」


 オードさんとエリザさんが慌てる。巨大ロボの異音混じりの駆動が大きくなっていく。このまま突っ込んできそうだ。


「っち、仕方がないな。壊すぞ!」


 トールさんが叫ぶ。手に持った剣が光を帯びた。勇者の力でロボを破壊するつもりみたい。ボロボロな装甲ならたしかに可能だろう。でも、その場合領主は無事ではすまない。


「待って! 魔法で壁を作るから」


 僕は慌ててトールさんを止めた。そして、魔法で岩の壁を作る。


「チュチュウ!」


 僕のやることを察したビネも協力してくれる。土魔法が得意なビネが協力してくれたことで壁は堅固になった。


 これなら!


「来るぞ!」


 オードさんが叫んだと同時に、大きな衝撃が壁を襲う。ビリビリとした振動が、壁の後ろの僕らにも伝わってくる。


「チュウ!」

「ビネ、頑張って!」

「チュワ!!」


 壁がピシリと音を立ててヒヤリとする。だけど、ビネがすぐに補修してくれた。従魔応援で出力をあげたことで、さっきよりも頑丈に仕上がったはず。


 そして、ついにロボの駆動音が止まった。


「ふぅ……止まったみたいだな」

「ほら、見て! 中から人が!」


 ほっと息を吐くオードさん。その隣にいたイリスさんが壁から顔を出して、声を上げる。どうやら、壊れたロボから領主が崩れ落ちてきたみたい。目を回したところを素早く確保した。


「因子は?」

「見てみる!」


 トールさんに言われて、因子をチェックする。それらしき、因子が見つかった。名前は“邪教の聖痕”だ。“邪なる痕跡”とは違うけど、関連はあるんだろうね。


 その証拠というわけではないけど、詳しく見る前に混沌神様がさっさと消去してしまった。まぁ、僕の役に立つとは思えないから、いいんだけどね。


 ともかく、これにて一件落着……なのかな?





 暴走するロボとそれに立ち向かう勇者一行の戦い。それを高みから見下ろす男がいた。


「ふむ。なるほど、あれが勇者と使徒、か。勇者よりも使徒の方が厄介だな」


 険しい顔で男が呟く。しかし、すぐに表情を緩ませた。


「多くの手駒を失った。しばらくは潜伏しなければならないな。だが……悪くはない。順調すぎてはつまらないからな。ふふふ」


 ひとしきり笑うと、男は視線を外して歩き出す。夜に飲まれ、男の姿は闇へと消えた。

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