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146. 暴走ロボ

 見える範囲は片付いたけれど、まだまだ安心はできない。領主館の中には"邪なる痕跡"を付与された人たちが潜んでいるかもしれないからね。衛兵はわんさかいたけど、それに比べると使用人の数は少ない。因子が付与されていないのならそれで構わないんだけど、こちらの油断を窺っている可能性もある。


「そうだ、領主様は無事なの?」


 思わぬ展開ですっかり抜け落ちていたけど、邪教徒の手が領主館まで伸びているのなら領主様が危険だ。僕の言葉に、オードさんたちは揃って渋い顔をした。


「まぁ……厳しいだろうな」


 オードさんが苦々しい口調で答える。それ以上に苦い顔でルーグさんは首を横に振った。


「厳しいといいますか、この状況ですと疑わしいのは――――」


 含みのあるルーグさんの言葉。だけど、その言葉が続けられることはなかった。遮ったのはイリスさんが鋭く発した声だ。


「待って。何か聞こえない?」


 ピタリと喋るのをやめ、みんなで耳を澄ます。少しして、エリザさんが頷いた。


「聞こえますわね。新手かしら」


 そう言いつつも、エリザさんは不思議そうに首を傾げる。それはそうだ。だって、聞こえてくるのは人の足音じゃない。ガシャンガシャンと硬質な金属がぶつかるような音だもの。


「おい、この音は……!」


 キースさんが顔色を変えて、傍らのトールさんを見る。トールさんも険しい顔で頷いた。


「ああ、そうだな。ロボの駆動音だ」


 そう。聞こえてくるのは、邪教の館で遭遇したロボット兵器を思わせる駆動音なんだ。おかし……くもないよね。邪教の館にあったロボは全て回収したけど、あそこに製造施設はなかった。どこか別の場所で作られているのなら、新たなロボを用意することだってできるはずだ。


――ドォオン!


 突如、屋敷の一部が爆発した。


 爆発はただでさえ、損傷が激しい建物にさらなるダメージを与えたようだ。全体が倒壊するようなことはないだろうけど、僕らがいる近くは壁に穴があいていて損傷が激しい。衝撃でポロポロと壁や天井が崩れて危険だった。


「何だ!?」

「わからん! とにかく距離を取れ!」


 僕たちは慌てて距離をとる。振り返ると。濛々と上がる粉塵の中から、巨大なシルエットが姿を現した。


『ははは! さすがは勇者トールといったところか。侮れない力をもっているようだな。雑兵では相手にもならないか』


 粉塵が少しずつ収まるにつれ、シルエットの正体が鮮明になった。やはりロボだ。だけど、邪教の館で見たものよりも一回り、いや、二回りは大きい。声はそのロボから聞こえているようだ。聞き覚えのない男性の声だ。


『あれは……まさかあんなものまで持ち出してきたのか!』


 レグザルがロボを見て驚いている。


「知ってるの?」

『あ、ああ。出力を上げた有人ロボを作ろうという動きはあったんだ。俺が知るかぎり、まだ実用段階ではなかったはずだが……』


 レグザルがロボを睨みつけている。どうやら出力の上がった最新機みたい。無人ではなく有人になったのはちょっとよくわからないけど。あ、いや、無人機だとレグザルみたいな脳内チップを仕込んだアラグー人に遠隔制御されるからそれを嫌ったのかな?


 ともかく、有人機であるからには、人が乗っているわけだ。パイロットは、さっき聞こえてきた声の主だろうね。


 そして、その正体は――――


「残念だよ。ロワクロ殿、まさか邪教徒と組んでいるとは」


 トールさんが残念そうに言った。どうやら声の主に心当たりがあるみたい。


 僕も名前を聞いて状況を察した。ロワクロと言えば、ラーベルラの領主だ。つまり、アレに乗っているのは領主本人ってことになる。


『くくく……何とでも言うがいい。私はこの力でこの国を支配するのだ。そうすることで邪教は邪教ではなくなる。あの方こそが、正当なる神となるのだ!』


 それが、邪教徒と組んだ理由?


 いや、ロワクロの声には狂信的なものを感じる。彼の言葉が真実なら、組んだというよりも元々邪教徒だった可能性が高い。


 それとも、これも"邪なる痕跡"の影響なんだろうか?


「ロイ殿。例の因子は?」


 キースさんが問いかけてくる。慌てて確認するけれど……残念ながら首を横に振る結果になった。


「ロボの装甲に阻まれて見えません」

「なるほど。直接視認しないと駄目なんだったか」


 そうなんだよね。因子が見えるのは、直接視界に入っているものだけ。だから、このままでは因子チェックができない。


「まぁ、やることは同じだろ」

「そうですわね! とりあえずぶっ壊しますわよ!」


 オードさんとエリザさんが武器を構える。


 たしかに、ね。因子があってもなくても、このまま好き勝手させるわけにはいかないもの。


『良いだろう! 圧倒的な力でねじ伏せてやる!』


 僕らが攻める前に、ロワクロが動く。尊大なセリフをスピーカーから響かせながら巨大ロボが地を蹴る。信じられないような急加速に僕らの反応は遅れた。ろくに動けない僕らを置き去りにして――――ロボは隣の建物に突っ込んだ。


「……え?」

「な、なんだ?」

「きゅう?」


 みんなが戸惑いの声を上げる。避けるまでもなく、見当違いのところに突っ込んだからそういう反応にもなるよね。みんなの視線がレグザルに集まった。


『……俺の覚えている範囲では、アレは試作機だった。記憶が朧気なので、ひょっとしたら改善されて実践投入されたのかと思ったんだが……』


 ああ、うん。どう見ても、改善された感じじゃないよね。どうやら、試作のまま投入されて暴走しているみたいだ。


『のわああ!』


 がれきの山から這い出てきたロボが再び別の建物に突っ込む。どう見ても制御できていない。


「何にしろ止めないとまずいよ!」


 イリスさんの言う通りだ。暴走状態でも街への被害は甚大。放っておいて良いことはない。


 とはいえ、あれを直接止めるのは大変だ。ここは因子付与の出番だね。


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