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145. 領主館には痕跡だらけ

 あれ? 良く見たら、僕の知ってる衛兵の人たちとは装備が違うな。どうやら衛兵は衛兵でも彼らは討伐隊のメンバーではないみたい。ラーベルラの街の衛兵ということかな。


 仲間割れじゃないようでひと安心……とはいかないよね。どちらにしろ、トールさんと戦っているんだから。


 なぜ、こんな状況になってるんだろう。交渉がこじれてしまったんだろうか。でも、だからって、いきなり戦いになったりはしないよね。 


 戸惑いながら状況を見守っていると、キースさんと目が合った。彼はホッとしたように表情を和らげると、対面している衛兵たちに視線を向ける。


「ロイ殿! 彼らの因子を見てくれ!」


 続く言葉は状況説明ではなくて、そんな要請。でも、その要請自体がある意味ではこの状況を作り出した原因をほのめかしている。


 まさかと思いつつ、僕は慌てて目の前の衛兵の因子を確認した。脳内ウィンドウに映し出されたのは、見覚えのある不穏な文字だ。



◆邪なる痕跡◆



「例の因子があります!」

「やはりそうか」


 キースさんが苦い口調で返事をする。


「そういうことかよ……」

「やっぱり邪教徒絡みですわね!」


 このやり取りで、オードさんたちも状況を察してくれた。トールさんに加勢すべく駆け出していく。リックたちと僕は、その場に留まる。護衛にはアイラグマ隊がいれば十分だ。


 敵はラーベルラの衛兵たち。だけど、因子で操られている可能性が高い。無闇に傷つけないように、慎重に戦う必要がある。そのせいで、トールさんたちは手間取っていたみたいだ。


「どうしてこんな状況に?」


 僕が聞くとトールさんは鞘に収めたままの剣を振るいながら答えた。


「わからん! 晩餐のときまではそれなりに丁寧に扱われていたが、突然これだ!」


 交渉は難航しているとはいえ、不穏な雰囲気はなかったそうだ。それが突然、襲い掛かられたという。


「兵長クラスまで敵に回っていて後手に回った! いきなり寝室を爆破されたときは少しだけ焦ったぞ」


 トールさんが苦笑交じりにそう言った。


 ということは、さっき聞こえてきた爆音の正体はそれかな。寝ているところを襲われるなんて、本当に危ないね。それでも無事なのはさすがだけど。


 ともかく、この状況をどうにかしないといけない。“邪なる痕跡”を付与された衛兵隊たちは何度も吹き飛ばされてるのに、一向に気絶する気配がない。もしかしたら、リミッターが外れているのかも。それでもトールさんたちにとっては容易にあしらえるくらいの強さだ。とはいえ、傷つけずに無力化するという条件だと厄介な性質だ。


 ここで有効なのが僕の因子チェックだ。チェックが済めば、混沌神様が自動的に"邪なる痕跡"を消してくれる。反動で対象はぐったりするので無力化もできるので一石二鳥だ。ただ、ひとりずつチェックするしかないから時間がかかるのが難点だね。


 最初に見た人の因子は"邪なる痕跡"だった。けど、そればかりではない。中には"邪なる痕跡〈強〉"の人もいる。というか、"邪なる痕跡〈強〉"の方が多いかもしれない。


「ぐげげげ! ぐげっ!?」

「きゅう!」


 僕らのほうに襲いかかってきた衛兵を水のハンマーで横合いから殴りつける。もちろんやったのはアライグマ隊だ。ついでに因子をチェックすると――――うん、やっぱり〈強〉のほうだ。


 〈強〉がついている人は明らかに言動がおかしい。こんな状態で長期間潜伏するのは無理だろうから、ドルフみたいに最近付与されたのかもしれない。


『わぁ!?』

『kiiyaaa!?』

『大丈夫か! ――このっ!』


 突然、リックとルーナの悲鳴が聞こえてきた。驚いて振り向くと、どこから現れたのかメイドとレグザルがもみ合っている。どうやら、レグザルは襲ってきたメイドから二人を守っているみたい。


「きゅ!?」

「きゅう!」


 慌てた様子のアライグマ隊が加わり、どうにか取り押さえることができた。



『びっくりした』

「きゅきゅう」


 胸を撫で下ろすリックに、申し訳なさそうにペコペコするアライグマ隊。どうやら、衛兵に気をとられて、メイドの接近を防げなかったみたいだ。


 メイドの因子を見ると、やっぱり“邪なる痕跡〈強〉”がある。どうやら、因子を付与されたのは衛兵たちだけじゃないみたい。


 ひょっとして、屋敷全体に"邪なる痕跡"がかけられているのかな……?


 嫌な予感がして、トールさんの因子を見る。予想に反して"邪なる痕跡"はない。ホッとしたのもつかの間。続けて、キースさんを見て背筋が冷えた。"邪なる痕跡〈進行〉"があったからだ。幸い、それもすぐに消えた。


「うっ……」

「キース! どうした?」

「ああ、いや、すまない。少しめまいがしただけだ」


 ふらついたキースさんを心配して、トールさんが駆け寄る。キースさんのめまいはおそらく、因子が消えたことが原因だ。


「トールさん、キースさんに"邪なる痕跡"がついてたんだ」

「なにっ! 大丈夫なのか!?」

「たぶん。〈進行〉状態だったから、本格的には付与されてたわけじゃないと思う。今はもう消えてるから、大丈夫じゃないかな」


 “邪なる痕跡”を消すと、大抵の人はぐったりする。だけど、キースさんは少しふらついた程度。これも因子がしっかり根付いていなかったからじゃないかな。


「俺のほうはどうだ?」

「トールさんは大丈夫。他の人は今から見るよ」


 僕は素早くオードさんや、リックたちの因子も確認する。幸い、僕を含めて、誰にも怪しい因子はついていなかった。まだまだ油断はできないけど、ひと安心だ。


 とにかく、因子チェック因子チェック因子チェックだ。視界に入る人を片っ端から見ていく。その甲斐あって、ようやく襲ってくる人はいなくなった。


 まぁ、この場にいる全員の因子を見たからね。結局、僕ら以外全員に“邪なる痕跡”か“邪なる痕跡〈強〉”がついていた。ホント、とんでもない状況だよ……。

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