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144. 攻撃された領主館

「なんだってんだ」

「あっちは中央区だよね。何があったんだろう」


 オードさんとイリスさんが音がしたほうを見て顔を険しくしている。


 イリスさんが言った通り、あっちは中央区。ラーベルラで最も栄えている辺りだ。重要な施設も多い。なんだか嫌な予感がするよね。


「邪教徒の残党かしら」

「退いたように見せて、引き返してきたということですか」


 エリザさんとルーグさんは悔しげだ。


 タイミングを考えれば、邪教徒の仕業と考えるのが自然だ。放火に失敗したのでサブプランを発動したのか。それとも、はじめから放火は陽動だったのか。いずれにせよ、何か厄介なことが起きていることは予想できる。


「中央区ならトールさんがいるよね?」


 トールさんとキースさんは討伐隊の代表者として捕らえた邪教徒の扱いを巡って領主と交渉をしている。それもあって、二人は領主館に滞在しているんだ。何か事件が起きたとしても、二人ならうまく対応してくれるんじゃないかな。


「そうだな。あいつなら早々遅れをとることはないと思うが」


 僕が言うと、オードさんが頷く。言葉とは裏腹に表情は険しいままだ。


「何か懸念が?」

「あいつら自身は無事だとしても、邪教徒たちの狙い次第では後手に回るだろうからな」

「邪教徒の数がわかりませんからね。一見するとごく普通に見える住人の中にも例の因子を植え付けられた者がいるようですから」


 オードさんの言葉を引き継ぐ形で、ルーグさんが懸念を説明してくれる。要は、トールさんは無事でも邪教徒の狙いを阻止できるとは限らないってことだ。圧倒的な力を持っていたとしても、体は1つだものね。トールさんの対応力を上回る人数で攻められたら防げないってことかな。


「それなら僕らも向かったほうがいいね」

「……そうだな。あまりロイに無理をさせたくはないが、因子のことを考えると連れて行くしかないか」


 オードさんは渋い表情だ。僕のことを心配してくれるのはわかるけど……でも、“邪なる痕跡”を除去できるのは僕だけだからね。実際に取り除いてるのは混沌神様だけど。


『ロイ!』


 足音ともに声がかけられる。走ってきたのはリックたちだ。レグザルにルーナ、アライグマ隊もいる。いつの間に合流したのか、ヘルトンさんもいた。


「リック。僕たちはさっきの音の原因を調べてくるよ。君たちは――」

『そう、それだよ。あれは大きな屋敷の壁に穴が開いたときの音みたいだよ』


 慌てているのか、リックが早口で言葉を紡いでいく。落ち着かせるようにレグザルがリックの肩を叩き、説明を引き継ぐ。


『爆発の瞬間は見てないが、間違いない。壁が開いているのは、今も見ている』

「そうか。ドローンか」

『ああ』


 レグザルは遠隔操作するドローンを介して、中央区の様子を確認できるみたい。暗闇の中でも暗視機能である程度の様子はわかるんだって。


「それで、場所は?」

『場所と言われてもわからないが、周辺では一番立派な建物だ』

「だったら、間違いない。領主館だな」


 レグザルから聞き出した情報で、オードさんが断定する。もともと推測はしていたけれど、確定できたのは大きい。


 領主館か。敵の狙いはラーベルラの領主、なのかな?


『急いだほうがいいかもしれないぞ。迂闊に近づけないので詳しい状況はわからないが、戦闘が発生しているようだ』


 どうやら、懸念は的中したみたい。トールさんの力でも事態を収束させることは難しいようだ。だからこそ、僕らが駆けつける必要がある。


『僕らも行くよ』

「リック。それにレグザルも」

『俺たちの星の技術が悪用されている可能性がある。俺が言えた義理ではないが……できれば止めたい』


 リックはともかく、レグザルは思い詰めている様子だ。気にしないでって言っても難しいだろうね。ここは協力してもらったほうが良さそうだ。変に遠ざけるよりは、気が楽になるだろうから。


 それに正直に言えば二人の申し出は助かる。異星の技術は僕らにとっては未知のものだ。どんな危険が待ち受けているかわからない。けれどリックたちなら対処できるかもしれない。


「ええと、じゃあルーナはどうしようか?」

『そうだね。ええと――』


 リックが早口でルーナに状況を説明する。彼女は少し不安そうにしていたけど、僕らと一緒に移動することになった。見知らぬ場所で一人残るほうが不安だったみたい。それにリックとレグザルがいないと言葉が通じないからね。


「俺も行くぞ」


 最後にヘルトンさんが表明する。だけど、オードさんが待ったをかけた。


「いや、お前は他の奴らを率いて、住人が領主館に近づかないようにしてくれ。あと怪しいやつがいたら捕まえといてくれると助かる。詳しくは言えないが、邪教徒どもに操られている可能性がある」


 ヘルトンさんは少しだけ不満そうな顔をした。でも、オードさんの視線がぐったりしている住人に向けられると、すぐに納得した表情になった。


「あちこちで火の手があがった原因はそれか」

「ああ。こいつらも操られていたようだ。見た目ではわからないが」

「わかった! 俺たちは街の見回りを請け負おう。お前たちも気を付けてな」


 ヘルトンさんが大きく頷いた。ついでに、ぐったりした放火犯たちの見張りも引き受けてくれた。すでに因子は除去してあるけど、油断はできないものね。


 僕らは急いで領主館に向かった。レグザルの案内があるから暗い路地でも安心だ。それにいつの間にか、領主館の上空には魔法の明かりが浮かんでいた。だから、迷う心配はない。


 たぶん、あれはトールさんの魔法だ。救援要請を意図したものだとしたら、状況はあまりよくないのかもしれない。僕らはますます走るスピードを上げる。


 そうしてたどり着いた領主館。だけど、そこで展開されている光景は予想とは違っていた。トールさんとキースさんの姿はある。けれど、二人が戦っていたのは邪教徒ではなくて衛兵だった。

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