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143. 拘束された犯人たち

 街の住人の心の支えになればと思って、アライグマ隊の天の使いだという言葉を否定しなかった。その結果――――


「おお、神様。ありがとうございます!」

「ありがたや〜、ありがたや〜」

『いや、待て! 俺は神じゃない!』


 レグザルが街の人々から拝まれるという状況が発生している。主に拝んでるのは信心深いご老人だけど、若い人にも彼に向けて頭を下げている人がいるね。


 どうやらレグザルがドローンを操っているのを見てたみたい。アライグマ隊に指示を出しているってことは神の使いの上位存在、すなわち神だっていう流れかな。


 慌てたレグザルが神であることを否定している。だけど、それは逆効果だ。だて、喋るアライグマなんだもの。余計に神秘的な存在であることを印象付ける結果となってしまった。まぁ、悪魔だと言われるよりはマシだと思うけどね。


 なんて他人事のように考えていたら、余裕がなくなってきたレグザルが僕を指さして言った。


『お、俺は神じゃない。あいつらの主人ならそこのヤツだ』


 ひどい裏切りだ! いや、何も間違ったことは言ってないんだけどね。でも、この状況でそれを言うのはなしだと思う。住人のキラキラした瞳が今度は僕に向けられることになった。


「おお! 神様はやはり人の姿をして降臨されるのですね!」


 いや、違うからね!


「僕も神じゃなくて、単なる使徒です!」

「使徒様でしたか!」


 否定したつもりなんだけど、人々の瞳のキラキラは少しも変わらなかった。使徒って言ったのはまずかったかな。かえって話がややこしくなったかも。


 この雨が神の恩寵だと思っている人たちに、僕が使徒だと伝えてしまった。むしろ補強材料を与えてしまったような気がする。


「神の使徒様がお助けくださった!」

「神のご加護だ……!」

「どこの神様か知らないが、ありがたいことだ」


 住人たちは雨を降らせた神様に感謝している。それなら、せめて混沌神様のおかげだってことにしておけばよかったかも。そうすれば、混沌神様への風評も改善したかもしれない。今さら名乗るのも格好悪いから、やらないけど。


 混沌神様への布教の機会は逃してしまったけど、消火活動は順調だ。アライグマ隊の尽力で火はほぼ消し止められていた。


 とはいえ、建物のいくつかは焼け落ちてしまっている。負傷者も少なからず出たはずだ。まったく、誰がこんな騒動を計画したんだろうか。本当に迷惑だよね。


 ……ひょっとして、邪教徒たちの仕業だろうか。拠点を潰された報復って可能性はありうるよね。それなら僕らだけを狙えばいいのに、街全体を標的にするなんてたちが悪い。


「ロイ」


 そんなとき、背後から声をかけられた。振り向くと、そこにはいたのは険しい顔をしたオードさんだ。


「どうしたの?」

「実はな――」


 オードさんは声をひそめて、状況を説明してくれた。どうやら、周囲の人たちには聞かれたくないみたい。というのも、放火犯に関する話だったからだ。


 オードさんたちは消火と同時に怪しい人物の捕縛にも動いたそうだ。新しく火をつけようとしていた人物や出火元の近くにいて逃げもせず周囲の様子を窺っている人物を取り押さえたんだって。


 結果、数人を捕まえたらしい。一人を除けば、ごくごく普通の住人だったみたい。けれど、残りの一人が問題だった。


「問題って……?」

「ああ。まぁ、見ればわかる」 


 そう言うので、僕は捕まった容疑者たちのもとに向かう。そちらにはイリスさん、エリザさん、ルーグさんがいた。3人で容疑者たちを見張っていたようだ。


「そいつだ」

「――え?」


 オードさんは容疑者の一人を指さした。捕まえたときに抵抗したのか薄汚れているけど、その顔には見覚えがある。ターブルパーティのメンバーの一人、ドルフだ。


 僕が気づくと同時に、向こうも僕に気がついた。ドルフが目を血走らせて叫ぶ。


「お前は何で生きてんだよ! 浄化されろ! いや、俺がぁ! 俺が浄化してやるっ! 火は綺麗だぞ」


 言っていることが支離滅裂だ。話が通じない相手だったけど、ここまでではなかった。それでオードさんたちも怪しいと思ったらしい。それで僕に声をかけたみたい。


「今回の件、邪教と無関係だと思いますか?」


 ルーグさんが静かに問いかけてくる。どうやらルーグさんたちも今回の件が邪教徒たちの報復だと考えているようだ。


 そして、明らかに異常なドルフの存在。人格が変化すると言えば、思い浮かぶのは"邪なる痕跡"だ。ルーグさんもその存在を危惧しているのだと察した僕は、ドルフの因子を見てみることにした。



◆邪なる痕跡〈強〉◆



「例の因子がありました!」

「やっぱりか」

「想像通りですわね」

「当たっても嬉しくないけどね」


 僕の報告にオードさんたちがうんざりといった表情を見せる。僕も似たようなものかもしれない。


 ただ、レグザルについていたものと、少し表記が違った。混沌神様が強制的に除去してしまったから、詳しいことは分からない。けど、〈強〉とあるので、強制力が高いのかもしれない。レグザルと違って、明らかに普通じゃなしね。そのせいか、因子を除去されたドルフは泡を吹いて倒れてしまった。


「他の者はどうです?」

「見てみます!」


 ルーグさんに言われて、ドルフ以外の犯人たちの因子もチェックする。すると全員に"邪なる痕跡"が付与されていたことがわかった。こちらは〈強〉がつかない普通のヤツだ。確認したそばから混沌神様が因子を除去していく。


「全員についてたよ。混沌神様が消したので、もうないけど」

「そうか」


 因子が原因でおかしくなっていたなら、ひとまずこれで暴れ出すことはないはずだ。もっとも、因子を除去された反動かみんなぐったりしている。そんな気力はそもそもないだろうけど。


「ところで、ドルフだけだったの? ターブルたちは?」


 彼らはパーティを組んでいる。四人組で動く印象だ。ドルフだけが捕まったというのは違和感がある。


 僕の問いに、オードさんは気まずげに首を振った。


「他にも……少なくともザクの奴はいた。だが、消火を優先したからな。捕まえられたのはコイツだけだ」

「そういうことかぁ」


 犯人確保も重要だけど、何より大事なのは被害を食い止めることだ。そちらを優先して逃げられたのなら仕方がない。


 それにしても、ドルフの"邪なる痕跡"はいつ付与されたんだろうか。


「この前会ったときは、普通だったはずだよね」

「まぁ、そうだな。あいかわらずだったが、さっきみたいに狂気を感じることはなかった」


 僕の呟きにオードさんが頷く。オードさんから見ても、ドルフに異常はなかった。ということは、この短い間で“邪なる痕跡”をつけられたということになる。おそらく、この街の中で。


 きっと、この騒ぎも“邪なる痕跡”が付与した者が企てたものじゃないのかな。そいつは今も街の中に潜んでいるかもしれない。


 黒幕について考えを巡らせているときだった。


――ドォォォン!


 突如として轟音が響く。火が消えたことで、街はまた暗闇に沈んでいる。何が起こったのかはわからないけど、轟音は街の中央付近から聞こえてきたようだ。

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