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142. 雨を呼ぶ天の使い

 住人たちの避難の流れもできた。僕らも改めて避難しようとしたところに、アライグマ隊の一人が駆け寄ってくる。


「きゅう!」

「え、どうしたの?」

「きゅ! きゅきゅう!」


 どうやら、オードさんからの伝言があるみたい。短い手を忙しなく動かしながら、説明してくれる。


 話の内容は消火状況についてだ。やはり人手が足りていないみたい。こちらの消火速度を上回る勢いで延焼しているので鎮火は困難。このままではじきに街全体に火が回ってしまう。どこかで見切りをつけて避難せざるを得ないとのことだった。


「そうなんだ。そうなると大きな被害は免れないね……」

「きゅう……」


 この辺りは比較的街の外れに近いので、避難は間に合うだろう。だけど、街の中心部にも火の手は上がっている。ここでアライグマ隊まで避難してしまうと膨大な数の犠牲者が出るのは間違いない。せめて、延焼スピードを抑えて、人々が逃げる時間を稼がないと。


『僕も行くよ! 僕が応援すれば少しは助けになるはずでしょ』

「それはそうだけど……」


 たしかに、リックに付与した“従魔応援”はアライグマ隊の魔法出力は劇的に向上させる。だけど、アライグマ隊は分散しているので、効果は局所的だ。根本的な解決にはならない。


「きゅうきゅう!」


 伝令のアライグマ隊もリックの意見に難色を示した。彼を危険に晒したくないのかと思ったら、そうでもないみたいだ。


「なるほど。魔法の威力自体は十分なのか」

『それじゃあ、僕の応援も役に立たないね……』

「きゅきゅ」


 彼女の説明によると、現状でも魔法の威力は十分……というか過剰みたい。アライグマ隊が使う魔法で消火に適しているのは水の勢いが強いアクアレーザーだ。だけど、直線的な軌道のせいで壁などの遮蔽物にぶつかり、水が効率よく届かないことが問題らしい。建物ごと破壊すればあるいは効果があるかもしれないけど、それほどの威力の魔法を街中で使うのは危険だ。建物だけならともかく、避難中の住民を傷つけてしまう可能性がある。


「雨でも降らせることができたらいいんだけどね」

「きゅう……」


 残念ながら、そんな魔法は使えないみたい。術者から離れた場所に魔法を出現させるのは難しいようだ。


『雨か。おい、ドローンを持ってないのか?』


 それまで黙って聞いていたレグザルが、何かをひらめいた様子で口を開いた。


 彼が言及したドローンは僕たちが邪教の館から接収した予備ドローンのことだろう。朧気にそれを操った記憶が残っているらしい。


「それなら、回収してあるけど」

『だったら、何とかなるかもしれないぞ』

『ホントに!?』

『ああ』


 レグザルが言うには、ドローン一機につきアライグマ隊一人くらいは運べるのではないかとのことだ。


『それなら、上空から水を降らせることができるね!』

『ああ。ただ、問題もある。あのドローンは現状、脳内チップから直接制御するしかない。つまり、俺にしか制御できないんだ』

「なるほど……」


 何を言いたいのかはわかった。彼は敵対していた自分に制御を委ねることができるかと聞いているのだ。いや、もしかしたら、彼自身が不安視しているのかもしれない。制御している最中に、また自分の人格が切り替わってしまうのではないかということを。


 リスクがないとは言えない。だから、僕も少し考えこんでしまった。そんなとき、ルーナが急に立ち上がる。


「――――――――!」


 彼女はレグザルに向かって何やらまくし立てている。翻訳機がないので聞き取れないけど、その口調は明らかに糾弾めいたものだった。おそらく、裏切りを警戒しているのだろう。


『ルーナ、落ち着いて』


 リックが慌てて割って入る。


『言いたいことはわかるよ。でも、今は緊急事態なんだ。街の人たちを助けるために、できることはしないと』


 リックの言葉に、ルーナの剣幕が少し和らいだ。それでも警戒の色は消えない。


 納得したわけではないだろう。けれど、言い争っている場合ではないと理解はしたみたい。彼女は険しい表情のまま口をつぐんだ。


 そんな彼女にレグザルは反論しなかった。そのうえで、表情はあくまで真剣。無言のまま、判断は僕とリックに任せると態度で示している。


 僕とリックは顔を見合わせて頷いた。


「わかった。レグザル、頼むよ」


 僕は決断を下した。ドローンはルーグさんのマジックバッグに収めてあるので、まずはそちらと合流する必要がある。


 すぐに準備に取り掛かった。力不足を痛感していたのか、アライグマ隊からの志願者が出た。予備ドローンは5機。5人のアライグマ隊を選んで空に飛ばすことになる。


『準備はいいか? 飛ばすぞ』

「「「きゅう!」」」


 レグザルが頷くと、アライグマ隊が空を飛んだ。ドローンはステルスなので、本当に飛んでいるように見える。


『大変だと思うけど、頑張って!』


 飛び立つアライグマ隊にリックがエールを送る。これでしばらくは彼女たちの力は強化される。


 しばらくすると、上空からざばざば水が落ちてきた。最初は散発的だったけれど、だんだんと量が増えていく。


「おお……!」


 地上にいた住人たちから歓声が上がった。雨のように均一にとはいかないけれど、上空からの散水はやっぱり効率的だ。火の勢いは少しずつ弱まっている。このままなら、遠からず鎮火できそうだ。


 街の人々も空飛ぶアライグマ隊に気づいたみたい。空を見上げて、彼女たちを指差す人もいる。


「なんだ、あれは!」

「アライグマだ! 空飛ぶアライグマだ!」

「やっぱりアライグマは悪魔なんかじゃない! 天の使いなんだ!」


 ……なんでか天の使い扱いされてる!? いや、たしかに、そんな風に見えなくもないけど!


 ま、まぁ、こんなことがあったばかりだから、神様の奇跡にすがりたいのかな? ただの従魔だと知ったらがっかりしちゃうかもしれないので、否定はしないでおこう。

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