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138. 混沌神様の使徒ですから

 館の探索は無事に完了した。地下牢以外に邪教徒は潜んでいなかったみたい。


 ドローンやロボの生産施設がないか確認したけど、それらしきものは見つからなかった。拠点とは言っても、もとは貴族の別荘だものね。基本的には生活するための場所って感じだった。兵器類はどこか別のところから運んできたんだろう。


 あ、でも休眠中のドローンはいくつか見つけたよ。押収物の所有権については詳しい取り決めがない。帰還してから領主様と話し合いになるけど、とりあえず回収してもらった。オーバーヒートで動かなくなったロボももちろん回収する。大きいうえにそこそこ数があったけど、マジックバッグを持っている冒険者にも協力を呼びかけて、何とか確保してもらった。こんなもの放置しておくわけにはいかないからね。


 探索を済ませた僕たちは、ラーベルラの街まで戻った。街に着いたのは日暮れ前だ。夕焼けが遠くの山々を赤く染めていた。


「――冒険者諸君はそれまで好きにしてもらって構わないよ。では、解散」


 トールさんの号令で、冒険者たちが三々五々に散って行く。ラーベルラには二、三日逗留する予定だ。邪教徒や邪教の館の扱いをどうするか。決めなきゃならないことが、いろいろあるんだって。


 そんなわけで、トールさんとキースさんは早速出かけた。街の代官と面会するためだ。二人は責任者としての立場があるから、討伐以外にも仕事があるみたい。大変だよね。


 衛兵隊は邪教徒を牢に預ける手続きに忙しそうだ。彼らがどのような扱いになるかはトールさんと代官との話し合い次第だろう。"邪なる痕跡"のことがあるので、どのような処分にするかは難しいところだ。あの因子を付与された者たちは、本当に自分の意志で邪教に加担していたのかどうかも分からないからね。


 冒険者の多くは自由行動だ。今回の件は討伐としては大成功。きっと酒場で盛り上がることだろう。


 そんな中、僕たちは宿屋で待機していた。食堂を借りて、お喋りしている。オードさんたちが付き合ってくれているので、あまり退屈ではない。


「しかし、アイツら妙にピリピリしてたな」


 オードさんが肩を竦めて言った。アイツらというのはアライグマ隊のことだ。従魔の言葉がわからないはずだけど、それでもわかる程度に緊迫感があったみたい。


「チュチュウ」


 ビネが同意するように頷く。深刻な様子はない。やれやれといった感じだ。


 けれど、オードさんたちは彼女たちの事情がわかっていない。思ったよりも深刻に受け止めているみたいだ。


「やはり、自らと同じような姿の者が不当に操られていたことが不快なのでしょうか」


 ルーグさんが慎重に言葉を選びながら推測した。


 自らと同じような姿の者とはレグザルのことだ。"邪なる痕跡"について、討伐隊のメンバーには今のところ詳しい説明はされていない。しかし、オードさんたちには僕から説明してある。操られているというのはその影響下にあったということだろう。


「操られていたかどうかはまだわからないよ。あの因子のことはまだ何もわかってないから」


 "邪なる痕跡"が付与された邪教徒たちは、因子を消し去ったあと気を失ってしまった。レグザルも気絶したままだ。なので、詳しい聞き取りはできていない。あの因子が思考にどのような影響を与えていたのかも不明だ。


 それに、もうひとつ誤解がある。


「あと……アライグマ隊が不機嫌なのは、それとは別なんだ、実は囚われてたリックの同胞が女性らしくってね」

「……え、そういう話なんですか?」


 ルーグさんが目を丸くする。


 牢屋に囚われていたリックの同胞はルーナという名前らしい。だけど、この彼女にも詳しい事情は聞けていない。長期間の拘留で体力を失ったのか、彼女もまた気絶するように眠ってしまったからだ。他の人たちは衛兵隊が保護したけど、言葉の問題でルーナだけは僕が引き取った。いまはリックが様子を見ているはずだ。まぁ、それがまたアライグマ隊には気にくわないみたいだけど。


「まぁ、あいかわらずモテますのね」


 エリザさんが楽しそうに笑った。少し意地悪そうな表情だ。


「本人としては困るんだろうけどね」


 言いつつ、イリスさんも少し楽しそうだ。


 そんな2人に呆れた視線を向けつつ、オードさんが尋ねてくる。


「それで、あの二人、いったいどうするんだ?」


 あの二人っていうのはレグザルとルーナのことよね。実は引き取ったのはルーナだけじゃないんだ。レグザルも僕が引き取った……というか頼まれた。仮に逃げ出そうとしたら兵たちじゃ手に負えない可能性があるからね。対抗できそうな人員として僕やアライグマ隊、オードさんが監視につくことになったんだ。今はアライグマ隊が見張っている。


「どうするって……連れて帰るしかないでしょ」


 僕は肩を竦める。異星の住人である2人をこのまま放置するわけにはいかない。特にルーナは言葉が通じないしね。うちにはリックが居候してるから、もう2人増えたところでどうってことない。ルクスたちもきっと歓迎してくれるよ、たぶん。


「まぁ、そうだろうけど……ますます混沌としてきたな、あの屋敷」


 オードさんがぼやく。たしかに僕もそう思わないでもないけど……


「まぁいいんじゃない? 僕、混沌神様の使徒なんだし」

「はは、そうだったな!」


 僕が答えると、オードさんがゲラゲラ笑う。何だかわからないけど、つぼに入ったみたい。

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