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135. vs レグザル

 戦いはレグザルの号令から始まった。


「ライオットアーマー! リミッター解除だ!」


 きっとロボへの指示だったんだろう。直後、まだ稼働しているロボが唸り声のような重低音を放った。稼働音もさらに激しくなっている。熱を発散するためか、ロボの全身から蒸気のようなものが立ち込めはじめた。


『気を付けて、さらに出力を上げたよ! 短期決戦で決着をつけるつもりだ!』


 リックから警告が飛ぶ。同時にロボと戦っていた討伐隊のメンバーが「うわっ!」と驚きの声を上げて後ずさりした。


「くっ、さすがにヤバいぞ!」

「こんなの防ぎきれるかよ!」


 ロボの動きは格段に機敏になっている。さっきまでは十分対抗できていた人たちも、今は明らかに押され気味だ。


 ただ、レグザルは“リミッター解除”と言っていた。普通は機体を守るために出力に制限をかける。それを解除するってことは相当無理をしているはずだ。全身から放出される蒸気も、その無理によるものだろう。あれで機体の熱を逃がしているのかもしれない。


「よし……!」


 僕は前に出ることにした。このまま見ているわけにはいかない。あのロボを何とかしないと、押し負けてしまいそうだ。


「ロイ、危ないぞ! 前に出るな!」


 すぐにトールさんから注意が飛んできた。だけど、僕は首を横に振る。


「ちょっと試してみたいことがあるんだ! もしかしたら、ロボを止められるかも!」


 あの蒸気を見て思いついたんだよね。試してみる価値はあるんじゃないかな。


「……気をつけろよ!」

「わかってる!」


 トールさんもこのままじゃマズイと思ったのか、強くは引き止めなかった。周囲に気をつけながら、僕は前に進む。大丈夫、何かあれば頭の上のビネが知らせてくれるはずだ。


『ほう、ガキか。何をするつもりか知らないが、遊びには付き合ってやれんぞ』


 ただ、トールさんとのやりとりで、レグザルの注意を引いてしまった。彼が意味ありげに手を振る。


『危ない!』


 リックが叫んだ。その意味を頭が理解する前に、何もなかったはずの空間が強烈に光った。一瞬だけ見えたのは宙を浮く機械。ステルス状態になっていたガードドローンだったのだろう。そして、今ドローンがフェイズガンを撃とうとしている。


 避けなきゃと思う。けど、頭の動きと違って、体はスロモーションみたいにゆっくりとしか動けない。こんな状況で回避が間に合うわけがなかった。


 けれど――――


「チュウ!」


 ビネは違った。僕より早く危険を察して、頭から飛び降りたんだ。即座に“ロックスキン”を発動。岩の鎧をまといながら盾になってくれる。レーザーがビネの岩鎧に当たって火花を散らすけれど、貫通することはない。おかげで、僕は無事だった。


「ありがとう、ビネ」

「チュ!」


 ビネは得意げに胸を張ると、反撃の岩弾をレーザーの発射地点に向けて放った。だけど、岩弾は宙を切る。ガードドローンはすでに移動したみたいだ。


「まさか、フェイズガンを防ぐとは。やるじゃないか」


 レグザルが不敵に笑う。僕はそれに付き合わず、近くのロボの一体を見据えた。


 やることは簡単だ。とある因子を付与してみるだけ。ガチャで手に入れてからろくに試せてないけど、機械相手には相性がいいと思うんだよね。


 付与する因子は“吸熱(Lv10)”だ。


 効果は周囲から熱を奪うというもの。必死に熱を排出してるところ悪いけど、無理矢理戻させてもらうよ。ただでさえ、リミッター解除で発熱量も増えているんだ。これは効くんじゃない?


 狙いはバッチリだった。


 因子を付与すると、そのロボはあっという間にオーバーヒートして動作を停止した。動かなくなっても吸熱の効果が続いているのが、ロボの足下の床で分かる。いつの間にか霜が付いていた。


「そんな無敵兵器が!?」

「な、なんだ。突然止まったぞ……?」


 邪教徒たちからは悲鳴が上がった。討伐隊も戸惑っているみたい。


「付与術だ。ロイのだから、何か特別なんだ!」

「おお、ロイさんの!」

「さすがだな!」


 トールさんから雑な説明が飛ぶ。だけど、それでみんな納得したみたい。この状況だと話が早くて助かるね。


 ともかく、ロボを無効化する方法はわかった。僕は次々と"吸熱(Lv10)"をロボにかけていく。一体、また一体と、ロボが動きを止める。


「あ、悪魔レグザル? 大丈夫なのですか?」


 導師が慌てふためいてレグザルに声をかけた。だけど、レグザルのほうはまだ余裕を保っているみたいだ。


「はっ、動揺する必要はない。もともと俺一人いれば十分なんだよ」


 次の瞬間、数人の悲鳴が響く。


「ぐあぁぁ!」

「う、後ろからかっ!」


 どうやら、背後からフェイズガンで撃たれたみたい。ステルス状態のガードドローンの仕業だ。


「っち、これも耐えるのか。だが、傷は浅くない。しばらくは戦えないだろう。こっちが優勢なのは変わらん」


 レグザルが舌打ちした。けれど、冷静に状況を分析している。


 実際、レグザルの言う通りだろう。僕の付与で頑丈になっている討伐隊でも、フェイズガンで受けた怪我はかなりの重症だ。"溢れる生命力"のおかげでレグザルが思っているよりは復帰が早いだろうけど、それよりも負傷者が増えるほうが早そうだ。


 討伐隊は慌ててエネルギーシールドを展開する。けれど、守れるのは前面だけだ。背後から狙われると弱い。


 どうやらガードドローンは数体いるみたいだ。位置取りの関係か攻撃間隔は長めだけれど、次々に討伐隊メンバーが負傷していく。


 このままだと埒が明かないとみたのか、トールさんが仕掛けた。


「はあぁぁ!」


 光の剣でレグザルに切りかかる。しかし、突然出現した光の盾でガードされてしまう。やっぱりガードドローンが近くに控えているのか。あの盾もドローンが展開したエネルギーシールドみたい。


「リック、どうにかできない?」

『ステルス状態をどうにかしないと……』


 僕がリックに声をかけると、困った様子で答えが返ってくる。相手が見えないから、対処が難しいんだ。


 その時だ。


「「「きゅう!」」」


 任せてと言うように鳴き声を上げ、アライグマ隊が魔法を使った。いつもの泡の魔法だけれど、今回は部屋中に大量の泡を敷き詰める形だ。宙を漂う泡は何かにぶつかると弾けて消える。


「あっ!」

『あそこだ!』

「きゅう!」


 なるほど。一見何もないところで弾けたら、そこにガードドローンがいるってわけだね。そこをすかさず、アライグマ隊の一匹がアクアレーザーで狙撃する。不意を打たれたガードドローンの一体が破壊された。


 これはレグザルも予想外だったみたい。


「な、何!? ドローン、ガードスタンスだ!」


 慌てた様子で指示を出した。どうやら防御命令のようだね。


 防御モードに入ったせいか、ドローンたちはアクアレーザーをガードするようになった。その反面、攻撃頻度が減ったので討伐隊には余裕ができる。


「負傷者は今のうちに退避を!」

「ああ!」

「すまん……退かせてもらう」


 負傷者の安全は確保できた。あとはこのまま押し切りたいところだ。


 防御モードに入ったドローンの守りは固い。それを崩すのは容易ではなかった。


 と、思いきや、意外にあっさりと形勢は傾いていく。


『みんな頑張れ!』

「「「きゅう!」」」


 リックの応援が飛ぶと、アライグマ隊の魔法の威力が明らかに上がった。エネルギーシールドを強引に減衰させると、そのままガードドローンを破壊する。


「そんな馬鹿な!?」


 レグザルが驚愕の表情を浮かべた。


 僕も驚いたけど、すぐに理由を察する。そういえば、もしものためにリックには従魔応援を付与してたっけ。さっきの応援でアライグマ隊の能力が上がったんだね。


 ……それにしても、強化率えぐすぎない?


 何にしろ、これでこちら側が断然有利になった。そして、動揺するレグザルの不意をつき、ビネが飛び掛かる。


「ビネ、がんばれ! そいつをやっつけろ!」

「チュウ!」

『がべっ!?』


 僕も応援を受けたビネの小さな拳がレグザルにクリーンヒット。大した威力はなさそうに見えるけど、レグザルはなかなかの勢いで吹き飛んでいった。


 僕の応援もなかなかでしょ?

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