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132. 邪教の館へようこそ

 休暇も終わって、ついに邪教徒討伐の本番だ。早朝の薄明かりの中、僕たちは邪教徒のアジトに向かって進んでいく。アジトがあるのは街から少し離れた森の中だ。一時間くらい歩いて、ようやく目的地が見えてきた。


 想像していたよりも大きい。森の木々の間から見える建物は、三階建ての立派な洋館だった。レンガ造りの重厚な外壁に、見張り用なのか塔まで備えている。窓ガラスは薄汚れているけど、全体としてはそれほど傷んだ様子はない。


「あれが邪教徒のアジトなの?」

「ああ。元々は近くの貴族の別荘だったらしい。当主の代替わりで使われなくなった館を、邪教徒たちが占拠しているようだな」


 僕の呟きにはキースさんが答えてくれた。


 なるほど、それで建物がしっかりしているのか。貴族が所有している館だから、それなりに維持管理もされていたんだね。


 ただ……あれって別荘っていうか、半分くらい要塞じゃないかな? 維持するのも大変そうだ。当主交代したなら放棄するのも頷けるよね。それで邪教徒に悪用されてしまうのはいい迷惑だけど。


 僕たちは館から少し距離をおいた場所で、木陰に身を隠す。ここから館を窺うと、改めてその大きさに驚かされる。


「本当に大きいね……」

『こんな立派な建物を占拠してるなんて、かなり大胆だね……』

 

 リックと一緒に、あんぐりと口を開け館を見上げる。これだけ目立つ建物を使うなんて、よほど自信があるのか、それとも開き直っているのか。一旦はトールさんを退けたことを考えると、実際に力はあるみたいだ。だから余計に性質が悪い。


「作戦については覚えてるな?」

「うん。大丈夫」


 改めて確認してくるトールさんに頷いて肯定した。作戦は出発前に説明を受けている。


 館には防犯アラームのようなものが設置してあって、密かに近づくことはできないみたい。だから正面から堂々と突入する作戦だ。討伐隊のうち半数が突入して、半数が出入口を塞ぐ。邪教徒は好戦的だから、包囲の必要はないかもしれないけど念のためだ。もしものときの退路を確保する意味もあるからね。


 僕のことをじっと見て、トールさんは軽く頷いた。そして、真っすぐ手を挙げ、後方にハンドサインを出す。それを見た後続の何人かが、同じように後方へと伝えていく。突入準備の合図だ。


「チュウ!」


 ビネが僕の肩に飛び乗って、元気よく鳴いた。準備はできてるってことかな。僕も気を引き締めよう。


 トールさんが剣を掲げて、前方に突き出した。剣の先端が薄っすらと光る。次の瞬間、そこから眩い光線が射出された。光線は館の玄関……ではなく、側面の壁を直撃する。玄関は罠が仕掛けられているかもしれないからね。側面に穴を開けて、そこから突入するんだ。


 光線が直撃した壁はレンガが崩れ落ちて大きな穴が開いていた。さすがは勇者だなんて言われるだけある。ちゃんと見るのは初めてだけど、トールさんの力って凄いね。


――ビィ、ビィ、ビィ

 

 けたたましいアラーム音が響き渡る。けれど、予想通りだ。動じることなく、トールさんが指示を出した。


「突入!」


 号令と共に衛兵隊が一斉に駆け出していく。おっと、見てるだけじゃだめだね。僕も付与で支援しないと。


「付与魔術!」


 宣言することに意味はないけど、付与魔術師を装っているので一応念のため。実際には、いつもの因子付与だ。今回の討伐に備えて恩寵も強化してある。具体的には、セット付与の範囲化だ。あまり範囲は広くないけど、複数人に一括して付与できるから便利だ。


 付与の内容はこんな感じ。


■セット名:便利付与詰め合わせ 

・溢れる生命力〈時限〉

・みなぎる活力〈時限〉

・頑丈(Lv10)〈時限〉

・運動神経向上(Lv10)〈時限〉

・ちょこまか動く〈時限〉

・力自慢〈時限〉

・魔法の才能(Lv7)〈時限〉

・不運〈反転〉〈時限〉

!やる気満々


「おお、これは!」

「区長、ありがとうございます!」


 衛兵たちの士気がグンと上がった。やる気満々を付与したせいか、なんだかハイテンションだ。


「な、なんだ、この力は……!?」

「これが、付与魔術……なのか?」


 後続の冒険者たちにも同じように付与する。こっちは戸惑いの声が多いね。ただ、ご機嫌な声もある。


「ふははは、凄いな! これならいくらでも戦えそうだ!」


 あれはたぶん、ヘルトンかな。


 トールさんは先頭に立って突入していったので、僕はキースさんと一緒に後ろから付いて行く。ビネやリックたちも当然一緒だ。


 穴の開いた壁から館の中に入ると、すぐに激しい戦いが繰り広げられているのが見えた。待ち構えられていたのか、邪教徒側の防衛戦力も充実している。黒いローブを着た人間だけでなく、中にはロボットのような機械まで混じっていた。


「あんなものまで用意してるなんて!」


 リックが驚きの声を上げる。間違いなく、彼の同郷の者の仕業だ。


『やっぱり僕らの技術が悪用されてる……!』


 リックの表情が暗くなる。故郷の技術が悪事に使われているのを見るのは、辛いんだろうね。


 館の中は思ったより広い。一階だけでもいくつもの部屋があり、邪教徒たちはそれぞれの部屋から現れて抵抗しているみたいだ。抵抗は思ったよりも激しい。


 そんなとき、館の奥から声が響いてきた。


「ふふふ、飛んで火にいる夏の虫とはこのことですね。みなさん、邪教の館へようこそ」


 その声は落ち着いていて、余裕すら感じられる。邪教徒の中でも立場的に偉い人かな?


 それにしても……自分で邪教って言うんだね? こういう人たちって、普通は自分が正しいと思って活動しているのかと思ったけど。

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