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130. こそこそ追跡する影

 ブルスデンを出発して最初の夜が近づいてきた。街道沿いを西に進んで、予定通り宿場町の近くまで到達している。


 旅人が多い街道なので、宿場町はそれなりの規模だ。とはいえ、100人もの人員を収容できるだけの宿屋があるわけじゃない。旅人を追い出せば泊まれるだろうけど、そんなことしても評判が悪くなっちゃうからね。


 というわけで、今夜は町の外れで野営だ。


 僕はオードさんたちと一緒に行動している。トールさんたちの周囲は衛兵隊が固めているから、リックが窮屈な思いをすると思って。その点、オードさんたちはリックのことを知っている。従魔の振りをする必要がないから、気兼ねなく会話ができて楽だ。


「しかし、邪教徒の噂を払拭するために討伐隊に参加するとは思い切ったな」


 オードさんが改めて呆れたというような視線で僕を見る。合流してすぐに事情を説明したんだけど、そのときは軽く流すだけだった。周囲に人がいたから、気を遣ってくれたのかも。今は野営の準備で他の冒険者とも距離がある。だから、改めて感想を漏らしたってところかな。


「あら。ただ沈静化するのを待つのではなく、自ら動く。結構なことだと思いますわよ」


 エリザさんは僕の行動を支持してくれるみたい。もっとも、オードさんだって反対をしてるわけじゃないので「まぁな」と言って頷いた。

 

「邪教徒討伐はこれ以上ないアピールになるでしょうね。とはいえ、噂を払拭するには、こちらも積極的に噂を流さなければ」


 ルーグさんも肯定的だ。ただ、噂を払拭するにはもうひと手間必要だと思っているみたい。けど、オードさんは首を傾げている。


「それはまぁ、どうにでもなるんじゃないか? 邪教徒の噂はあるが、実際には区長代理にして勇者の弟子だ。しかも衛兵隊にも絶大な人気がある。それが自ら邪教徒討伐に乗り出すんだからな。実際、冒険者たちの間じゃ、もう噂になってる。アイツらが勝手に広めてくれるだろ」

「そうかもしれませんね」


 ルーグさんも否定はしなかった。結構噂になってるのかな。出発前に少しだけ挨拶させてもらった甲斐があったね。


「お喋りもいいけど、ちょっとは手伝ってくれない?」

「ああ。悪い悪い」


 イリスさんからのクレームにオードさんが頭をかく。たしかに、イリスさん一人に準備させるのはよくないよね。


 野営に関して、衛兵隊は食事提供があるけど、冒険者にはそれがない。いや、どちらかと言うと、冒険者側が断っているというのが正しいかな。衛兵隊の食事って評判が悪いらしいんだよ。だから、食料支給だけ受けて、冒険者は各々で調理するという形になっているそうだ。


 というわけで、イリスさんは食事の準備をしてくれてるってわけ。僕らもちゃんと手伝わないとね。


「じゃあ、ルーグはイリスを手伝ってくれ。俺たちは、枯れ枝でも探すか」

「わかりました」


 役割分担で、ルーグさんがイリスさんの補助につくことになった。僕とオードさん、エリザさんが枯れ枝拾いだ。獲物がいれば、それも狩るつもりだけどね。


 従魔の振りをしているリックももちろんこちら側。ビネは僕の頭の上で周囲を警戒している。


「チュウ!」


 しばらく歩いていると、突然ビネが警告を発した。何かの気配がするみたい。みんなに伝えようとしたんだけど、その前にエリザさんは状況を察したらしい。


「気配ですわ。魔物のようですけど……それなりの数ですわね」

「街道近くでか? 厄介だな」


 オードさんが顔を顰めた。


 街道近くは魔物が少ないのが普通だ。何故なら移動する冒険者や衛兵に狩られるから。ある程度知能がある魔物はそれを学習して近づかなくなるみたい。


 だけど、そんなことを気にしない魔物もいるんだよね。知能が低かったり、人間なんて脅威に思わないほど強かったり。前者はともかく、後者は危険だ。


『ま、魔物!? 大丈夫なの』

「大丈夫だよ。リックは僕の後ろにいて」


 リックが狼狽えているけど、戦い慣れてないなら仕方がないね。でも、邪教徒との戦いは大丈夫なのかな……?


「どっちだ?」

「あちらですわ。何故か一塊になって移動してますわね」


 オードさんとエリザさんは冷静に状況分析をしている。相手が魔物なら魔法で先制攻撃を仕掛けようか。そんな話になったとき、ビネが慌てたように僕らの前に飛び出した。


「チュ、チュウ!」

 

 短い手足をバタつかせて何かを訴えかけている。とはいえ、オードさんとエリザさんには伝わらない。意味がわからず困惑している。


「何だ、どうした?」

「攻撃するなって言ってるみたい」

「どうするんですの? もうそこまで来てますわよ!」


 ビネの予想外の行動で、僕らはどう対処すべきか一瞬迷った。その隙をついて、草むらから何かが飛び出してくる。狙われたのは――リックだ。


「きゅう!」

『うわぁ!』


 一匹じゃない。次々に飛び出してくる存在にタックルされて、リックがよろけて倒れ込んだ。


「大丈夫か! ……ってこりゃあ」

「あなたたちでしたの」


 普通なら慌てて助けに向かうところだけど、オードさんもエリザさんもほっと息を吐いた。僕だって、そう。だって、飛び出してきたのは、カラフルなマフラーをつけたバブルウォッシャー……つまり、アライグマ隊だったから。


「きゅう!」

「きゅきゅう!」

「きゅー」

『わかった! わかったから離れてー!』


 とりあえず、リックが大変そうなのでアライグマ隊を引き剥がす。そのうえで、改めて事情を聞いた。


「君たち、いったいどうしたの」

「きゅ?」

「きゅう!」

「きゅっ、きゅきゅ!」


 予想通りというか何というか。彼女たちはリックが心配でついてきたみたい。


 今回の主役はトールさんや衛兵隊。邪教徒の噂を払拭するという目的があるとはいえ、あまり出しゃばるのはどうかと思って、従魔はビネしか連れてきていない。彼女たちには普段通りに仕事をしておくように指示してたんだけどなぁ。


「勝手についてきたらだめじゃない」

「きゅうきゅう」

「え? ルクスたちが?」

「きゅっ!」


 命令違反を咎めようとしたら、ルクスたちから許可はもらったという答え。どうやら、リックだけじゃなくて僕も心配されていたみたい。僕の護衛戦力も兼ねて送り出されたんだって。

 

 正式に許可をもらって来ているなら、彼女たちの行動を咎めることはできないけど……


「ええと……オードさん、どうしましょう?」


 僕が判断を仰ぐと、オードさんは困惑した表情を浮かべながらも肩を竦めた。


「どうって……まぁ、しょうがないだろ。ここまで来てしまったんなら、今さら帰すわけにもいかないしな」

「そうですわね。一緒に来てもらいましょう」

「「「きゅう!」」」


 エリザさんたちの同意も得られたので、アライグマ隊も一緒についてくることになった。予想外の展開だったけど……まぁ、戦い慣れていないリックの護衛と考えれば悪くないのかな?




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