129. 討伐隊出発
特区そばの広場。ちょっと前にはデルグ団長のサーカスのテントがあったんだけど、そこに今は大勢の人たちが集まっている。目立っているのはお揃いの装備を身にまとった人たち。街の衛兵隊だ。その数はざっと50人ほど。
なんだか、スラム制圧作戦を思い出すね。あのときは対ギャングだったけど、今回は邪教徒相手だ。今日、ここから邪教徒討伐隊は出発することになる。
個人的にはもっと大規模な出動になるのかと思ったけど、それほどでもなかった。街の警備もあるし、あまり人員は動かせないのかな。
もっとも、代わりの戦力として、冒険者が参加している。オードさんのパーティも参加しているらしいけど……ここからだと、ちょっとわからないね。
衛兵と冒険者を合わせて100人近く。あまり規模は大きくないって言ったけど、それでもなかなかのものだ。食料の運搬とか考えると大変だよね。まぁ、この世界には便利な魔道具があるから、その辺りのことはどうにかなるのかもしれないけど。
「ロイ」
眺めていると、声をかけられた。振り返ると、浮かない顔をしたトールさんがいる。いつものようにキースさんも一緒だ。
「本当についてくる気なのか?」
トールさん、僕が討伐隊に参加することをよく思っていないんだよね。以前、相談したときから、こうなんだよね。
魔物の討伐ではなく、邪教徒との戦いだ。前回の戦いは激戦で、双方に死者が出たみたい。きっと、今回もそうだろう。人が死ぬ光景を僕に見せたくないんだって。
トールさんが渋るのも当然だ。僕はまだ11歳。普通の子供なら、人が傷つくところなんて見せるべきじゃない。場合によっては、自分が手を下すことになるかもしれないんだから。
「大丈夫だよ。無理をするつもりはないし」
でも、それはかなり前世寄りの考え方だ。この世界は前世よりも死が近い。避けようと思っても、そうもいかないことも多いんだ。だから、割と慣れている。
そもそも、僕はもともとスラム暮らしだよ。死体が転がっているのが当たり前の環境だった。だから、あまり気にしていない……というと語弊があるかもしれないけど、多少は慣れてはいる。そこまで配慮してくれなくてもいいんだけどな。
それに、この討伐隊に僕が参加するのは大きな意味を持つ。それは僕が邪教徒であるという噂の払拭だ。自ら邪教徒討伐に乗り出せば、関係ないと証明できるんじゃないかと考えているんだ。
根も葉もない……とは言い切れないところが悲しいけど、少なくとも、世間を騒がしている邪教徒とは違う。一緒にされないためにも、ここで動くことは意味があるはずだ。
「それにリックのこともあるから。僕が一緒のほうが都合がいいでしょ?」
「それはまぁ……そうだが」
トールさんが渋々頷いた。その視線が僕の隣で大人しくしている大きめサイズのアライグマに向いた。一見するとバブルウォッシャーに見えるけど、何を隠そう、この子は従魔じゃなくてリックなんだよね。
『いや、僕は普通に……』
「チュウ!」
「きゅ、きゅう」
リックが喋りかけて、ビネに叱られてる。従魔の振りをしてるわけだからね。
敵方には同郷人がいる。リックとしてはやっぱり気になるみたい。そんなわけで、彼もこの隊に参加しているんだ。彼がエネルギーシールドの扱いに一番長けているというのもある。
だけど、彼の同郷人は、邪教徒の呼んだ悪魔だ。実情はともかく、邪教徒や討伐隊にはそう認識されている。場合によっては、リックも悪魔扱いされかねない。だから、従魔の振りをしてもらっているというわけ。
幸い、リックは大きなバブルウォッシャーに見える。僕が従魔を従えているのは有名だから、リックがいても誰も気にしないはずだ。
「トール。ロイ殿の言うことはもっともだ。邪教徒の噂を払拭するなら、討伐隊への参加は効果的だろう。それに彼の付与術があれば、戦力は格段に向上する。それは大きなメリットだ」
まだ渋い顔をしているトールさんを、キースさんが説得にかかる。前回のスラム討伐で僕の因子付与の効果は実証済みだ。
「……まぁ、それもそうだな。あの力があれば確かに心強い。たしかに、ロイが協力してくれれば前回ほど酷いことにはならないか」
トールさんも納得してくれたみたい。良かった良かったと安心していると、キースさんがぎろりと鋭い目つきで僕を見た。
「ただし、やりすぎないようにな。あまり目立ちすぎると、また別の意味で厄介なことになるからな」
うーん、しっかり釘を刺されちゃった。
いや、もちろん、言ってることはもっともだと思うけどね。噂が広がって、権力者に目をつけられたら厄介だ。ブルスデンの領主のラウル様が後ろ盾になってくれているとはいえ、それよりも大きな権力を持つ人が相手だと守りきれないだろうからね。
とはいえ、今回は僕が邪教徒だという噂を払拭する目的もある。ある程度活躍しないと目的を果たせない可能性が高いよね。加減が難しいなぁ。
まぁでも、今回討伐隊に参加する衛兵隊はスラム制圧作戦でも一緒になった人たちだ。つまり、僕のことはもう知ってるはず。だから、ちょっとくらい張り切っても大丈夫だよね。




