12. 双子が教える因子の増やし方
「キノコ、ないねー」
「全部どくどくー」
太陽が真上まで来ても、ミルケ茸は見つからなかった。まぁ、そんなものだけど。だって、この辺りはスラム住人の行動範囲内。食料は誰もが欲しいと思ってるから、見かけたらみんな持ち去ってしまう。昨日見つけられたのが幸運だったんだ。
双子は残念そうにしてるけど、機嫌は悪くない。キノコはなくても、食べられそうなものはいろいろ見つかったからね。
僕の方も食べ物を探しながら、因子をチェックして、新しいものを3つ見つけた。
■ストック中の因子■
・虫除け
・安らぐ香り
・脆い(Lv2)
・食中毒(Lv2)
・甘味アップ(Lv2)〈new〉
・優れた薬効〈new〉
・バランス栄養食〈new〉
◆甘味アップ◆
甘くなる。
その程度はレベルによる。
◆優れた薬効◆
薬品に付与された場合、あらゆる効果が大きく上昇する。
◆バランス栄養食◆
食品に付与された場合、バランスよく栄養素が添加される。
“甘味アップ”と“バランス栄養食”は食べ物に、“優れた薬効”は薬に付与すれば良さそう。でも、どちらも消耗品なんだよね。つまり、使えるのは1回きり。効果自体は悪くないんだけど、効率を考えるといまいちだよね。
やっぱり永続的に効果を発揮する因子が欲しい。
特に、今欲しいのは“浄化作用”だ。劇的な効果はないけど、地味に嬉しい。今は服にだけついてるけど、ズボンとの汚れ具合にはっきり差が出てきたもの。付け替えることはできるけど、そうなると今度は服が汚れていく。できれば、みんなの分も含めて確保したい。
でも、なかなか見つからないんだよね。そこらの雑草から取り込んだはずだけど、それ以来一度も見ていない。レア因子みたいだ。
「なんだ難しい顔をして。恩寵のことでまた悩んでるのか?」
「ロイ、悩んでるのー?」
「恩寵なぁに?」
いつの間にか立ち止まっていたみたいで、ルクスが心配するように声をかけてきた。ライナとレイネは興味津々だ。そう言えば二人にはまだちゃんと話してなかったね。
ちょっと休憩みたいな雰囲気になったから、その場に座り込んで二人にも恩寵の説明をすることにした。あとは“自浄作用”のありがたみと、レア具合もね。
話を聞いたあと、ルクスは僕の服を見て唸っていた。もともと気づいてはいたようだけど、因子の効果だと聞いて、改めて感心しているみたい。一方、双子は不思議そうな顔で首をコテンと倒している。
「二人には難しかったかな?」
「ううん。因子、わかるよー」
「ねー」
「そうなの? それなら、何で不思議そうなの?」
「「だって」」
ライナとレイネは口を揃えてそう言うと、二人で頷きあった。
「これー。何ついてる?」
レイネが差し出してきたのは、草をかき分けるのに使っていた木の棒だ。因子の話かなと思ってチェックしてみる。
■取り込み可能な因子■
・燃えやすい
◆燃えやすい◆
高熱状態に弱くなり、燃焼しやすくなる。
「“燃えやすい”っていう因子がついてるね」
「ん」
因子の情報を伝えると、レイネはちょこんと頷く。さらには、手にした棒を両手で持ち、力を入れて2つに折った。
「これはー?」
「え、あ、それは……」
差し出された右手と左手。その上には半分サイズの木の棒が乗っている。元の状態を気にしなければ、それぞれ一本ずつだ。
レイネの意図を理解した僕は、それぞれの因子をチェックしてみる。そのどちらにも“燃えやすい”の因子がついていた。
「ちょ、ちょっと貸してもらってもいいかな?」
「いいよー」
二本の棒、それぞれに因子の取り込みを実行する。その結果――――
「両方取り込めました」
「ということは」
「因子、増やせます……」
「とんでもないな」
僕とルクスは呆然として、
「ねー? できるー!」
「かんたーん!」
ライナとレイネはキャッキャとはしゃいだ。
一回だけでは偶然かもしれない。他の木の棒、雑草でも試した結果、推測は確信に変わった。分割しても因子はそのまま残るみたいだ。
「ね? 凄い? レイネ、凄い?」
「うん、凄いよ! レイネは天才だ!」
「ライナも! ライナもでしょ?」
「そうだね。ライナも気づいてたもんね。天才だよ」
「「えへへ!」」
褒めろ褒めろとアピールしてくる二人の頭をくしゃくしゃと撫で回す。でも実際凄い。まさか、そんな単純な方法で増やせるなんて思わなかったなぁ。だって、こんなの増やしたい放題じゃん。
「ロイ……今、俺の常識は壊れたぞ」
「それは僕も……え?」
嘘でしょ?
そう思いつつもウィンドウで確認する。
■現在の保有GP:27
「ふ、増えてる!? しかも、上昇幅凄い!」
「……そうか。もしかして、二人分なのかもな」
「えぇ!? 僕自身にも適用されるの、それ!?」
「どうだろうな……」
ルクスは首を振る。それはそうだ。検証してみないと分からない。でも、事実だとしたらとんでもないことじゃない?
僕の常識を壊せばGPが手に入るってことが、ではない。同じ内容でも、複数人の常識を壊せばそれぞれGPがもらえることが、だ。
例えば“水霊の加護”で水が出せるって知識を広めれば、それだけでGPガッポリもらえるんじゃないかな? 一人頭10GPだとしたら、100人で1000GPだ。どんどん強化できるぞ!
「ねー、ロイ。レイネにも、服綺麗にするの、つけてよー」
「ライナも! ライナにもつけて!」
ぼんやりとトラタヌしてたら、双子にせがまれた。もちろん、拒否なんかしないよ。使えるものは、有効利用しないとね!
「わかったよ。あ、もちろん、ルクスの服にもつけるからね」
「ああ。助かる」
服についた“浄化作用”を小枝に移し替えて、ポキポキ折っていく。あっという間に因子は増えて、全員分を確保するのもすぐだった。
よし、これでみんなの服も自動洗浄機能つきだ。混沌神の使徒になったと聞いたときには驚いたけど、この恩寵をもらえて本当に良かったよ。




