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127. 従魔応援の検証

 とりあえず、細々(こまごま)としたことはおいといて、不思議そうな顔をしているリーヤムさんに事情を説明してあげよう。


「ええと、ですね。ライナとレイネは従魔の力を引き出す"従魔応援"という能力を持っていて――」


 ビネが劇的に加速したことについて、僕の知りうる情報を提供する。と言っても、僕自身、実際の効果を見たのはさっきが初めてだ。因子の説明から読み取れることくらいしか話すことはないけど。


「つまり、二人の声援によって、ビネさんの能力が向上したということですか?」


 リーヤムさんが驚いたような声を上げた。糸目の彼女の表情は読みにくいけど、心底驚いているのは声から伝わってくる。


「そのような能力があるのですね。初めて聞きました」

「僕も効果を見るのは初めてです。正直、ここまではっきりと変わるとは思ってませんでした」


 従魔の能力強化と聞いて、リーヤムさんの興味は尽きないようだった。


「もしよろしければ、その効果の程を実際に見せていただけませんか? 調教師として、とても興味があります」


 リーヤムさんの目が輝いている。調教自体にはあまり関係がない気もするけど、従魔の使役には大きな影響があるスキルだものね。探究心が刺激されているみたいだ。


「そうですね。僕も、どの程度効果があるのか気になってたところなんです」


 というわけで、実験をすることになった。ライナとレイネに話すと二人も楽しそうに賛同してくれる。


「いいよー!」

「なにするのー?」

「そうだなぁ。見てわかりやすいのは力の強さかな。応援の前後で、どれだけ力が強くなったかわかるような実験がしたいね」

「「ふむふむ」」


 僕が実験の構想を伝えると、双子が二人でこそこそ相談しはじめた。見守っていると、二人は頷いて駆け出す。そして、少し離れた場所で立ち止まると、魔法を唱えた。


「できたー!」

「壁だよー」


 ライネとレイネが魔法で作ったのは土の壁だ。高さと幅はライネたちが立ったまま隠れられるくらいのサイズで、厚みはおよそ10cm。土とはいえ、崩すにはなかなかの労力が必要そうだ。それぞれ1枚ずつ作ったから、合計で2枚ある。


「凄い……お二人は魔法の才能もお持ちなのですね」


 リーヤムさんが驚いている。“従魔応援”のときよりも驚きが大きいね。“従魔応援”は未知の力だけど、魔法は少ないとはいえ比較対象がいるせいかな。


 まぁ、それはともかく、今は“従魔応援”の検証だ。


「これに攻撃しろってこと?」

「「そうー!」」


 2枚用意したのは、応援前後での違いを見るためかな。試すのはビネがいいよね。一度、効果を体験しているし、スキル構成が魔法よりだから効果がわかりやすいはずだ。


「じゃあ、ビネ。あの壁を攻撃してもらえる? まずは応援なしで」

「チュウ!」


 赤マフラーを風にたなびかせたビネが任せろというように胸を叩く。


「チュチュウ」


 ビネは少し離れた位置から左の壁を見据えると、一気に加速した。小さな体が跳躍し、後ろ脚で壁を蹴る。ボフッと音を立てて壁が小さくえぐれた。


「チュウ……」


 土壁は崩れない。その結果に、ビネは悔しげな声を漏らした。ビネの体格からすれば、十分な威力だと思うけどね。


「まぁ、普通はこんなもんだと思うよ。じゃあ、次は応援ありで試してみようか」

「チュウ!」

「「はーい」」


 僕が言うと、ビネと一緒にライナとレイネが返事をする。合図を送ると、検証開始だ。


「ビネ、頑張って!」

「やっちゃえー!」

「チュチュウ!」


 見た目に変化はない。けれど、ビネのやる気は明らかに上がった。


「チュウ!」


 さっきと同じ動き。だけど、その速度は比べ物にならない。走り出したと思ったら、一瞬で壁に迫っている。あっと驚く間もなく、それは起こった。


――ドスン


 鈍い音が響くと、大量の土が後方に飛んでいく。土壁は完全崩壊。見守っていた住人たちが慌てて避難していくのが見えた。ちょっと申し訳ない。


「チュチュウ!」

「すごーい」

「ビネ、かっこいい!」

「チュウ!」


 ライナとレイネに褒められて、ビネは誇らしげだ。その光景は微笑ましいけど、威力は全然微笑ましくないよね。応援の効果って、ここまで劇的なものだったのか。強化倍率が思ったよりもえぐいね。調子に乗って、最高レベルで付与したせいもあるだろうけど。


「素晴らしい……素晴らしい才能です!」


 リーヤムさんが、ライナとレイネを見て目をキラキラさせている。二人に従魔師としての才能を見ているみたいだね。


 一方で、双子は褒められてキョトンとしている。


「さいのー?」

「違うよ、これはロイが……あっ」


 言いかけて、ライナがしまったという顔をする。レイネも、両手でライナの口を塞ぐ。


 因子のことは、人に知られないようにしている。そのことを思い出して、口をつぐんだんだと思うけど……あからさますぎて、隠し事があると言っているようなものだった。さすがに怪しいと思ったのか、リーヤムさんも首を傾げている。


「そういえば、ロイさんは付与術師でいらっしゃいましたね……」


 リーヤムさんがじっと僕を見た。


 僕の因子付与は付与術として誤魔化している。“従魔応援”もそのひとつだと考えているのかな。さすがに、付与術でも“能力向上を人に与える付与”なんてできないと思うけど。


 とはいえ、事実がどうこうよりも、リーヤムさんがどう考えるかって問題だからね。もう僕が何かやったって確信している目つきだ。まぁ、サーカスを通してそれなりに付き合いがあるから、僕がほんの少し普通じゃないこともバレてるのかも。


 うーん、どうしよう。誤魔化すと言っても無理があるし、リーヤムさんになら打ち明けてもいい気がする。むやみに言いふらす人じゃないし、トビネズミレースを開催する上で、従魔につける因子の相談とかもしたいし。

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