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126. トビネズミレースの実現性

 今日は、僕とライナとレイネ、そしてリーヤムさんで特区にある空き地にやってきた。


 ここにきた理由は下見だ。トビネズミレースを開催するにあたって、どこかいい場所はないかなと思ってね。せっかくだし、空き地も有効利用しようと思って。


 広さは十分にある。ここなら、問題なく開催できそうだ。


「ずいぶん、良い場所ですね。でも、なぜ空き地に?」


 リーヤムさんが首を傾げながら尋ねる。ここは区の中央部付近。大通りにも近く、立地としては悪くない。いや、かなり良いと思う。それだけに、空き地になっているのが不思議なんだろうね。


 まぁ、大した理由じゃないんだけど。


「老朽化が激しかったので、取り壊したんです。で、使い道がなかったので、そのままにしておきました」


 ギャング団が逃げ出したことで、スラム化していたときよりも、住人がかなり減っている。そのぶん、土地も余ってるんだよね。普通なら、どこかの商会でも進出してきそうなものだけど、元スラムという悪評もあってか、そんなこともなく放置されたままだったんだ。まぁ、サーカスのおかげでかなり評価が見直されたはずだから、そのうち人は増えるかもしれないけど。


「じゃあ、ここでトビネズミレースを?」

「はい、ちょうど良い場所なので。何か、問題がありそうですか?」

「いえ、問題はないですよ。ただ、思ったよりも賑やかになりそうだなぁと」


 リーヤムさんは苦笑いで首を振った。まぁ、最初はこぢんまりとやるつもりと伝えたものね。こんな一等地でやるとは思わなかったのかも。


「ここを走るの?」

「真っ直ぐ走る?」

「チュウ?」


 ライナとレイネが、空き地を見回しながら言った。ライナの頭の上で、ビネも同じような仕草で空き地を見ている。


 広さは十分にあるので真っ直ぐでもいいけど、せっかくだから、レースっぽく周回コースにしたいかな。


「ちょっと待っててね。今、コースを作るから」


 本格的にやるには準備が足りない。けど、仮のコースを作るなら、水魔法があれば十分だ。僕は、ごく弱い威力で水滴を垂らしていく。とりあえず、無難に一周回るコースを描いた。カーブは緩やかに、ゆっくり歩いても5分くらいで一周できる短めのコースだ。


「なるほど、この線に沿って走らせるわけですね!」


 リーヤムさんが楽しげに頷く。ライナとレイネもニコニコと笑って走り出した。トビネズミレースの前に自分たちが回ってみるみたいだ。


「じゃあ、ビネ、参加してくれそうな子を呼んできてもらえる? 最初は……そうだな。6人くらいで走ってもらおうかな」

「チュウ!」


 いつの間にか僕の肩にいたビネに参加者を連れてきてもらう。しばらくすると、ビネが部下を引き連れて戻ってきた。青マフラーの警備隊が2人、黄マフラーのサーカス隊が3人だ。


 レース仕様ということで、因子構成を変えておこうかな。


・ちょこまか動く

・身体能力向上(Lv10)

・奮い立つ心


 “ちょこまか動く”と“身体能力強化”で素早さを底上げする。“奮い立つ心”は逆境に強くなる因子だ。レース順位が逆境につながるかどうかわからないけど、もしかしたらと思ってつけてみた。とりあえず、これでやってみよう。


「……あれ? 5人しかいない?」

「チュウ! チュチュチュウ!」

「あ、ビネが出るんだ。やる気だね!」

「チュウ!」


 どうやら、ビネ自ら出場して、隊長としての威厳を見せつけるみたいだ。


「チュウ!」

「「「チュウ!」」」


 ビネを先頭に、トビネズミ隊がスタート位置に並ぶ。その様子を見て、リーヤムさんが感心の声を上げた。


「やはり、あの子たちは賢いですね。普通なら、ああやって大人しく並ばせることから教えこまないといけないんですが」

「ビネが連れて来る子はみんな賢いですよ。僕の言うことはちゃんと聞いてくれますから」


 そうこうしているうちに、双子が戻ってきた。その後ろには、楽隊を任せているグレンもいる。少し前から見物人が増えはじめたなと思ってたけど、その中に彼もいたらしい。


「何をやってるんだ?」

「レースだよ。トビネズミたちに走ってもらうんだ」

「へぇ、面白そうだな」


 少し離れたところに、楽隊の姿もあった。練習中を邪魔しちゃったのかもしれない。でも、ちょうど良かったかも。


「ねぇ、グレン。スタートの合図をお願い? 太鼓を叩いてくれればいいから」

「なるほど。任せておけ」


 従魔隊にも太鼓の合図で走るように伝える。グレンが僕に目配せをした。準備ができたみたいだ。頷くと、彼はニヤッと笑った。


――ドンッ!


 太鼓の音と共にレースが始まる。


「「速〜い!」」


 ライナとレイネが歓声を上げる。見物人たちからも驚きの声が漏れた。


 いや、本当に速い。因子によって強化されているから当然なんだけど、想像していた以上だった。


「ほら、頑張れー!」

「行けー!」


 見物人たちも盛り上がってくる。これは予想以上に楽しんでもらえそうだ。


 ただ、ひとつ気になることがあった。他の参加者と比べてビネが遅れているんだ。どうにか食らいついているけど、ジワジワと距離が離されている。調子が悪いのかな?


 ……あっ、違うや! そういえば、ビネだけ因子の構成を変えてなかった!


 ビネはどちらかといえば魔法寄りの因子構成だ。素早さ重視の他の子と比べると、レースでは不利だ。


「ビネ、頑張って!」

「負けるなー!」


 一人遅れているのを心配したのか、ライナとレイネがビネを応援した。その瞬間――


「チュウ!」


 ビネの速さが急激に上がった。凄まじい加速だ。


「すげぇ!」

「逆転だ!」


 見物人たちから歓声が上がる。ビネはぐんぐんと他の子を抜き去った。その後も勢いは止まらない。そして――


「チュチュウ!」


 最終的にトップでゴールインだ。ギリギリだったけど、隊長としてのメンツは保たれたみたい。


「やったね、ビネ!」

「かっこいい!」

「チュウ!」

「「「チュウ」」」


 双子が手を叩いて喜んでいる。参加した他のトビネズミたちも凄い凄いと集まってきた。褒められて、ビネも満更じゃないみたい。


 でも、なんであんなに急に速くなったんだろう。ライナたちが応援してから、一気に逆転した。考えられるとしたら……あ、"従魔応援"か!


 声援を送ることで従魔の能力を強化する因子だ。二人にはそれを付与していたんだった。いつか試さなきゃと思って、すっかり忘れてたよ。


 なるほど。たしかに、能力が強化されるみたい。ここまで、はっきりと変わるとは思わなかったけどね。


「観客の反応は上々でしたね。ですが、最後の追い上げはなんだったんでしょう?」


 リーヤムさんが不思議そうな顔をしている。やっぱり気になるよね。


 不思議に思われるくらいならいいけど、もし賭け事なら八百長を疑われるような事態だ。というか、意図してやったら紛うことなき八百長だし。


 トビネズミレース。盛り上がりそうだけど、いろいろ考えなきゃならないことは多いかもね。

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