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124. ゼイン様がやってきた

 トールさんたちが、そろそろ二度目の邪教徒討伐を考えているみたい。それに関しては僕も考えていることがある。けど、今日は通常業務だ。


 いつもの執務室で、住人の要望やトラブルの報告に頭を悩ませていた。サーカスを始めてからは、他区からのお客さんも増えているから、考えることも多いんだよね。まぁ、特区の発展のためには避けられないことだから、いいんだけどさ。


「ガチャマシーンを特区にも導入して欲しいです、か……うーん」


 ガチャマシーンは今のところ“飛び鼠の尻尾亭”に1台設置して様子を見ているところだ。なのに、要望がくるくらいには噂が広がってる。


 まぁ、心当たりはあるんだけど。ルクスが楽しそうに話して回ってるみたいだからなぁ。


 設置するのは構わないんだ。でも、今のところ、商会員はお給料制じゃない。設置しても回せないかな? 中身が欲しいのなら、支給してもいいんだけど……でも、きっとそういうことじゃないんだよね。


 とりあえず、まずはお給料制に移行しよう。ガチャマシーン設置は食料や日用品にどのくらいお金が必要か把握できてからだ。じゃないと、必要なお金までガチャに使いっちゃいそうだし。


 というわけで、本案は保留とします。で、次は――


「ロ、ロイ区長! お客様です!」


 次の案件に取り掛かろうとしたら、ノックもなく執務室のドアが開いた。ゴードンさんらしからぬ、慌てっぷりだ。


「どなたですか?」

「それが――」

「うむ、邪魔するぞ!」


 尋ねようとしたところで、ゴードンさんの背後から声がした。どうやら、案内を待たずにやってきたみたい。


 現れたのは僕と同じくらいの年齢の少年だった。栗色の髪に澄んだ青い瞳。服装も上質で、一目で身分の高い人物だとわかる。いや、だって、後ろから衛兵さんらしき人たちが慌てた様子でついてきてるしね。


「お前が区長代理のロイか。会いたかったぞ」

「あ、はい。ありがとうございます」


 言葉遣いは少し偉そうだけれど、表情はにこやかで、とてもフレンドリー雰囲気だ。それはありがたいのだけど、名乗ってくれないので何者かわからない。


 まぁ、何となく想像はつくけれど。


「ええと……」

「御領主様の二番目の御子息、ゼイン様です」


 僕が戸惑っていると、ゴードンさんがこそっと教えてくれた。やっぱりラウル様の息子か。衛兵さんを引き連れているからそうじゃないかと思った。


 おっと、急展開すぎて座ったままだ。慌てて立ち上がり、頭を下げる。


「初めまして。区長代理のロイです」

「ああ、よろしく。ああ、堅苦しい礼儀作法とかはいらないぞ。俺は堅苦しいのが苦手なんだ」


 ゼイン様はにこやかに笑って手を振った。


 普通に考えればその言葉を鵜呑みにしてはよくないと思うけど、ゼイン様のことは噂に聞いてる。まぁ、お転婆というか、好奇心旺盛で街のあちこちに顔を出してるんだとか。市民にひどく当たってるという噂もないし、たぶん言葉通りなんだろうな。


「それで……今日はどのようなご用件で?」


 僕が尋ねると、ゼインの表情が曇った。


「実は、邪教徒の噂を聞いてな……」


 その言葉に、身構える。僕を疑って、捕らえにきたのかもと思ったんだ。でも、ゼイン様は僕の反応を見て、慌てて両手を振った。


「ああ、心配ないぞ! お前をどうこうするつもりはない。混沌神の使徒だから誤解されてるのだろうと、父上からは聞いてる」

「えっ……?」


 思わず間抜けな声が出た。


 いや、だって、領主様に混沌神様の使徒だってことがバレてると思わなかったから。


 でも、考えてみれば、カトレアさんのこともあるし、トールさんやキースさんからも情報が入っているのかもしれない。


 なんにせよ、領主様すら邪教徒の噂を相手にしていないなら、そちらの心配はなさそうだね。


「そうだったんですか」

「うむ。ただ、変な噂を立てられてまいっているのではないかと思ってな。激励に来たのだ」


 ゼイン様は微かに笑みを浮かべている。その姿には少し威厳みたいなのを感じた。さすがは、子爵家の令息だけあるね。


 と思ったのもつかの間。ゼイン様の顔が笑み崩れた。


「それに礼も言いたかったのでな! いや、従魔サーカスは本当にいいな! 素晴らしい! あんなサーカス、他の街では見られないだろう。弱い魔物であるはずのトビネズミが、派手な魔法を使う。しかも、ドタバタ劇がまた面白い! いても立ってもいられずに、思わずここまで走ってきてしまったぞ」


 早口でまくしたてるゼイン様。大げさだなって思ったけど……衛兵さんたちの勘弁して欲しいって表情を見ると、あながち大げさでもないのかも。実際、執務室にも先頭に立って入ってきたわけだし。


 とはいえ、それに関しては衛兵さんとゼイン様の問題であって、僕が気にすることじゃない。僕としては、サーカスを気に入ってもらえたのなら喜ぶばかりだ。


「お気に召していただけて良かったです」

「ああ、もちろん気に入った! ここには、新しい玩具や食べ物もあるらしいじゃないか。最近はガチャとか言うものも生み出したと聞く。ぬぅ、気になるじゃないか!」


 ゼイン様の目がキラキラ輝いている。ガチャとか設置したばかりになのに、よく知ってるね。


「ゼイン様、そろそろ……」

「なに、もうか?」

「もうと言われましても。そもそも、こちらに来る予定はなかったのですから」

「ぐぬぬ」


 話したりない様子のゼイン様だけど、衛兵さんの1人に切り上げるように促されて表情を渋くする。とはいえ、貴族の子息としてやるべきことがあったりすんだろう。渋々ながら、頷いた。


 だけど、去り際にポツリと呟く。


「ところで、だ。他の街にはウマレースというものがあるらしいのだ。ロイならネズミレースとかできそうじゃないか?」

「ゼイン様!」

「わかったわかった。ではな、ロイ! 街を面白くしてくれ! 頼んだぞ!」


 そう言い残すと、ゼイン様は慌ただしく帰っていった。なんだか嵐のような訪問だったな。


 それにしても、ウマレースか。競馬みたいなものかな。たしかに、盛り上がるかもしれないね。前世でも人気の賭け事だったし。


 あれって、作れってことかな?


 ネズミレース。確かに、新しい娯楽としては面白そうだ。ビネたちに協力してもらえば実現は難しくないよね。観客も楽しめるし、賭けの要素を入れれば大人も夢中になるかもしれない。


 まぁ、新しい娯楽にはなりそうだし、やってみてもいいかもね。

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