【悲報】混沌神の使徒になりました。ギャル神官曰く、一応ギリギリ邪神じゃないそうです【朗報？】

123. 特区住人の反応

　屋敷に戻っても、オードさんから聞いた噂話が頭の中でぐるぐる回る。混沌神様は邪神じゃないし、僕も邪教徒じゃない。自信を持って言えるけど、他の人たちが信じてくれるかは別の話だ。

　一人で悩んでもしかたがないので、誰かに相談することにした。ルクスとトールさんがいたので時間をとってもらう。

「邪教徒の噂か……」

　事情を説明すると、ルクスは深刻な表情になった。トールさんも渋い顔で腕を組んでいる。

「うーん、厄介だな。根も葉もない……とも言えないのが特にな」

　混沌神様は、隣国だと禁教扱いだからねぇ。そうでなくとも、混沌神様を邪神と変わらないと見てる人たちはいるって聞くし。その筆頭が、僕らのまとめ役だったトンガだ。以前、あの人から向けられた憎しみの目を思い出すと、背筋が寒くなる。

「ねぇ。トンガって、今、どうなってるの？」

　あまり関わりたくないから、以前の大捕物以降のことは聞いてなかった。もしかしたら、あの人が関わってるんじゃないかと思ったのだけど、トールさんはそれはないと首を振る。

「放火は重罪だ。ヤツは犯罪奴隷として鉱山送りになった。脱走者が出たという話は聞いていないから、アイツが関わっている可能性は低いだろう」

「そうなんだ」

　重犯罪者が脱走したなんて事態になれば、領主としてのメンツに関わる。大きな動きがあるはずだし、トールさんに協力要請があってもおかしくない。だから、トンガが直接関与してる可能性は極めて低いだろうというのがトールさんの予想だ。

「だとすれば……」

　ルクスが何かを思い出したような顔になる。

「ターブルたちの関与の可能性はどうだ？」

「ああ。お前たちとトラブルになったって冒険者たちか。その可能性はあるな」

　トールさんも頷く。確かに、ターブルたちなら僕を貶めるために噂を広めることくらいやりそうだよね。

「ろくなことをしないな、あいつらは」

　ルクスが憤る。いや、まだ彼らの仕業と決まったわけではないけどね。

「犯人探しも必要だが噂への対処が必要じゃないか？　ロイを知ってるヤツなら、そう簡単に信じやしないとは思うけどな」

「そうですね。ロイ、とりあえず、私が街の人たちに聞き取りをしてみる。お前は、少し待っていてくれ」

　というわけで、ルクスが中心になって特区住民から邪教の噂について聞き取りをしてもらった。僕が前に出ないのは、本人には直接話しづらいと思ったからだ。

　結果は……あまりよくない状況みたいだ。次の日、再び集まったところで、ルクスが不快そうに口を開いた。

「かなり噂が広がっているようだな」

　まず驚いたのは、噂がすでに特区まで届いていたこと。他の地区で冒険者たちが話していたのを聞いたという住人もいれば、商売で外に出た際に耳にしたという人もいた。なにより、サーカスで特区を訪れたお客さんが不安そうに聞いてくることが多いんだって。

“衛兵に伝手のあるロイという少年が邪教徒で、邪教の教えを流布するために衛兵を動かしてスラムを壊滅させた”

　それが噂の内容みたい。

「間違いなく僕を狙い撃ちにしてるね」

「その割には、情報が中途半端だな。区長をやってるってことは伝わってないのか？」

「ターブルたちが噂の出どころならあり得ると思います」

　トールさんの疑問に、ルクスが答える。

　たしかにね。ターブルたちは、スラムに衛兵隊が押し入ることを察して逃げた。それ以後の話は詳しくはないはず。ますます、彼らの関与している疑いが深まった。

　まぁ、ターブルのことは、今はいいや。問題は多くの住人が噂を知ってしまったことだ。

「……噂を聞いた人たちの反応はどうだった？」

　恐る恐る聞いてみる。すると、ルクスは笑って、手をパタパタ振った。

「ははは、心配しなくても大丈夫だ。そんな噂を信じてるヤツはいなかったよ。少なくとも、特区の住人にはな」

　ルクスが言うには、住人の多くは僕に感謝してくれてるらしい。住民を保護して、街を発展させる人物が邪神なわけがないっていうのが彼らの反応だ。そんな感じで否定するものだから、噂話を聞いて不安を抱いていた人も“噂は噂か”と納得したみたい。渦中の人物が区長代理だと知って、“政敵が足を引っ張るためにありもしない噂を流したのかもな”なんてことを言った人もいたそうだ。

「そうなんだ。信用してもらえるのは、素直に嬉しいね」

「そうだな」

　思ってもみなかった反応に喜んでいると、ルクスも笑顔で同意してくれた。だけど、言いづらそうに言葉を続ける。

「ただ……」

「ただ？」

「いや、悪いことじゃないんだ。ただ、ロイが混沌神様の使徒だってことが思いの外知られていたみたいで」

「えぇ！？」

　そうなの！？

　僕が混沌神様の使徒であることは、積極的に広めるようなことはしていない。理由は、もちろん邪教扱いされることがあるからだ。

　それがなぜ広まっているかと言えば、キャルさんたちから漏れたみたいだ。彼女たちは、混沌神様の使徒であることを隠していない……どころか、神殿をお店に改装しているくらいだから、思いっきりオープンにしている。僕が使徒であることを口止めもしてないので、会話のなかでポロッと出て、それで住人にも伝わってしまったらしい。

「そ、そうだったんだ。それでよく邪教徒だと誤解されなかったね」

「それこそ、ロイの功績があってこそだろうな。思ったよりも、混沌神様への好感度が高くて驚いたよ」

「そうなの！？」

　いつの間にか、混沌神様そのものの評価まで変わっていたなんて。もちろん、あくまで特区においては、なんだろうけど。

「よかったな。まぁ、ロイの頑張りがあってこその結果だ。誇ってもいいんじゃないか」

　そう言ってトールさんが褒めてくれる。ちょっと照れるけど、素直に嬉しいよね。

　とはいえ、好意的に見てもらえるのはあくまで特区の中……あるいはブルスデンの街だけだ。他の街にも噂が広がっている事実は楽観視できない。そちらにも対処しないと駄目だよねぇ……。