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122. 気になる噂

 キースさんとカールさんの協議の結果、無限薪は景品から除かれることに決まった。やっぱり、無限に使える燃料は世の中に与える影響が大きすぎるって。混沌神様の使徒としてはそれも歓迎すべき事態なのかもしれないけど、ここは素直に従っておこうかな。僕は穏便派だからね。世の中を良い方に変えたいとは思うけど、混乱で駄目にしたいとは思わない。


 代わりと言ってはなんだけど、発光ワンドのような便利アイテムは採用されることになった。小銀貨1枚で得られるには価値が高すぎるって意見もあったけど、うちの商会で提供する商品に関しては今に始まったことではないだろうと言われてカールさんも黙った。


 ただ、そのまま採用ってわけにはいかなかったけど。


「せめて、見てくれは改善しましょう。せっかくの機能もこの貧相さでは台無しです!」


 カールさんの主張は僕以外の全員に支持された。


 いや、僕だって見た目は大事だと思ってるよ。あのときは原価を抑える意図があったから、この辺りの小枝に付与しただけで。本当だよ。


 というわけで、発光の因子は、ちゃんとしたワンドへと付与しなおすことになった。魔法学校の生徒が使ってそうなちょっと高級そうな短杖だ。手に持って振ると、ちょっと気分が良いね。


 原価は高くなるけど、それ自体は大した問題じゃない。マテリアルデュプリケーターで複製するだけだからね。あくまで、ガチャ代金の小銀貨1枚に見合うかどうかってところが懸念点だったんだ。これに関しては、キースも「まぁ、ある程度は妥協せざるをえない」と言っていた。むしろ、見た目でバランスを取られるよりはマシだってぼやいてたね。小枝にポンポン付与することで、”実は魔道具って大したものではないのでは”という間違った認識を与えかねないとかなんとか。

 

「でも、これじゃ、カプセルに入らないよね」

「代わりに引換券を封入しておくとしましょうか。それでしたら、引き換え時にワンドの使い方も説明できます」


 カールさんのアイデアで、引換券で対応することになった。引き換えはロルレビラ商会の店舗で行う。無人販売できるメリットが消えちゃってるけど、高級商品なんだからそれぐらいした方がいいと言われた。まぁ、それもそうか。高価な物が入ってると知られたら、ガチャマシーンごと窃盗される可能性がある。


 ちなみに、発光ワンドを含めて、僕が因子付与したアイテムはあくまで“魔道具”として紹介することになった。簡単に付与できると思われると、僕の力を利用しようとして近づいてくる人が増えるだろうからね。領主様にも、”付与にはそれなりに負担があるので軽々しく使えない”と伝えてあるから、因子付与を押し出すわけにはいかない。



 

 そんな風に検討を重ねた結果、ついにガチャマシーンが正式設置されることになった。でも、よく考えてみれば、特区でお金を使う人は少ない。かといって、他区の人が多いサーカス前に置くのもね。ただでさえひどい混雑がますますひどくなりそうだ。


 というわけで、他区への展開を考えることにした。お試しとして、まずは”跳び鼠の尻尾亭”に置かせてもらうことに。もちろん、リッドさんには許可を取ってるよ。

 

「おお、ロイじゃないか。今度は何をしてるんだ?」


 設置のために宿を訪れると、店先でばったりオードさんと出会った。


「面白い物を持ってきたんだよ。そうだ! せっかくだから、試してみません?」


 ガチャマシーンについて説明すると、オードさんは興味深そうにガチャの筐体を眺めた。


「へぇ。小銀貨1枚か。何が出るかわからないのは面白いけど、ちょっと怖いな」

「基本的に、値段に見合ったものが出てくるようにはなってますよ」

「まぁ、ロイが作ったものだからな。その辺りは心配してない……というか、その逆が怖いな」


 そう言いながらも、オードさんはためらいなく小銀貨を投入してハンドルを回した。ガチャガチャと音を立てて、カプセルが飛び出してくる。


 カプセルの中身は紙切れだ。


「なんだ、これ? マナ癒しの香、引換券?」

「あ、それは結構、当たりだよ! 例のあれでマナが回復する香りを放つ魔道具になってます」

「ああ……例の、あれか」


 曖昧な説明だけど、オードさんは因子付与のことを知っている。それだけでピンと来たみたい。


 実物は小さめの香炉で、それに因子を付与した形。因子の構成はこんな感じ。


・安らぐ香り〈オン・オフ(他)〉

・高品質(Lv10)

・自動修復(Lv10)


 オードさん……というか、彼の仲間のイリスには“安らぐ香り”が付与された匂い袋を渡してあるけど、その上位互換的なアイテムだ。高品質で性能を高め、オン・オフ機能もついてるから不要な時は匂いを消せる。おまけに壊れても自動で修復される。


「お前、それを小銀貨1枚って……」

「いや、これは当たりだからだよ」


 そんなやり取りをしていると、宿から出てきた他の冒険者たちもガチャに興味を持ってくれたみたい。だんだん人が集まって列ができてる。ガチャを回すたびに、歓声が上がって反応も悪くない。よしよし、ガチャ布教は順調だね。


 みんながガチャを楽しんでいる中、オードさんが僕のそばに寄ってきた。


「ロイ、ちょっと気になる話があるんだ」

「話? どんな?」


 オードさんの表情が少し曇る。何か良くない話だろうか。


「最近、別の街で仕事をしていたんだが……そこでブルスデンの街に邪教徒がいるという噂を聞いた」

「邪教徒……ですか」


 うーん、嫌な予感がするね。


「あの、トンガってヤツの件もあるだろ。詳しく話を聞いてみたら、どうもお前のことを言ってるんじゃないかって気がしてな」


 ああ、やっぱり。そんな気はしてたんだよね。


「とりあえず、その冒険者には否定しておいたが……気をつけろよ」

「うん。ありがとう」


 オードさんがフォローしてくれたみたいだけど、そんな簡単に収まる話じゃなさそうだ。発生源もわからないくらい広まっているみたいだし。


 根も葉もない噂と否定できないところが辛いよね。もちろん事実ではないんだけど、混沌神様の世間的評価は邪神スレスレだから。厄介なことにならないといいんだけどなぁ。

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