121. ガチャマシーンが完成
さすがはリック。異星の技術を使って、一晩でガチャマシーンを作ってくれた。僕の因子ガチャを参考に作ったので、見た目はかなり近い。
『これで小銀貨を入れて、このハンドルを回すとカプセルが出てくるよ』
リックがニコニコ笑いながら説明してくれる。因子ガチャはボタン式だけど、こちらは前世を彷彿とさせるハンドル式だ。コインを入れて回すとガチャガチャと音を立てながらカプセルが出るタイプだね。やっぱりガチャはこれじゃないと。
さすがに、一晩で景品は用意できなかったので、数日後に各自で用意して集まることにした。僕ら自身が楽しめるように、カプセルに封入した状態で持ち寄る。何が出るかは実際に引いてみてのお楽しみってわけだね。
「みんな、準備はできてる?」
「「できてるよー!」」
「もちろんだ!」
僕の確認に、ライナとレイネが元気よく答えた。ルクスも頷いている。トールさんやキースさんもちゃんと用意してきてくれたみたいだ。
キャルさんたちにも声をかけたけど、二人は残念ながら不参加。まぁ、仕方がないね。彼女たちは今、服作りで忙しいから。ただ興味は持ってくれたみたい。手があいたら参加してくれるかもね。
マシーンの中に、それぞれが用意したカプセルを入れていく。これで準備はOKだ。あとは設置場所だけど、とりあえずロルレビラ商会のお店前にしておいた。集客を考えればサーカス近くに置くのがいいんだろうけど、まぁまだお試しだしね。
「また、面白そうなことをしていますね、会長」
商会の本部を取り仕切ってくれているカールさんも興味深そうにガチャの筐体を見ている。
「これはどういったもの何ですか?」
「ガチャです。小銀貨を1枚投入してハンドルを回すと素敵なものが手に入るんですよ」
「ほほう。なかなか面白そうですね。試してみてもいいですか?」
「はい、もちろん」
カールさんがお客さん第一号になってくれるみたいだ。すぐそばでルクスがそわそわしていたけど、さすがにカールさんを押しのけてまで自分がと主張する気はないみたい。まぁ、僕らはその気になればいつでもできるしね。
カールさんが小銀貨を投入口から転がし、ハンドルをぐるりと回した。ガチャンという音と共に、カプセルが排出口から転がり出る。
「これが景品ですか?」
「あ、それ開くんです。景品はそのなかですよ」
「ほう」
楽しんでくれているみたいで、ニコニコ顔でカプセルを開いた。中身は……布切れ?
「おお、これは上等なスカーフですね。これが小銀貨1枚ですか?」
カールさんが感心したように言う。たしかに、手触りも色合いもかなり良さそうで、高級感がある。小銀貨1枚だとかなり割安だね。
「これは誰が入れたの?」
「私だな」
名乗り出たのはキースさんだった。ちょっと納得感がある。
「これ、いくらくらいなの?」
「む……いや、まぁ小銀貨1枚よりは値がつくだろうが、他にちょうど良い物がなかったからな」
キースさんが気まずげに目を逸らす。あまり高価な物を入れちゃ駄目って言った本人がこれだからね。まぁ、とんでもなく高価ってわけでもないんだろうけど。
「当たりの景品と考えたら、このくらいならいいのかな?」
「まあ、いいじゃないか?」
「うむ」
僕の言葉に、トールさんが頷く。その反応に、キースさんはほっと息を吐いた。
「つ、次は私がやっていいか?」
「あはは、もちろんだよ」
次に名乗り出たのはルクスだ。やっぱり我慢できなかったみたい。いい笑顔でガチャのハンドルを回してる。
「これは……アライグマの人形、か?」
「「リックだよ〜!」」
「ああ、二人が作ったのか」
景品は木彫りのリック人形だった。ライナとレイネがアライグマ隊と協力して作ったみたい。工芸品としてのクオリティは、それなり程度なんだろうけど、愛らしさがあって僕は悪くないと思う。特区の住人はもちろん、サーカスを見た人にならウケるんじゃないかな。いや、リックだからアライグマ隊とは別なんだけどね。
「ふむふむ。これも小銀貨1枚の価値はありそうですね。これなら普通に売れますよ。サーカス前で売りませんか?」
カールさんが言った。やっぱり、サーカス客へのお土産としては良さそうだって評価だ。
「じゃあ、次はレイネがやる!」
ニコニコ笑顔でガチャを回したレイネ。だけど、カプセルを開けると、その顔が曇った。
「これ、なにかな?」
「木のたま、かな?」
「「うーん?」」
ライナと一緒に首を捻っている。
あれぇ……?
いまいちウケが悪いなぁ。
「それは無限薪だよ。僕が入れたヤツだね」
「「無限薪〜?」」
「そう。〈自動修復〉が付与されてるから、燃やしても元に戻るよ。燃料として優秀でしょ」
説明するけど、みんなの反応は悪い。それどころか、トールさんは苦笑いで、キースさんは頭を抱えていた。カールさんは目が泳いでいる。
「とんでもない物を入れるなと言っておいたはずだが」
「え? いや、原料は丸く削っただけの木だし、原価はないようなものだよ」
なぜか、キースさんに抗議されちゃった。お金はかかってないと言っても首を振られる。
「そういう問題じゃない。世界のあり方を変えるような道具を手軽に放出するんじゃないと言ってるんだ!」
「その、会長? 原価はともかく、これを売りに出した場合、小銀貨1枚という値付けはさすがに無理があります」
キースさんだけじゃなく、カールさんにも苦言を呈されてしまった。無限に使える燃料はやっぱりインパクトが大きいみたい。無限魔石ほどじゃないけど、多方面に影響が大きすぎるって。
「それに説明なしにこれだけ渡されてもな」
「「使い方、わかんないよ〜」」
ルクスとライナ、レイネからもダメ出しをされてしまった。たしかに、それはそうか。
「ははは、さすがロイだな。他にはどんなものを入れたんだ?」
トールさんが面白がって聞いてくる。けれど、キースさんとカールさんの目つきは険しい。無言なのが逆に怖いよ。
「えっと、ね。発光ワンドとか?」
発光ワンドは、そこらに落ちていた木の棒に〈発光〉因子を付与しただけのものだ。因子加工でオン・オフ切り替えできるようにしてあるから、必要ないときは消すこともできる。原価ゼロだけど、わりと便利なアイテムだと思う。
「発光するだけ、か。まぁ、魔道具なら、その手のアイテムはすでにある。広まってもそれほどの影響は……」
「魔道具でしたら、それで金貨1枚はしますから。それを小銀貨1枚で購入できるのはやはり問題がありませんか?」
「いや、まぁ、それはそうかもしれないが……ロイ殿にそれを言ったところでな」
大絶賛されるかと思ったら、キースさんとカールさんが真面目な顔して話し合いをはじめてしまった。その様子を見て、リックがため息をつく。
『とりあえず、今回は撤収したほうがよさそうだね』
えぇ、なんでぇ?




