119. 10連ガチャはボタン1つ
従魔サーカスによるGP収入は素晴らしかったけど、このところはかなり落ち着いている。客足自体は落ちてないんだけどね。ある意味、従魔サーカスが特区のスタンダードになっちゃったのかも。リピーターもいるだろうし、噂を聞いている人も多いんだろう。事前に知っているか知っていないかで衝撃は変わるから、この結果は仕方がない。
とはいえ、それなりのGP収入はまだある。何が言いたいかと言えば……1000GP溜まりました!
「というわけで、第二回因子ガチャ、開催します!」
「わ〜!」
「やったー!」
僕の宣言に合わせて、ライナとレイネがギタラを奏でる。わざわざ、このために持ってきたみたい。
そして、二人よりもそわそわしているのがルクスだ。前回のガチャ以来、毎日のようにGPを確認してきたからね。平静を装ってるけど、目の輝きを隠しきれていない。
場所は前回と同じく屋敷の食堂。今回はリック、トールさん、キースさんもいる。前回のことを話したら、興味があるみたいだったから声をかけたんだ。
ちなみに、デイリーガチャは毎日引いてるよ。ただ、あんまりパッとした因子は引けてない。だって“平凡”とか“並”とかなんだもの。マイナス効果なら反転で利用できるんだけど、毒にも薬にもならないような因子は使いようがない。初日の“睡眠時回復力アップ”はたまたまの大当たりだったみたいだ。
「では、ガチャマシーン召喚!」
「おお!」
恩寵能力〈ガチャ共有〉を使うと、食卓の上にデンとガチャマシーンが登場した。初めて見るリックとキースさんはちょっとビックリしたみたい。
「あー、こんなだったな」
トールさんは懐かしがってる。元の世界のガチャマシーンにそっくりだよね、やっぱり。
今回は10連ガチャなので、おまけで一回追加で引ける。ここにいるのは7人だから、少なくともみんな一回は引けるね。
と思ったけど、思わぬトラブルが発覚した。いや、トラブルというか、仕様なんだけど。
ノーマルガチャマシーンにはボタンが二つあって、それぞれ“1回”、“10連”と記されている。前回は“1回”のほうを8回押したわけだけど……
「もしかして、10連ボタンを押すと、一気に11回ガチャが回るのかな?」
その場合、最低一人一回の理論は崩れてしまうね。
「……え?」
ルクスが凄く切なそうな顔をした。やっぱり、自分で引きたかったみたい。
うーん、どうしよう。おまけを諦めて、“1回”を10回やるってこともできるけど、もったいない気がするよね。
悩んでいると双子がお互いの顔を見て、にぱっと笑った。そして、ルクスを左右に挟むようにして話しかける。
「ルクスが引いていいよ〜」
「ライナたちは、ボールがポンってするの、見るの楽しいから!」
どうやら、双子はガチャ回すことよりも、因子が飛び出してくるのを見るのが楽しいみたい。ボタンを押す権利をルクスに譲るつもりだ。
もちろん、僕もそれで構わない。リックたちも同意してくれたので、ルクスがボタンを押すことになった。
「じゃ、じゃあ、押すぞ?」
ルクスは情けないって感じの顔をしたものの、ガチャ欲には勝てなかったのか、ライナたちの提案を受け入れることにしたみたいだ。今は嬉しそうな顔で、ガチャマシーンのボタンに手をおいている。
「「いいよ〜!」」
「よし、ガチャ、スタートだ!」
ボタンを押すと、次々にカプセルが飛び出してきた。それはプカプカと宙に浮かぶと横一列に並んだ。そして、順番にパカンと割れていく。
■因子ゲット■
・マナ増幅(Lv3)
・苦味アップ(Lv2)
・透明度アップ(Lv1)
・集中力向上(Lv1)
・風味強化(Lv2)
・幻惑の霧
・運動神経向上(Lv3)
・発光(Lv1)
・吸熱(Lv2)
!パニック(Lv2)
・弾力アップ(Lv1)
おお、なかなか良さそうな因子だね。
◆マナ増幅◆
体に宿せるマナの量が増える
増加量はレベルによる
◆苦味アップ◆
苦くなる
その程度はレベルによる
◆透明度アップ◆
透明度があがる
ただし、一定以上の透明度が必要
上昇率はレベルによる
◆集中力向上◆
集中状態に入りやすくなる
その程度はレベルによる
◆風味強化◆
素材の味わいを強化する
強化率はレベルによる
◆幻惑の霧◆
視覚情報を惑わす霧を発生させる
視覚以外の感覚が鋭い相手には効果が薄い
◆運動神経向上◆
運動技能全般、特に反射速度に関わる技能が向上する
その程度はレベルによる
◆発光◆
自己発光する
明るさはレベルによる
◆吸熱◆
周囲から熱を奪う
その程度はレベルによる
◆弾力アップ◆
弾力性が増す
その程度はレベルによる
◆パニック◆
感情因子
強い混乱状態
マナ増幅と運動神経向上は冒険者として活動するならとても役立つ因子だ。これから邪教討伐に出かけるトールさんとキースさんに付与してあげるといいかもしれない。
苦味アップと風味強化は食べ物系かな。バリエーションは増えることはいいことだ。また食事関係が豊かになるね。
その他の因子も使い道はありそう。前回もそうだけど、ノーマルガチャの因子は役に立つね。
「ど、どうだった?」
「うん。今回の因子もいいのが揃ってたよ。ルクスのおかげだね」
「そうか、良かった」
プレッシャーを感じていたのか、不安そうな顔をしていたルクスがほっと息を吐く。今度は一転して笑顔になった。
「ふふふ、なら今度のガチャも私に任せてくれていいぞ!」
本当にガチャが好きみたい。いい笑顔だ。でも……
「GP獲得も落ち着いてきたし、次のガチャは当面先かな」
「そ、そうか……」
実情を伝えると、ルクスは目に見えて落ち込んでしまった。




