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118. 逆恨み(ターブル視点)

お忘れの方も多いと思いますが、ターブルは元スラム住人でルクスたちの先輩です。ロックスネークの件でロイたちと揉めたあと、街を出ていましたがついに動きが。

---


 ドルスの街に移ってから、一年近くか。新天地で心機一転、Dランクを目指そうと意気込んでいたんだが、現実は甘くない。


「また失敗かよ……」


 今日も依頼は失敗に終わった。依頼内容はレッドティガ――赤い体のデカい猫みたいな魔物――の毛皮を納品すること。レッドティガの討伐ランクはEランクだ。俺たちの実力なら十分やれると思ったんだ。


 実際、倒すのは難しくなかった。俺の剣技はそれなりのもんだ。素早く身を躱すレッドティガの隙をついて会心の一振り! 一撃で……とはいかず、まぁ何度も斬りつけることにはなったが、それでも見事レッドティガを仕留めた。


 それをギルドのヤツが難癖つけやがって。何が、“この品質じゃ納品物として認められない”だ! 毛皮は毛皮だろうが! 馬鹿にしてんのか?


 だが、俺がいくらそう言っても、まったく認めようとしない。しまいには、上のランクのヤツまで俺達を囲んで説教してきやがる。結局、依頼達成と認められず、報酬を貰えなかった。


「ターブルよぅ、俺たち、このままじゃマズイぞ……」

「わかってるよ!」


 仲間の一人、ドルフが不安そうに声をかけてくる。ヤツは俺たちの中では一番若くて、いつも心配性だ。気持ちはわかる。このペースじゃ、いつまで経ってもEランクのままだ。


 いや、それどころじゃない。日々の生活にだって金はかかる。宿代や飯代、それに装備の修理だって必要だ。ただでさえ、生活が苦しいってのに、ここのところ失敗続きで、いよいよ後がなくなってきた。


 ギルドのヤツら、よそ者の俺たちが気に入らないんだろ。だから、こんな嫌がらせをしてくるんだ。


「ブルスデンにいた時は良かったよな」

「……まぁな」


 ポツリと呟いたのはザク。無口なベンも言葉少なに頷く。


 そうだな。あの頃、俺たちの冒険者生活は順風満帆だった。あのままなら、きっと今頃Dランクに昇格して、活躍していたことだろう。


 それがこんなざまになったのは、全てあのガキ……ロイのせいだ。


 思い出すだけで腹が立つ。あの生意気なガキが現れてから、全てが狂い始めた。従順だったルクスたちが逆らうようになったのも、俺たちの立場が悪くなったのも、全部あいつのせいだ。


「許せねぇよな……」

「……ターブル?」

「許せねぇよ。俺たちが、こんな目にあうのも、全部、あのロイとかいうガキのせいだ! そうだろ!」


 俺の言葉に、仲間は一瞬キョトンとした様子だった。だが、すぐにあのときの屈辱を思い出したようだ。顔を歪めて、俺に同調してくる。


「そうだな! あのガキがいなきゃ今頃!」

「生意気だったよな」

「たしかに」


 思い出したら、次々に怒りが湧き上がってきたのか、仲間たちは徐々にヒートアップしていく。恨みを晴らしてやる、殺してやると息巻く様を見て、俺は逆に冷静になった。


「まぁ、落ち着けよ」


 復讐しに行こうと逸る仲間たちを、俺は手で制す。


「お前が言い出したことだろ?」

「わかってる。ただ、何も考えずにブルスデンへ戻ったところで、どうにもならないだろ」


 街を出る前、俺たちはギャングの下っ端をやってるトンガのおっさんにあのガキのことを吹き込んでやった。もともとあのガキに恨みがあったらしいおっさんは、まんまと俺たちの口車に乗って、ガキが宿泊していた宿に火をかけようとしたらしい。


 だが、それは未然に防がれた。しかも、どうやってかは知らないが、あのガキは領主の兵隊を味方につけたらしい。そのせいで、トンガのおっさんは捕まっちまった。


 まぁ、どうせ、はったりで味方につけたんだろう。いや、むしろ領主が都合よく、アイツらの言葉を利用しただけかもしれん。だが、何らかの伝手があるのは間違いないはずだ。


 迂闊に突っ込むのはマズイ。ガキだが、なかなか頭が回るやつだしな。


「ロックスネークのあれ、俺たちに味方するヤツがいなかっただろ? たぶん、アイツが悪い噂を広めていたせいだ」


 そうだ。きっとそうに違いない。俺たちの実力なら、本来ならもっと評価されていたはず。それがこんな扱いを受けているのは、ロイが陰で俺たちの悪口を言いふらしていたからだ。


「じゃあ、どうするんだよ? 俺たち、このままか? ロイってガキに痛い目を見せることもできないのか?」


 ドルフが不服そうに尋ねる。他の仲間たちも、俺の答えを待っているようだ。


 まったく、コイツらは。少しは物を考えろって。


「馬鹿、俺が引き下がるわけないだろ。今度こそ俺たちの番だ」


 アイツらが俺らの悪い噂を広げたなら、逆に俺たちだって同じことをしてやる。そうすりゃ、アイツらに味方するヤツなんていなくなるさ。


 アイツらだって、俺たちと同じ。薄汚いスラムの住人なんだからな……。


「邪教徒」

「ああん? ああ、なるほどなぁ」


 短すぎるベンの言葉に、首を捻る。が、すぐに言いたいことは理解した。


「そういえば、おっさんが言ってたな。あのガキは邪教徒とか何とか」


 なるほどなるほど。それは使えそうだな。事実かどうかはこの際関係ない。スラムの住民なんて立場は弱いんだ。邪教徒だって噂が立てば、街を追い出されるだろう。


 見てろよ、ロイ! お前がどれだけ偉そうにしていても、邪教徒の烙印を押されれば終わりだ。今度こそ、俺たちの勝ちだ!


「よし、まずはこの街から始めよう。ブルスデンの冒険者で、邪教徒がいるって話を広めるんだ」


 復讐の種を蒔く時が来た。今度こそ、あのガキを地獄に突き落としてやる。




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