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117. 混沌神の使徒だけど平和が一番

「何をニヤニヤしてるんだ、ロイは」

「……また、何か思いついたのか?」


 ニヤニヤしているつもりはなかったけど、トールさんが不思議そうな顔で聞いてくる。キースさんなんて、なぜか警戒気味だ。思いついたって指摘に関しては当たりだけど。


「ええとね。魔石を複製したらどうなるのかなって思って」


 マテリアルデュプリケーターは便利な道具だけど、使用にあたって魔石が必要なのがネックだ。魔石自体を量産化できたら、今より使いやすくなると思うんだよね。


「ああ、そのことか。トールと同じ発想だな」


 僕の言葉にキースさんは露骨に安心したような様子を見せた。トールさんは苦笑いだ。どうやら、すでにそういう話は出たみたい。二人の視線がリックに向かう。


『二人には話したけど、それは無理だよ。正確に言うと、無理ではないけど、意味がないんだ』


 リックは首を軽くすくめてから、詳しく説明してくれた。


 マテリアルデュプリケーターに魔石を登録することはできる。複製も可能。だけど、実用性はない。なぜなら、複製するときに、どうしてもエネルギーのロスが発生するからだ。


『例えばになるけど、魔石の持つエネルギーが100だとしようか。この魔石を複製するのに必要なエネルギーが150くらいになるんだよね』


 魔石2個作るのに、魔石3個を消費するような計算だ。増やすどころか減っちゃってる。


 でも、実はそうなんじゃないかなって予想はしてたんだよね。それでも、量産できるかもと思ったのは、因子の存在があるからだ。


「高品質な魔石なら、エネルギーは多く取り出せるの?」

『それはそうなんじゃない?』

「じゃあ、逆に低品質なら?」

『そりゃ、取り出せるエネルギーが減るよ。ああ、それで作製コストも減らせるってことか』


 リックが腕を組んでうーんと唸る。そんなことありえるのかって、疑っている様子だ。でも、さっきまでやってた布の複製のことを考えると、ありえないことじゃないと思うんだよね。


「とりあえず、やってみよう」

『うーん。まぁ、魔石はロイが持ってきたものだし、別にいいけど』


 さっそく実験開始。条件はできるだけシンプルにってことで、まずは因子をひとつだけ付与して確認してみる。


・高品質(Lv10)〈反転〉〈時限〉


「これでお願い」

『了解っと』


 リックに手渡した魔石は、金属の箱に押し当てられると、すっと消えた。これで登録完了だ。


「どうかな?」

『う、うん。コスト、減ってるね……』


 嘘でしょと言いながら、リックが頭を抱える。現実を見ても、簡単には受け入れられないみたいだ。


 ただ、因子ひとつだとコストの減り方はそれほどでもないみたい。適当な数値で表現するなら複製コストが150から120くらいになったイメージだって。まだコストが100を上回っている。つまり、まだロスのほうが大きいってことだ。


「じゃあ、複数付与してみよう」


 "高品質"は重複可能な因子だからね。複数セットすると、その分効果も強まるってわけ。


 今、僕がひとつの対象に付与できる因子の数は8つだ。少し前まで7つだったけど、ガチャ能力ゲット前に増やしておいた。


 とりあえず、詰め込めるだけ詰め込んでみようかな。


 1つ、2つと付与していき、6つ積んだところで、手でつまんでいた魔石がボロっと崩れた。


「ありゃりゃ。劣化しすぎたかな」


 どうやら、品質が低下しすぎると、脆くなるみたいだ。丁寧に持てばもう少し詰め込めなくもないだろうけど、それじゃ扱いにくすぎる。


「代わりに、高品質で相殺させてみようか」


 6つで崩れるから、5つ……いや、4つまでとしようかな。相殺分を考えると、8枠なら……こんな感じかな。


・高品質(Lv10)×2

・高品質(Lv10)〈反転〉〈時限〉×6


「これでお願い」

『う、うん』


 リックはおずおず魔石を受け取ると、さっきと同じようにそれを装置に登録する。数値を確認したリックは『うわぁ……』と呟いた。


「どう?」

『減ってるよ……ごっそり減ってる』


 なぜか、リックは不機嫌そうな顔で告げる。


「コストはどのくらい?」

『さっきの数値で言えば、60ちょっとくらいかな』


 おお、100を下回った! つまり、複製することで、エネルギーが増えるってことだ。しかも、〈時限〉で低品質効果が消えても高品質因子が2つ残る。普通の魔石よりもエネルギー含有量は多いはず。


 喜ばしいことなのに、リックの顔色は悪い。不機嫌なのかと思ったけど、むしろ怯えてるみたい。


「どうしたの?」

『どうしたのって……僕ら、相当、マズイことしてない? 無限にエネルギーを取り出せるって、大丈夫なの? 世界に与える影響が大きすぎるよ!』


 たしかに、影響は大きいだろうね。でも、それは悪いことなのかな? 便利な世の中になりそうだけど。


 それに……


「魔石ってダンジョンの魔物から取れるんだよ? 今だって無限にとれるようなものじゃない」


 そう思ったけど、キースさんは首を振った。


「そうでもない。魔石資源に限りはないと見られているが、冒険者が持ち帰る分しか利用はできないので、供給量はかなり少ないんだ」


 まぁ、それはそうだね。供給量は少ないので、魔石はそれなりに貴重だ。だけど、僕らが量産してしまっては、その価値も下がる。ダンジョンで活動する冒険者は困ってしまうかも。


 まぁ、それはキャルさんが提供する服もそうなんだけどね。安価で服を提供すれば、競合する職人は困ってしまうだろう。今はまだ庶民に行き渡るほど服がないから問題になってないけど、これから服の供給量が増えれば摩擦は起きるかもしれない。


 でも、混沌神様の教義的にそれは仕方がないことでもあるんだよね。安定した停滞よりも変化を求める神様だから。


 ただ、魔石の場合、服よりも話は深刻だ。


「魔石は軍事分野にも利用される可能性が高い。量産されれば、よからぬことを考える国も出てくるだろう」


 キースさんの表情は固い。リックも似たようなことを考えていたのか、うんうん頷いている。


 ここまで聞けば、さすがに僕も量産はマズイかもと思う。世の中に変革をもたらすのは混沌神様の使徒としては正しいことかもしれないけど、戦争ばかりの世の中は嫌だ。


「わかったよ。じゃあ、このことは、ここにいるみんなだけの秘密ね」

「ああ、そうしてくれ」


 キースさんが頷く。キャルさんやカトレアさんも了承してくれたので、魔石量産プロジェクトはご破算となった。


 とはいえ、せっかく思いついたので、内々で利用する分には問題ないってことにしてもらったけど。口止め料としてキャルさんたちにも布を格安で提供することになった。


 混沌神様的にはおもしろくない展開だったかもしれないけど、やっぱり世界は平和じゃないとね。

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