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105. 楽しむ子供と仰天する大人(市民視点)

 サーカスが始まった。動物と従魔のサーカスと銘打っているだけあって、人の団員はときおり出てくるピエロだけ。そのピエロもパントマイムで情報を補足的に伝える役割だ。一貫して動物と従魔を主役にした、なかなか面白いサーカスだと思う。


 うん、知ったかぶりは良くないな。実のところ、他のサーカスなどあまり知らない。近くに座っていた事情通っぽい男がそのようなことを語っていたので、そうなのだろう。


 サーカスの動物に弟子入りする従魔たち。猿が玉乗りしながらお手玉をやってみせると、新入りのトビネズミが“それなら自分にもできる”とばかりにやる気を見せる。微笑ましく見ることができたのはそこまでだった。


「わぁ、すごい! 火の玉でお手玉してるよ!」

「ネズミさん、すごいねー!」


 無邪気に子供たちがはしゃいでいる。娘も目をキラキラとさせていた。


「ありゃ、どういう仕掛けだ?」

「魔法みたいだな。でも、トビネズミだしそんなわけないか」


 近くの大人たちが、ひそひそと話している。子供ほど純粋ではないので、トビネズミがやっているのではなく、何かの仕掛けで実現しているのだと考えているようだ。


 なるほど、そうだよな。あれは魔法ではない。ただの仕掛けだ。常識的に考えてトビネズミにそんなことができるはずがない。これまで見たのも、きっと何か仕込みがあったんだ。そうに違いない。


 少しだけ気分が楽になる。だが、残念ながら、それも長くは続かなかった。俺に現実を突きつけてきたのは、後ろから聞こえてきた声だ。


「どう思いますか、ギルド長」

「むむむ……ありゃ、間違いなく魔法だわい。まさか、トビネズミがああも見事に魔法を使いこなすとは。あやつらの妄言かと思っていたが、実際に見てみれば聞いていた以上の腕前じゃな」


 あれは、仕掛けの結果。そう考えることで、ようやくサーカスが楽しめそうだったというのに、それを妨げる者がいるようだ。


 どんなヤツだと、さりげなく背後に視線を向けてみる。話していたのは明らかに魔術師っぽい格好の二人だった。ともに目つきが鋭く、威厳のある男だ。片方は壮年、もう一方は老齢。立ち振る舞いから、立場のある人間だということがわかる。特に、老魔法使いはギルド長と呼ばれていた。


 ……もしかして、魔法ギルド長か?


「低級魔法とはいえ、火球を3つ同時展開。しかも狂いなく制御しておる。ギルドにも、あれができる者がどれほどいるか。下手な者がやれば、このテントは今頃、火の海じゃ」


 ものすごい物騒なことを言ってないか!?


「ギルド長、見てください! 他の二匹も同じことを!」

「しかも、お互いの生成した火球を投げあって、ジャグリングじゃと!? 魔法の制御権はどうなっておるんじゃ!」


 やばい。ただでさえ、常識外れのサーカスなのに、後方から聞こえてくる魔法的な解説が、いかに普通でないかを強調してしまっている。こんな状況では、純粋にサーカスを楽しむなんて無理だ!


 その後もエスカレートする演出に、魔術師二人は大興奮の様子だ。


「凄い……炎で龍を作るとは」

「うむ。威力には関係ないが、精緻なコントロールができなくてはまず無理だ。相当な技量だぞ。ぜひ、ギルドに登録してもらわなければ」

「相手は従魔ですよ?」

「そんなこと関係ないわ! 魔法ギルド発展のためにも、ぜひ、協力してもらわねば!」

「しかし、そもそも会話が成り立つのでしょうか……?」

「ぬぅ……」


 一方、俺の隣に座っているのは俺と変わりないくらいの年の男たち。漏れ聞こえてくる会話から衛兵隊に所属しているもわかったのだが……こちらもなかなか不穏な会話をしている。


「トビネズミ……あんなにヤバい魔物だったが?」

「ま、まさか。魔物とは言っても、普通のネズミと大差ないんだぞ。子供でも倒せそうじゃないか?」

「そうそう。あの従魔が普通じゃないだけだって」

「で、でも、あれって、子供区長の従魔だよな? 街の近くの巣でスカウトしたって聞いたぞ……?」


 彼らはなかなかの事情通らしく、知りたくもない情報まで聞こえてしまった。


 あの常識外れのネズミが街の近くに……? 街は大丈夫なのか!?


 い、いや、問題ないはずだ。この街の衛兵隊は優秀だ。勇者の力を借りたとはいえ、スラムからギャングを追い払った猛者たちだからな!


「なぁ……お前たち、あれに勝てると思うか?」

「「……」」


 一人の言葉に、連れ二人が黙り込む。しっかりしてくれと言いたいところだが、炎の龍と水の龍が相打ちになったり、石鎧を纏ったライオンと猿が大立ち回りしているショーを目の前にすると無理も言えなくなる。


 というか、ライオンと猿は普通の動物なんじゃないのか!? なんで従魔と一緒になってはっちゃけてる!?


「逆に考えるんだ。あんなに強いトビネズミがいるなら、俺たちも従魔にすればいい!」

「「おお、なるほど!」」


 名案とばかりに顔を明るくする衛兵隊。


 本当か? 本当にそんなトビネズミはいるのか? いたとして従魔にできるものなのか?


 しかし、他人事ではない。うちの娘もトビネズミを飼うと言って聞かないのだから。


 結局、俺は諸々気がかりなことがあり過ぎて、サーカスを楽しめなかった。娘は楽しめたようだが、従魔師になると言って聞かないし、困ったものだ。


 幸い……と言っていいのかわからないが、サーカスの反響が大きすぎて従魔ギルドに問い合わせが殺到したらしく、しばらくギルド員の登録は難しいようだ。そちらが落ち着くまでに、娘の従魔熱も収まってほしいところだが、どうだろうなぁ……?

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