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102. お好み焼き

「ダバッグさん、そろそろ」

「準備できてますよ」


 僕が屋敷に呼びかけると、料理人さんがニヤリと笑って庭に顔を出した。その手に持っているのは、お好みの具材が入ったボールだ。その後ろに、同じようなボールを持ったキーラさんとハウスキーパー隊が続く。


「これは、料理、ですか?」


 リーヤムさんが戸惑った様子で聞いてくる。まぁ、焼く前のドロドロなお好み焼きはとても美味しそうじゃないからね。


「これを今から焼くんですよ。リック、準備できてる?」

『できてるよー。君たち、ちょっと手伝って』

「「「きゅう!」」」


 リック率いるアライグマたちが運んできたのは鉄板だ。野外で調理するなら、やっぱりこれだよね。


 ルクスとダバッグさんがテキパキと準備をして、鉄板焼スタンバイだ。熱した鉄板の上に具材を広げるとジュウといい音がする。


「おお! これは……もしかして、お好み焼きか!?」


 トールさんが嬉しそうに声を上げる。喜んでくれたみたいだね。


「いろいろ具材は足りないけどね。主に海産物が」

「カツオ節に青のりか。だが、一番重要なのはソースじゃないか?」

「ふふふ、お好み焼きソースはばっちりできてるよ」

「おお、さすがはロイ!」


 トールさんは手放しで絶賛してくれる。やっぱり故郷の料理は嬉しいみたい。


 だけど、それだけじゃないよ。


「こんなのもあります!」

「その白濁した調味料は……マヨネーズ!?」

「正解です!」


 ふふふ、前回作ったときにはマヨネーズがなくて物足りない感じだったから、ばっちり作っておきました。まぁ、ほとんど商会に丸投げしたけどね。


 ウスターソースを作ってくれた人たちを専属の料理開発部門にして独立させたんだよね。今は僕のアイデア……というか、前世の記憶を形にしてくれるのが主な仕事だ。いずれは、オリジナル料理を開発してくれるようになることを期待している。


 将来の目標はともかく、新部門として最初の仕事がマヨネーズの再現をお願いだったってわけ。主な材料が卵と油ってことは覚えていたので、それだけ伝えてあとは丸投げ。それでも見事に僕が満足できる味に仕上げてくれた。


 ただ、マヨネーズは衛生面の問題があるんだよね。前世では生卵も安全に食べることができたけど、この世界ではそうもいかない。危険な菌が付着した卵でマヨネーズなんて作ったら集団食中毒一直線だ。


 そこで役に立ったのが、やっぱり因子。殺菌作用のある植物を調べたときに、“殺菌作用”という因子を見つけたので、それを利用した。殺菌処理とか面倒なので、卵そのものにダイレクト因子付与だ。おかげで、安全なマヨネーズが作れるようになった。


 またひとつ僕の仕事が増えたわけだけど、マヨネーズのためには仕方がないよね。将来的には、僕が直接関わらなくてもいいようにしたいけど。


 まぁ、苦労話ばかりしても仕方がないので、早速食べてもらう。ダバッグさんはもちろん、キーラさんとルクスも見事な手つきでそれぞれ数人分のお好み焼きを焼いていく。さすがに、サーカス団全体に行き渡る量を一気には焼けないけどね。


「おお、うまい! 本当にお好み焼きが再現されてるじゃないか! くぅ、ビールが飲みたいぜ!」


 トールさんはご機嫌で、はふはふ言いながらお好み焼きを頬張っている。元の味を知っているトールさんにそう言ってもらえると、うれしくなるね。


「ロイ区長も食べてくださいよ」

「ありがとう。それじゃあ、いただくね」


 ある程度、みんなに行き渡ったところで、ダバッグさんが僕の分を持ってきてくれた。お皿だけじゃなくて、箸も一緒だ。ルクスたちはスプーンで掬って食べるけど、僕はこっちのほうが食べやすいから、自分用に用意したんだよね。


「うん、おいしい! ソースも前よりよくなってるね!」

「お、そうですか? 良かった。自分なりに改良はしたんですが、区長の口に合うかわからなかったんで、そう言ってもらえてホッとしました」


 ソースはソースで前回作ったときよりも完成度が上がっている。ダバッグさんが研究を重ねてクオリティアップに勤しんでくれたみたい。さすがは本職の料理人だね。


「いやぁ、美味しいですね。お好み焼きというのですか」

「料理方法はシンプルですけど、絶品ですね。このソースのおかげでしょうか?」


 デルグ団長とリーヤムさんも、お好み焼きを気に入ってくれたみたい。他の団員もみんな笑顔で食べてくれている。やっぱり、このソースの力は偉大だね。


「「「チュウ!」」」

「「「きゅう!」」」


 普段は木の実なんかを食べてる従魔たちだけど、今日は一緒になってお好み焼きを食べている。一人一枚は大きいから、少しずつ取り分けてだけどね。トビネズミたちはビネを、アライグマはリックを取り囲んで仲良く大騒ぎだ。


「ねぇねぇ、ロイ!」

「お好み焼きの屋台、やりたい!」


 突然、そんなことを言い出したのは、ライナとレイネだ。


「確かにちょうど良い機会かもね」


 調理をダバッグさんに任せたルクスも合流して、双子に同意した。


「ちょうど良いって?」

「ロイは、これを特区の名物にしたいんだろ? それなら、他の地区からお客がひっきりなしに訪れる今は、チャンスなんじゃない?」

「確かに、そうかも!」


 僕は、特区の人に食べてもらえればいいかなと思った。けれど、それでは志が低かったかも。名物というからには、他の地区が食べにくるくらいじゃないとね!


 美食も娯楽のひとつだし……この機会にお好み焼きを特区名物として確立させてしまおう!

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