101. サーカスは大成功
従魔のサーカス隊が出演する記念すべき第1回目のサーカスは大盛況だった。お客さんの大半は特区の住人だと予想していたのに、他地区から来たお客さんもかなりいる。宣伝活動が功を奏したってことだろうけど、ちょっとうまく行き過ぎたかもしれない。お客さんが多すぎて完全にキャパオーバーだったんだ。
初日は午後から3回の公演をやったんだけど、お客はひっきりなしに来て、どの公演もあっという間に満席になった。席が空かなければ見てもらうこともできないので、申し訳ないけど入場を諦めてもらったお客さんもいる。それも結構な数。そういったお客さんには翌日以降の優先権を発行して納得してもらった。
最初からチケットを発行する方式にすればよかったかもね……でも、こんなにお客さんが来てくれると思わなかったからさ。次回以降の参考にするしかないね。
もちろん、僕らはちゃんと見ることができたよ。VIP席を用意してもらっていたからね。他のお客さんには申し訳ないけど、まぁそこは関係者特典ってことで。
肝心の内容はというと、これまたとてもすごかった。共同公演は動物と従魔が主役で、人間はお手伝い程度。進行役としてピエロに扮した団員がパントマイムで状況とか設定を伝える役割を担っていたけど、それ以外では道具の設置や撤収以外でステージに立つこともないという徹底ぶりだ。
ストーリー仕立てになっていて、サーカスに入団した従魔たちが先輩団員の動物たちに芸を教えてもらうけれど、斜め上のやり方で真似をして大騒ぎになる……って展開だった。従魔たちはもちろん、動物たちもとても賢いね。コメディとして成立していて、見ていて飽きなかった。実際、公演中は笑いが途切れず、大盛り上がりだったよ。
というわけで、初日の公演は大成功。なので、お祝いとして、デルグサーカス団を招いて区長邸の庭でパーティをやることになった。主役の動物たちはもちろん、裏方として頑張ってくれた団員たちももちろんいるよ。
「素晴らしいサーカスをありがとうございます! 公演は明日以降も続きますから、お酒はほどほどに! ですが、成功を喜んで……乾杯!」
一応、ホスト役は僕だから、初めに乾杯の挨拶をする。僕自身はお酒を飲んだりしないけどね。
ちなみにお酒は他のお店で買ってきたごく普通のものだ。けれど、因子の”絶品”と”高品質Lv10”がついているので、値段のわりには美味しいはず。それもあってか、サーカスの団員さんたちはハイペースでグラスを傾けているような気がする。あくまで裏方とはいえ、あんなに飲んで大丈夫なのかな?
「いやぁ、凄いサーカスだったな。あんな派手な演出はなかなかないぞ」
トールさんが楽しげに感想を話してくれる。それに対して、キースさんが呆れた様子で応える。
「それはそうだろう。あれほど器用に魔法が使える従魔を集めるのが難しい。しかも、その従魔たちにサーカスをやらせるなんて普通はしない」
「あっはっは、そうだな! ここでしか見られないサーカスだ!」
お酒が入っているからかもしれないけど、トールさんはご機嫌だ。どうやら、サーカスは気に入ってもらったみたい。
「娯楽地区としての第一歩だよ。気に入ってもらえた?」
「そりゃ、もちろんだ! なんか想像していたよりも規模が大きなことになって驚いた。ギタラの演奏やボードゲームでも広めるくらいだと思ったんだけどなぁ」
トールさんはちょっと遠い目をしてから、僕の頭に手をおいて、ぐるんぐるんと動かした。撫でてるつもりなのかもしれないけど、頭が揺れる揺れる……!
「おい、その辺りにしておけ」
「おぉ? おう」
キースさんに助け出されて、どうにか目を回す前にぐるぐる状態を脱することができた。
「ひょっとしてトールさんってお酒に弱いんですか?」
「ああ、見ての通りだ。今日は特にペースも早かったからな。これ以降は水でも飲ませておけばいい」
そう言いながらキースさんは、くいっとグラスを傾ける。トールさん以上に飲んでるはずなのに、顔色は変わらないね。
「キースさんは平気そうですね?」
「ん? ああ、私は酔わない体質のようだな。普段はあまり飲まないが、飲もうと思えばいくらでも飲める」
いわゆるザルってヤツかな。ただの水みたいにグイグイ飲んでるね。
普段飲まないのは、お酒を美味しいとは思わないからしい。けれど、因子で質を高めたこのお酒は気に入ってくれたみたい。
「この酒ならばいくらでも飲めるな。酒場でも開けばひと儲けできそうじゃないか?」
「うーん、そうですね。いずれは開いてみるのもいいかもしれませんね」
お酒も娯楽のひとつではあるからね。成人前の僕が言うことではないかもしれないけど。
問題は因子の付与は僕にしかでないってところかな。まぁ、今でもエッダさんのお店に納品する果物に付与してるからあまり変わらないかもしれないけど。お酒は長期保存できるから、大量に仕入れて一気に付与すれば頻繁に作業する必要もない。悪くない考えかも。
おっと、今はそれはいいか。せっかくのお祝いだものね。
ふふふ、実はこの機会にお好み焼きを披露しようと思ってるんだよね。トールさんも気に入ってくれるんじゃないかな。
さあ、目指せ特区名物!




