9. どんどん増えるGPの謎
何故GPが増えたのか。これが分からない。混沌神の使徒にふさわしい働きなんてした覚えはないんだけど。
気になるけど、考えるのは一旦保留。まずはルクスを落ち着かせないとね。ハグは解除してもらえたけど、まだ興奮してるから。
「ロイの恩寵はすげぇよ! 役立たずなんかじゃない! これをトンガさんに伝えれば、見返してやれるはずだぞ!」
おっとそんなことまで考えてくれたんだ。でも、それはやめて欲しいかな。
「落ち着いて。このことはトンガさんに伝えないで。どうせまた殴られるから」
「なんでだよ?」
「ルクスの目に関してはたまたまなんだよ。僕の恩寵は対象の因子……特徴みたいなものが一つだけ見えて、それを消したり自分のものにできたりするんだ。でも、どんな特徴が見えるかは分からない。つまり、確実に悪いところを直せるとは限らないんだよ」
下手に使えると主張して、しかし実際にはできないなんてことになったら、トンガさんは間違いなく怒る。事前に説明しておいたとしても、だ。そういう人だもの。
それに、トンガさんには混沌神の恩寵だって伝えちゃったからな。ずいぶん嫌ってるみたいだし、恩寵を使うと言ったらそれだけで怒りそう。あの人の前では恩寵を使わない方が良い。
「そういうことなら、確かにな」
説明を聞いたら、ルクスも納得してくれた。それでも何処か悔しそうだ。自分のことじゃないのにね。
「ま、使えないって思われてるくらいがちょうど良いよ。だって、トンガさんのために恩寵を使いたいって思わないし。それよりも、ルクスたちのために使いたいな」
これも素直な気持ちだ。僕の言葉を聞いたルクスは一瞬ポカンとしていたけど、すぐにニヤッと笑って見せた。
「ふふ……ロイ、お前なかなか悪だな?」
「ま、そりゃギャングの下っ端みたいなものだし?」
「ははは! そりゃそうか!」
ふふ、何だか知らないけどウケてしまった。今回のスラムジョークは悪くなかったのかもね。
「ルクスの恩寵はどんなの?」
ルクスは半年前の神授の儀ですでに恩寵を得ている。僕がスラムに来る前の話だからよく知らないけど。
僕の問いに、ルクスは微妙な顔になった。それでも特に隠すことなく恩寵を教えてくれる。
「俺のは“水霊の加護”だ」
「へぇ。どんなことができるの?」
「どんなことって言ってもな。大したことはできないぞ」
“水霊の加護”は水神の恩寵としてはよくあるものらしい。直接的な恩恵としては水場で動きやすくなったり、水を少しだけ操れたりするんだって。
魔法使いなら、水系の魔法が強くなったりもする。とはいえ、魔法は一般庶民が簡単に学べるようなものではない。ましてやスラムの住人ならなおさらだ。
そんなわけで、ルクスは役に立つ恩寵だとは思ってないみたいだ。たぶん、トンガさんにも殴られたんだろうな……。
「水を出したりできないの?」
「それができればなぁ。あくまで、できるのは操ることだけ。それもほんの少しな。水汲みは楽になるけどその程度だ」
「空気中の水分を集めたりとかは?」
「……空気中の、水分?」
あっと。また、“何を言ってるんだ?”の目だ。
でもそうか。水の状態変化とか、この世界では一般的な知識じゃないんだ。僕が知ってるのは、前世……という実感もないけど、ここではない世界の知識があるからだろうね。
「ええとね。お湯を沸かすと煙みたいなのが出るのは知ってるよね」
「湯気だな」
「そうそう、湯気。あれって、水が空気みたいになった状態なんだ。目には見えないけど、空気の中にはあんな状態の水がたくさんあるんだよ」
「……そうなのか?」
「ホントホント。湯気に手をかざしたことはない? 湿った感じがするでしょ」
「……うーん」
ルクスは考え込んでる感じ。でも、考えたところで理解できるわけでもないと思う。僕だって知識はあるけど“なんで?”って思うし。重要なのは実感することだ。
「まあ、試してみようよ。別に失敗したからって何があるわけでもないし」
「それもそうか」
「それじゃイメージしてみて。ルクスの周りには空気のようになった見えない水の粒がたくさんあります」
「水の粒が……たくさん……」
集中してるのか、ルクスは目が虚ろだ。まるで催眠術にでもかかったみたい。面白いから、このノリで行こうかな。
「目の前に手を出して……そう器みたいに。水の粒を器に集めてみようか。小さな小さな粒でも集まると大きくなるよ」
「集まると……大きく……」
「そう。大きくなると水滴になるよ。どんどん集まって、手が湿ってこない?」
「手が湿って……え? 湿っ……湿ってるぞ、本当に!」
ルクスが大きく反応した。見た目には分からないけど、濡れてる感覚があるみたい。本当なのか、思いこみなのか分からないけど、その気になったのなら都合がいいね。
「お、やったね! そのままそのまま」
「あ、ああ!」
結果として、ルクスは水を出すことに成功した。5分くらいかけて、ようやく手の器を満たす程度だから、飲み水の確保にも心許ない。
それでも、今までできないことができるようになると嬉しいらしい。ルクスは感激して、また抱きついてきた。背中もバシバシ叩かれる。さっきの再現みたい。
再現、か。
まさかね……と思いつつ、僕はウィンドウを開いてみる。
■現在の保有GP:18
また、増えてる!
どういうことなの!?




