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模造品のリナリア  作者: 主憐茜
第五章

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Last Episode:"私"は——

「..................ここは」

 仰向けになっていた身体を起こし、左右を見る。


 あまり力の入らない右手で目を擦り、ぼやけた視界を正す。すると、数秒後にはもう視界は元通りになっていた。そして、ようやくここがどこなのかが分かる。ここはおそらく華菜叔母さんの家。普遍的なレイアウトではあるが、一度訪れたので何となくは覚えている。......それに、自分が今どういう状況だったのかということを、思い出したから。


 店番をしているであろう華菜叔母さんに礼を告げるために一階へと降りようとする。しかし、視界の端にとあるものが映る。私は前に向けていた重心をプラマイゼロにまで戻して、思わずそれを手に取った。


「制服.........悠姫先輩が用意してくれたのかな」


 その隣には私がいつも使っている鞄までもが置いてある。あんな状況だったというのに、なんと気が利く人なのだろうか。せっかくだし学校まで行くことに決め、私は慣れた手つきでテキパキと制服へと着替えた。

 そして、今度こそ叔母さんが待つであろう一階へと降りる。


「華菜叔母さん! その......色々と迷惑をかけてごめんなさい」


 開口一番、私は謝罪の言葉を告げる。その声で私に気がついたであろう華菜叔母さんは、色々と言いたそうな表情を浮かべながらも、かなりシンプルな言葉を私にくれる。


「ん。詳しくは何があったか知らないけど、無事に終わったようで良かった。.........でも、無茶はするんじゃないよ。相当な純度のリナリアを作るだなんて、私でもやったことないのに」

「そう? ......えへへ、才能あるかな」

「そういう意味じゃない。.........それより、こんなところで道草食っていていいの?」

「あっ......ごめんなさい、また今度来るね!」


 そう告げると、私は小走りで店を出た。


「..................」


 しかし、その足はすぐに止まる。


「——駅はそっちまっすぐ行ったらあるから。京河町方面だからね」

「あ、ありがとう!」


 再び走り出す。何度か来たことはあったが、覚えていたのは詩遠先輩や悠姫先輩の自宅までの道だけであった。少しだけ外れたここはもはや新天地。道なんて分かるはずもなかった。

 彼女に言われたとおりにただ足を動かし続ける。


 そんな調子を続けたものだから、駅に着く頃には息も絶え絶えになってしまっていた。授業に出るだけでもないのでそこまで急ぐ必要はないのだが、何故か足が勝手に動いてしまう。早く会いたい。早く伝えたい。その二つだけが私の頭の中を占拠していた。


 ホームへと向かうと、丁度発着を行っていた電車に飛び乗る。停車駅のことなんて考えていなかったが、まあ、それなりに大きな駅だしどれでも停まるだろうと楽観思考で少しの焦りを落ち着かせる。そして、ようやく一息ついた。


 昼時だったから良かったものの、朝や夜だと完全に迷惑客となってしまっていたことだろう。謝る対象も居ないので心の中でごめんなさいと唱えると、私は彼に伝えるべき言葉を少しずつ整理していた。どくどくと、心臓が早鐘を鳴らしているのを感じる。それが走り続けたことに対する反動なのか、はたまたあの人のことを考えているせいなのかどうかは分からなかったけれど。


 そんな調子のまま十数分と電車に揺られ続け、見慣れた駅へと到着する。

 先ほどとは違った落ち着いた歩幅とリズムで足を進める。きちんと言葉を整理したおかげか、もはや私の中の焦りは殆ど消えていた。もう走る体力が残っていないということでは決してない。


 既に時間的には放課後だったので、駅や通学路には陽星高校の生徒をチラホラと見かけた。自分たちと進行方向の違う相手だからと少しばかり注目されて、なんだか恥ずかしい。......まあ、私の詩遠先輩を想う気持ちには到底叶わないのだけれど。......うーん、これも恥ずかしい。


 一人で妄想して顔を赤らめたり思考停止させて顔を冷ましたりを繰り返しながら、ただただ陽星高校を目指した。



 

 四階までの階段を登りながら、改めて言葉の整理を行う。何も完璧な言葉ではなくてもいい。何も飾らない私らしい言葉を告げれば、きっとあの人は受け入れてくれるから。だから私は、とにかく自分の伝えたいことを片っ端から思い浮かべては言葉にする。それと同時に、少し前とは大違いなそんな自分の思考に対して思わず頬が緩んだ。


 階段を登りきり、そのままの勢いで部室のある方向へと足を進める。すると、私のずっと前には見慣れた背中があった。思わず彼の名を呼ぶ。


「詩遠先輩っ!」


 急な声に驚いたのか、彼は反射するようにこちらを向いた。しかし、それが私だと判明したからだろうか。さきほど悠姫先輩が見せていたのと同じような、優しげな目をして言う。


「紫水.........おかえり」


 ここは「ただいま」と返したほうが良かったのだろうが、生憎私の台本には彼のそんな言葉は書かれていなかった。私が従うことのできるのは、私が用意した台本のみ。悠姫先輩みたいに柔らかい対応ができるわけではない。



 でも、多分それでいいのだろう。


 私は、私らしく彼に気持ちを伝えればいいのだ。彼女から受け継いで、抱えきれないほどに肥大化してしまった、この気持ちを。


 跳ねる心臓を抑え、深く息を吸い、それを私にしか出せない音にする。




「先輩、私はっ————」

最終話まで読んでくださりありがとうございました!

楽しんでいただけましたでしょうか?

よろしければ、評価、感想などを残してくださると泣いて喜びます。


改めて、ここまで読んでくださって本当にありがとうございました。

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