Interlude-4:とある夏の日の地研部室②
「詩遠君っ! 今凄い勢いの■ちゃんとすれ違ったんだけど、一体何があったの!?」
男子生徒がただ一人残された静かな静かな教室に、一人の女子生徒が飛び込んでくる。彼女は、真夏だというのにもかかわらず猛ダッシュをして来たようで、額や首筋には多量の汗が浮かんでいた。
「椿さん、俺は............」
男子生徒は、助けを求めるような表情で、女子生徒に言葉にならないような言葉を返した。その後、しばしの間状況説明が続く。
「............それで?」
すべてを聞き終わった女子生徒は、落ち着いた声音で男子生徒にさらなる言葉の続きを促す。だが、彼はその言葉の意味がわからず黙りこくってしまう。察しが悪い男子生徒に呆れるように息を吐くと、彼女は更に言葉を続けた。
「君は。■ちゃんのことをどう思っていて、何をどうしたいの?」
「.........俺は——」
「はい、ストップ。それを言うのは私に対してじゃない。一秒でも早く、■ちゃんに伝えてあげなさい。きっと、あなたのことだからそれは優しい言葉なのでしょう?」
それを言った彼女の目は、やんちゃな弟を見る姉のように優しげな瞳であった。彼は女子生徒に例を告げると、先ほど女子生徒がしていたようにして、教室を駆け出した。
「■■っ!」
それから数分後、新入部員の彼女を探すために学校中を駆け回っていた男子生徒は、息も絶え絶えになりながらも、彼女を発見するや否や、その名前を叫ぶ。
彼女がいたのは、夏休み中に開放されている■■■であった。男子生徒の姿を確認した彼女は肩を震わせ驚いたものの、その場から離れようとはしない。
男子生徒は言葉を続けた。
「さっきは本当に申し訳なかった。■■の気持ちをこれっぽちも考えずに、自分の感情ばかりをぶつけてしまって」
「............ねえ、先輩」
先程まで齧り付くようにして■を読んでいた女子生徒は、開いていたページに■色の■を挟むと、それを脇へとやった。そして、男子生徒の目を見て語りかけるようにして問う。
「詩遠先輩は、私じゃあ駄目なんでしょうか。私はやっぱり、悠姫先輩の代わりにはなれないのでしょうか......?」
「............」
それに対して、男子生徒は何も答えない。
彼女は、更に言葉を続ける。
「私、悠姫先輩のようになりたいんです。優しくて、愛想があって、気遣いができて、包容力があって。それで、悠姫先輩ならあんな時、どうやって詩遠先輩を支えるんだろうと考えたんですけど...............やっぱり、私ダメダメですよね、あはは」
女子生徒は力なく笑った。
「■■......お前、そんな事考えてたのか」
小さくこくりと頷く。その後、しばしの間他に生徒のいない■■■は静寂に包まれた。やがて、男子生徒は言いたいことがまとまったのか、迷いなく口を開く。
「■■の気持ちは本当にありがたい。俺も、正直あいつがいなくなってからどうにかなりそうになってしまっているんだ。.........でも、■■が悠姫を模倣するのは、多分違う」
「そう、ですよね。私なんかが、烏滸がましかったですよね——」
「ち、違う! そうじゃないんだよ」
悲しそうに言葉を紡ぐ女子生徒の言葉を遮るようにして、男子生徒は叫んだ。
「あんまり上手いように言えないんだけどさ。俺は、■■に悠姫を求めていないというか。俺にとって、■■はあいつの代用品なんかじゃないというか。
本を読んで色んな知識があるところとか。じっと、どんなときでも傍にいてくれるところとか。愚痴を漏らしたら静かに聞いてくれて、たまに口を挟んでくれるところとか。俺は、そんな■■が大好きなんだ。
誰かを憧れることが悪いことだとは決して言わないが、模倣するのはやっぱり違うと思う。■■は、■■のままでいてほしい。............って、これも俺の我が儘だよな。すまない」
その言葉を受けてもなお何かが不安な女子生徒は、依然として若干震えた声で彼に問い返した。
「...............私は、私のままで詩遠先輩の隣を歩いても良いのでしょうか」
「ああ。こんな俺の隣で良ければ、一緒に歩いてほしい。■■■という、一人の■■として」
男子生徒がそう言うと、今度こそ安堵するかのように笑い、元気よく「はいっ」と答えた。




