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模造品のリナリア  作者: 主憐茜
第二章

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Episode.2-5:成果発表

「それで、悠姫は何をやっていたんだ?」


 部屋に戻ると、先ほどと同じ構図で再び話し合いが始まった。まず最初に行ったのが成果報告会.........いや、そんな大層なものではないけど。


「この部屋に何か情報がないかなあって色々探してたよ。さすがに泥棒みたいに深くまで詮索するのは気が引けたから目で見える範囲だけど」

「ふむふむ」

「それでねそれでね、じゃーん! 小学校と中学校の卒業アルバムを見つけたよっ」


 そんな弾む声と共に、顔の倍近くの大きさを持つアルバムを二冊、持ち上げて見せた。中学生の頃と聞くと、どうしても先ほどの話を思い出してしまう。悠姫はアルバムだけを見て、彼女の中学時代をどう思ったのだろうか。


「なるほどな。......それで、どうだった?」


 そんなことが無性に気になり、気付けば俺はそう問うていた。彼女は依然として明るい笑みを浮かべながら、答える。


「ええとね、とても可愛かったよ!」

「..................ああ、そうか」


 期待していた感想とはかなり角度がずれていたが、まあ、少なくともネガティブなイメージは抱かなかったということだろう。そういうことにしておこう。

 その後は紫水の卒業文集に書いてあった将来の夢の話だとか、小・中ともに園芸部に入っていた話だとかをしてもらった。単純な興味としての面白さはあったが、それが何かの役に立つのかと聞かれると、正直何とも答えようがないものばかりだった。

 かくして十分もしないうちに悠姫のターンは終わり、今度は俺が成果を発表する番となった。


 深く考えずに、先ほど親御さんと話したことを彼女に伝える。何の面白味もない報告であったが、彼女はうんうん頷いて聞いてくれていた。途中、彼女は基本的に口を挟まなかったが、とある一つの事項に対してはその限りではないようで。


「尊敬している人がいる.........?」

「ああ、そうなんだよ。悠姫は誰だと思う?」


 それは、紫水が地研へと入部した理由の一つである、『部内に尊敬している人がいたから』という話題であった。彼女はそう問われると、下唇に人差し指を当て考え始める。きっと、俺と同じように一人一人の可能性を探っているのだろう。

 やがて彼女は視線を戻し、あまり納得がいってなさそうな表情を浮かべながら答える。


「.........椿先輩、かなあ」

「やっぱりそう思う?」


 まあ、そもそもの話として中学生の彼女と関わりを持てるというのはやっぱり椿先輩くらいだろうしなあ。学校見学でも文化祭でも地研自体は何もしてないし。


「でも、普段の様子を見てた限り、誰かに対して尊敬の念を寄せているような素振りはあまりなかったような......」


 悠姫は、自らの意見にそのような言葉を付け足す。答える際に少々怪訝な顔をしていたのは、同時にそうとも思っていたからだろうか。


「確かにそういうのは見たことないな。.........まあ、そもそも対象が誰かが分からないと何とも言えないけどさ」

「意外と詩遠だったりしてね。それで、地研に入ってから改めて見てみたらなんてことない凡々な人で一気に冷めちゃいましたー、みたいな」

「おい、いくら何でも失礼すぎだろ」


 俺をいじり倒しながら楽しそうに笑う悠姫。

 そのようなやり取りは、何だかとても懐かしく感じた。無論、悠姫が亡くなってから今までの日々が楽しくなかったわけではないが、やはりどうしても他のメンバーでは埋めることが出来ない何かを、今目の前にいる彼女がゆっくりとはめてくれる気がして............って、何を考えているんだ俺は。


 目を閉じ、小さく息を吐く。

 とても、とても危なかった。今の俺はきっと、目の前にいる彼女を『金村悠姫』としてしか認識できていなかっただろう。努々忘れるな、俺。今眼前にいるのは、金村悠姫が憑依した紫水蘭だ。


「......それで、明日からはどうしようか」


 俺はこれ以上の何でもないやり取りを避けるかのようにしてそう話題を振った。自分が彼女に対してめっぽう弱いことくらい、痛いほどにわかっているから。

 そんな俺の気なぞ知る由もない彼女は、依然として変わらぬテンションで答える。


「そうだねえ、とりあえずはここ最近の蘭ちゃんの行動調査かな。私はクラス内で調査をするから、詩遠たちは部活内で何かなかったかを思い出してみるって感じで」

「ん、じゃあそれでいくか」


 ......ふと、桜色の掛布団が綺麗に敷かれているベッドの上にかかる時計が目に入る。いや、どうだろうか。もしかしたら意図的に見ていたのかもしれない。

 その時計は、今が午後七時半を過ぎた頃だということを知らせていた。紫水宅に着いた時点で外は真っ暗だったから全く気付いていなかったが、もうそんな時間だったのか。泊まる事はおろか、食事を頂くつもりもないので、気を遣わせないうちに帰宅した方が良さそうだ。


「それじゃあ時間も時間だし、そろそろお暇させてもらおうかな」

「え? ぁ、うん。そうだね......」


 俺の言葉に対して、少々寂し気に呟く悠姫。まあ、多少紫水のことを知れたからと言って完璧に演技が出来るわけもないし、そりゃあ心配にも思うだろう。......だが、かといってさすがに今日ここで寝泊まりするわけにもいかないしな。

 せめて、何か気の利いた言葉でもかけてやりたいところだが。


「...............」


 ふむ、人生経験が希薄すぎて、こういう時に格好のつく台詞が何も思い浮かばないな。......いや、そもそもそういうのは俺の柄じゃないか。それにそんな言葉を零したら、それこそ悠姫にからかわれてしまいそうだ。

 あくまでもいつも通りで。うん、そうしよう。


「......心配しなくても、悠姫なら大丈夫だよ」


 その言葉の中にはなんの根拠もなかったけれど。

 彼女は不安気な表情を崩し、笑みを浮かべながら「ありがとう」と告げてくれた。


「......ああは言ったけどさ、出来る限り悟られないように言動には気を付けてくれよ?」


 玄関にて。見送りに来てくれた悠姫と言葉を交わしていた。

 いつかは本当のことを言わなければならない日が来るとしても、それは出来る限り遅い方がいいのは確かだろう。


「あ、私を信じてないなー? ......と言いたいところだけど、正直私もあんまり自信ないや」


 ムスッとしたり、そうかと思ったら小さく笑みを浮かべたり。その悠姫らしい仕草というのを見ていると、もはや今日で彼女が紫水蘭ではないことがバレてしまうのではないかと不安で仕方がなかったが、そこは悠姫に何とかしてもらうとしようか。


「まあ、最悪無理そうだったら黙ってればいいさ。それじゃあ、また明日な」

「はい、また明日」


 小さく手を振る彼女に対して空いている方の手を振り返すと、静かに玄関の戸を閉めた。そして、手に持ったスマホのナビを頼りに、再び最寄りの駅を目指して歩き出す。

 



「試験勉強......すっかり忘れてたな」


 風呂上りに自室のデスク前で物思いに耽っていると、中途半端に開いたカバンから参考書やノートが顔を覗かせていることに気が付く。そしてそれに付随するかのように、二週間後に待ち構えている試験についてのことも思い出す。


 部室にて解いていた問題の続きくらいはやろうかと思い一瞬カバンの方へと手を伸ばしかけるが、やめた。


 テスト期間はまだ始まったばかりだ。別に、成績優秀者を狙っているわけでもないのだから、今日一日勉強をしない程度では何も変わらないだろう。......まあ、狙ったら取れるのかと聞かれたらそういうワケでもないのだが。


 その後、スマホでSNSを巡回したり届いたメッセージを捌いているうちに日が変わりそうになり後悔するのはいつもの流れということで。


 こんな生活をあと二週間繰り返して、またテスト当日と返却日に二度泣くことになるんだろうなと容易に想像できてしまう未来を思い浮かべ苦笑いをしながら、明日のアラームをセットし、シーリングライトのスイッチを切り、俺は床に就いた。

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