プロローグ
辺りに響き渡った耳をつんざく急ブレーキの音、そして何かが衝突する音。
それまで騒がしかった歩道が一瞬にして静まり返った。
一瞬何が起こったかわからなかった。
すべてがスローモーションのように思えた。あちらこちらから聞こえる悲鳴、安否確認のために慌てて駆け寄るトラックの運転手、背中を押した少女達の絶望した表情。そして、いつの間にか隣から居なくなっていた私の心友。
私はそれをぼーっと見ていた。やけに蝉の声が大きく聞こえて、あぁ今日は一段と暑い日だなぁ、と呑気に思った。
「あなた、大丈夫!?」
肩を軽く揺さぶられて、やっと私は目の前の出来事が夢では無いのだと実感した。と同時に苦しさが襲ってきた。呼吸をするのを忘れていたのか。
息を吸おうとする。でも上手く吸えない。理解してしまった。目の前で心友が死んだのだと。
肩を揺さぶった女性が心配そうに私を見る。
「ーーーーーーー。」
何か言っているけど、よく分からない。聞こえない。頭がふわふわする。
目の前が暗くなっていく。あんなに五月蝿く鳴いていた蝉の声も、人々のざわめきも、遠くなっていく。
気絶する直前に見た景色は、今でも昨日の事のように鮮明に覚えている。
『辺りに充満する鉄の匂い、道路に広がる赤い液体、そして、真っ赤に染まった私の心友』