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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第3章】選考試験と王子様
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3−19 説得のリミットは明日まで

「ここが、ミアレットが住んでいる孤児院……で、合っていると思うのだが」

「そうみたいですね。ふぅん……カーヴェラは孤児院さえも立派なんだ……」


 ミアレット説得のリミットは明日まで。

 逸る気持ちも、そこそこに。ナルシェラとディアメロはミアレットの住まいでもある、孤児院へと足を運んでみたものの。……彼らの目の前にはとても孤児院とは思えない、立派な建造物の群れがデンと鎮座していた。

 屋根こそ周囲とお揃いのオレンジではあるが、中庭を囲うように貴族の邸宅レベルの建造物が3棟も並んでいる。そのあまりに大袈裟な規模に……ナルシェラは、ラウドに孤児院の様子もしっかり聞いておくのだったと、後悔してしまう。

 なお、そのラウドは明日の出立に向けて、使用人達に指示を出しつつ準備を進めている。ナルシェラ達のために積極的に動いてくれるのが彼しかいないため、仕方なしにまたも護衛なしで街をフラついているのだが……。意外とすんなりと目的地にたどり着けてしまったことに、ナルシェラはもうもう安心を通り越して、困惑していた。


「カーヴェラは裏道にさえ入らなければ、大丈夫だそうですよ」


 ……とは、ディアメロの談。彼は視察の際に、そんなことも街で教えてもらったそうで。その親切な住人曰く、余程目立つ格好さえしていなければ、表通りはまずまず安全らしい。

 そんなアドバイスもあり、今日のナルシェラ達は割合ラフな格好をしている。仰々しい紳士コートを脱ぎ捨て、シャツとジレだけで街を闊歩してみれば。あまりの開放感にナルシェラは不安を覚えた一方で、ディアメロは気軽でいいとご機嫌も麗しい。余裕の表情で、繁々と孤児院を見つめている。


「……行くしかない、か。ディア、覚悟はいいか?」

「覚悟って。何を、大袈裟なこと言ってるんですか……」


 先程から、変に尻込みしているのはナルシェラだけらしい。ディアメロは立派な門構えに怯えることもなく、アッサリと敷地内に入り込むと……中庭で遊んでいた子供達に、声をかけ始めた。


「あっ、そこの君達! ちょっといいかな?」

「えっと……お兄ちゃん、だぁれ?」

「誰かの知り合いー?」


 突然呼び止められて、子供達はキョトンと不思議そうな顔をしつつも……警戒心はあまりなさそうだ。そんな彼らを、必要以上に怖がらせないためだろう。ディアメロは少し屈んで目線を合わせると、自然な様子で話を続ける。


「驚かせて、悪いな。僕はディアメロ。ちょっと、ここの院長先生にご用事があって、来たんだけど……誰か、呼んで来てくれないか?」

「うん、いいよ。あーなせんせーは、いないけど」

「ちょっと待ってて」


 ディアメロが話しかけた子供達は、若干舌足らずながらも……しっかりと、「ご用事」を汲み取ってくれた様子。キャッキャとはしゃぎながら、慣れたように向かって右側の建物へと吸い込まれていった。


「……兄上。いつまで、そうしているんですか? サッサと入ってきたら、どうなんです」

「あ、あぁ……すまない。ちょっと驚いてしまった」


 ジトっとした視線と共に、兄を促すディアメロだが。一方のナルシェラは、ディアメロの変化にもついていけなくなっていた。


(あのディアが……子供の目線に合わせて、喋るだなんて……。信じられない……)


 いつの間に、こんなにも器用に子供達に話しかけられるようになったのだろう? そもそも、あれ程までに平民を見下していた高慢な彼は、どこに行ったんだ?


「……どうしました? 僕の顔に、何か付いてます?」

「いや、そうではないんだが……。昨日から、随分とディアも変わったなと思って……」

「……でしょうね。確かに、僕は変わったのでしょう。少なくとも、必要以上に威張る必要はないと思いましたし。魔法を使える、使えないの差はあれど……結局、同じ人間なのですから。楽しく話すこともできますし、等しく腹も減りますし。……何も変わりはありません」


 自身の変質をアッサリと肯定し、皮肉っぽく息を吐くディアメロ。そのやや卑屈めいた様子に……ナルシェラはうっすらと、彼に変化を齎した相手にも気づき始めていた。もしかして、ディアメロが一緒に食事をした相手は……。


「あれ? ナルシェラ様に、ディアメロ様じゃないですか。……こんな所で、何をしているんです?」

「……!」


 ナルシェラが内心でディアメロの「心変わり」に想いを馳せていると……おそらく、その原因と思われる少女の声が降ってくる。やや上から声が聞こえた気がすると、ナルシェラが宙を見上げれば。そこには不思議な箒に跨ったミアレットが、フワフワと浮かんでいた。


「ちょうど良かった。実は、お前に話があって来たんだけど」

「えっ? 私に話……って、あぁ。昨日のお誘いについてですかぁ?」

「……まぁ、そうだな」


 よっこいしょ……と、ちょっぴり呆れ顔のミアレットが中庭に降り立つ。一方のディアメロは彼女の箒を見つめては、「やっぱりいいなぁ」……と、小さく呟くが。当然ながら、ナルシェラは「昨日のお誘い」も知らなければ、自然に話を弾ませているディアメロとミアレットの様子も腑に落ちない。ただただ……あるのは置いてけぼりにされているという、焦りだけだ。


「ちょ、ちょっと待って、ディア。昨日のお誘いって……何の事だ? もしかして、僕が知らない所でミアレットと何か、交渉してたのか?」

「内緒にしていたのは、悪かったと思いますよ。お察しの通り……昨日、僕に街の事を教えてくれたのはミアレットでしてね。それで……ミアレットに王宮に来ないかと、誘っていたんです。まぁ……見事に断られましたけど」

「いや……そんな急な話を受けられるワケ、ないじゃないですか……。そもそも、先生達にも話をしないといけないし……」

「だから、こうしてやって来たんだろう? それに……今の言いっぷりだと、孤児院の了承さえあれば、来てくれるんだな?」

「えぇとぉ……。う〜ん……」


 やや強引なディアメロの交渉に、ミアレットが困惑の表情を浮かべている。それでも、尚も食い下がるディアメロ。一緒に来れば絶対に将来は保証するやら、何が何でも嫌な思いはさせないとか……王子として出来うる限りの条件を並べているが。


「あれ? ミアレット、帰って来てたの?」

「あっ、ティデル先生。ただいまです! それで、こちらの方は……」

「そこのお二人さんが、院長に話があるって言うお客様かしら? ふ〜ん……雰囲気からするに、どこかのお貴族様かしらね?」


 子供達に手を引かれ、やって来たのは……ティデルと呼ばれた、これまた子供にしか見えない少女。だが、やや砕けた口調とは裏腹に、普通の相手ではなさそうだとナルシェラは緊張してしまう。おそらく、ミアレットや子供達の態度からしても、孤児院の職員なのは間違いなさそうだが。……彼女には、どこか得体の知れない空気感があった。


「そうです。僕はディアメロ……それで、こっちは兄のナルシェラと申しまして。……是非に、ミアレットを僕の婚約者にと思い、引き取らせてもらえないかお願いに上がりました」

「へっ……? こ、婚約者……?」


 そんなティデルを前にして、ナルシェラが萎縮しているのを他所に、ディアメロがあまりに直球すぎる要望を投げている。しかしながら、隣のミアレットから間抜けな声が上がったのを見ても、昨日の段階では「そこまでのお誘い」はなかったのだろう。


「ふぅ〜ん……お兄さん、それ……本気?」


 しかし、すぐさま返って来たのは、ワントーン下がった声色の返事。最初から仏頂面ではあったが、ティデルの表情が険しくなったのを見て……ナルシェラはいよいよ、神経を竦ませる。どうも、怒らせてはいけない相手の不興を買ってしまった気がするが。果たして、このまま交渉を続けても大丈夫なのだろうか?

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