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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第3章】選考試験と王子様
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3−8 推しの存在は偉大

 貴重な休みを交流会に費やしてしまったが。それでも何が何でも乗り切らねばと、早朝からミアレットの気合いの入れようも段違いだ。それもそのはず……。


「はい、ミアちゃん。朝のお弁当」

「ありがとうございます、ネッド様」

「うふふ、いよいよ当日ね。ミアちゃんなら大丈夫でしょうから、程よく頑張ってきなさいな」

「はい!」


 そう、今日は本校登学への選抜試験が実施される。このチャンスを逃すまいと、ミアレットはやる気も満タンである。そんなミアレットを頼もしげに見つめているネッドから、可愛らしいピンクの包みを受け取れば。じんわりとまだ温かさが残るお弁当に、ミアレットは仄かに励まされた気分になる。


「それじゃぁ、行って……」

「あぁ、ちょい待ち、ミアちゃん! 念の為、これも持っていきなさい」

「えっとぉ……ザフィ様、これ、何のお薬です?」

「胃腸薬よ、胃腸薬。大一番に腹痛だなんて、笑えないじゃない。飲めばすぐに効くよう調合してあるから、万が一があったら使いなさい」

「あぁぁ……助かりますぅ……!」


 試験中に腹痛だなんて、笑えないを通り越して、軽く悲劇である。それでなくとも、少女のお腹はとってもか弱い。ぽんぽんペインは気軽にお花摘みに行けない状況ならば、最凶の災厄に違いない。


「ま、とにかく行ってらっさい。試験を頑張るのもそうだけど、道中にはくれぐれも気をつけなさいよ」

「はい! 行ってきます!」


 ティデルとネッド、そしてザフィ。錚々たる顔ぶれに見送られ、ミアレットはカーヴェラ分校へ足を早める……と見せかけて、魔術師帳から「とある道具」を取り出す。


「急いでいる時は、これよね。時間はまだ、余裕だけど……遅れないに越した事はないわ」


 呼び出したるは、魔法の箒・ウィンドブルーム。どことなく、魔女になった気分になりながら、ミアレットが箒にまたがれば。箒も心得ましたとばかりに、聞き分けよく軽やかに飛び上がった。


(やっぱり、箒はいいわぁ。掃除にも使えるし、空も飛べるし)


 お弁当よーし、胃腸薬よーし。ちょっと寝不足だけど、体調もよーし。ついでに、お天気は晴天なーり。

 箒で浮き上がるついでに、気分もウキウキさせながらミアレットはカーヴェラ分校を目指す。先生達からも試験パスは手堅いと言われてはいるが、無論、ミアレットは油断も手抜きもするつもりはない。


(それにしても、こんなに勉強したのは生まれて初めてかもね……)


 生前も含めて、平均的なモブだと自覚していたミアレットは、進学も就職もそれなりの努力しかしてこなかった。もちろん人並みに苦労もしたし、勉強もしてきたつもりだが、ここまで必死に勉強したのは冗談抜きで初めてである。それもこれも……。


(KingMou様をナマで拝むため……! 何が何でも元の世界に帰って、渋〜い美声を堪能するんだから……!)


 やはり、推しの存在は偉大である。推しのためなら、命を捨てる事はできなくても、命を張る事くらいはできそうな気がすると、ミアレットは本気で考えている。


***

「ミアレット、おはよう」

「うん。おはよう、エルシャ」


 割合、早めの登校だと思っていたが。既に教室には結構な人数の生徒がいるばかりではなく、普段はミアレットよりも後にやってくるはずのエルシャが、席に着いている。その様子からしても……彼女のやる気も満タンのようだ。


「……いよいよね。張り切って行くわよ」

「そうね。この日のために、2人で一生懸命勉強したのだもの。……私、頑張るわ」


 試験の内容はまだ伏せられている。しかしながら、試験に向けた特別カリキュラムでも説明されていたように、本校登学の選抜は、スコアを稼ぐタイプの試験ではない。あくまで、本校へ招待するべき生徒の選定……つまりは、生徒達の特殊祓魔師の適性を図ることに重点を置いている。

 試験では魔法を上手く使う「技量」よりも、魔法をどう使うかの「視点」や「発想」によって、お題をいかにクリアするかが肝要となる。ただ闇雲に魔法を使えばいいと言うわけではないのが、この試験の優しいところであり、難しいところでもあるのだ。


(魔法が上手く使えなくても、閃きがあれば、可能性はちゃんとあるって事なんだろうけど……)


 そんな事をアレコレ考えながら、ミアレットも席に着いて魔術師帳をフムフムと眺める。少しでも復習しようと、書き溜めたメモを読み漁るが……心なしか理解度が増している気がすると、喜ぶと同時に、不安にもなる。

 この理解度の増強は心迷宮攻略の波及効果に違いない。ミアレットの知能指数は変わっていないのに、指南書に書かれている魔法効果を具体的に想像できるようになった時点で、マモンの言っていた「イメージソース」が増えた結果であろうが……ミアレットは少しばかり、複雑な気分にさせられる。


(アハハ……なーんか、ズルしてるみたいよねぇ、これ。それに……この調子だったら、先生達の期待通りに特殊祓魔師になれちゃいそうかもぉ……)


 「平穏に勉強をしたい」。これが荒事とは無縁で生きてきた、ミアレットが最も望むことではある。しかしながら、女神様や先生達に変に期待されているが故に、ミアレットの「ささやかな願い」が叶う見込みは少なさそうだ。

 それでなくとも、上級魔法を勉強するには特殊祓魔師になることが条件でもある以上、やってやるしかないとミアレットも腹を括りつつあるが。微妙に受動的にしかなれないのは、「マイ」の異世界転生自体が完璧に巻き込まれ事故だったからに違いない。


(あぁぁ……大体、どうして私がこんな目に遭わないといけないのよぅ……! しこたま勉強させられたのも、そうだけど。……心迷宮の攻略にもガッツリ巻き込まれているし、苦労する未来しか見えないんですけど……!)


 それもこれも、自分を巻き込んだユウトのせいだ。こうなったら是が非でも試験を突破して、本校に登学した暁には……真っ先に奴をボコってやらねば。

 いつの間にか、復習が復讐に挿げ変わってしまっているが。兎にも角にも、憧れの推しに会うためにも、因縁の相手を凹ませるためにも……魔法学園の本拠地へ乗り込まないことには、何も始まらない。まだ温かさの残る朝食(特製弁当)でエネルギーをチャージしながら、ミアレットは別の意味での決意も新たにしていた。

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