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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第3章】選考試験と王子様
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3−4 馬子にも衣装

「緊張するぅ……。エルシャ、私……なんか、浮いてない? これ、似合っていない気がする……」

「えっ? そんな事ないわ。とっても似合ってるじゃない」

「そ、そうかなぁ……」


 王子様の出没から、2日後の夕刻。予告通りに開催された交流会のイベントホールで、ミアレットはガッチガチに固まっていた。


 気軽な交流会だと、聞き及んではいたが。流石に王族主催のイベントには、それなりのドレスコードが存在する。エルシャと一緒に参加するのはいいが、ミアレットは当然ながら、よそ行きのドレスは持っていなかった。そこで、ミアレットはドレスがない事を理由に、不参加を伝えようとしたのだが……。


(こんなに高そうなドレス、私なんかに貸して、大丈夫なのかしら……?)


 それならば自分のドレスを着ればいいと、エルシャはグイグイとラゴラス邸に引き込み、ミアレットはあれよあれよという間に豪華絢爛な会場に引きずり出され……今に至る。


「うふふ。ミアレットちゃん、とっても可愛いわ。このまま、ウチの養子にしちゃいたいくらい」

「あ、ありがとうございます……。でも、私……ドレスなんて初めて着たから、色々と心配で……」


 しかも、ミアレットを気に入っているのはエルシャだけではない模様。隣から突拍子もないことを言い出したのは、ラゴラス伯夫人……つまりは、エルシャの母親である。

 エルシャがドレスを貸してくれると、快く言ってくれたのも予想外だったが、その後は更に大変だった。なぜかラゴラス伯夫人と使用人総出で、ミアレットのドレス選びだけではなく、身支度まで整えてくれてしまったのだ。

 孤児のミアレットが急にドレスを用意するのは、どだい無理な話である。なので、素直に彼女達の厚意はありがたいとするべきだし、感謝すべきだろう。だが……生前の「モブ人生」も含め、ここまでの華々しいイベントは無縁だったため、緊張しっぱなしで生きた心地がしない。


(うぅ……これ、絶対に汚したらマズいやつ……!)


 しかしながら、緊張の原因はイベント会場の華々しさだけではなく……着せられたドレスがあまりに高級品なものだから、ミアレットは気が引けているのだ。

 ロイヤルブルーの艶やかな生地は、サテンかシルクか……いずれにしても、ツヤツヤと上品な輝きを放っており、あからさまに安物ではないと主張している。襟口や袖周りにさりげなく縫い付けられているレースは、繊細なバラ模様を浮かべており、金糸が織り込まれているせいか、ほんのりと上品なクリーム色をしていた。形こそ、無難なAラインワンピースではあるものの。随所から「丁寧に作り込まれてます」感が滲み出ていて、まさに「服に着られている状態」だと、ミアレットは内心で自虐してしまう。


(アハハ……馬子にも衣装って、こういう事を言うんだろうなぁ……)


 兎にも角にも、交流会は始まってしまっている。それらしい衣装に身を包んでいる以上、逃げる事はできないだろう。


「ミアレット、ごめん。……お父様が呼んでいるから、行かなきゃ……」

「へっ? エルシャ、行っちゃうの?」

「うん……お父様がお話ししている相手なんだけど。……カーヴェラ商人会の偉い人なの。で、一応は挨拶をしないといけなくて……」


 貴族には貴族の儀礼というものがあるらしい。サロンや歓談会で鉢合わせしたらば、挨拶と一緒に軽く世間話をすることになっているそうな。


「あぁ……そういうの、とっても大事よね。うん、大丈夫。私は大人しく、隅にいるわ……」

「私が誘ったのに……1人にしてごめんね、ミアレット。できるだけ、すぐに戻るから」

「私のことは気にしなくていいわ。お父様とお母様の所に行ってあげて」


 ミアレットの気丈な返事に、エルシャが申し訳なさそうな笑顔を浮かべて、去っていくが。彼女の背中を見送りつつ……会場を見渡せば。要注意人物がしっかりいることにも気づき、そそくさと壁際へ移動する。


(えぇと……やっぱりいるわね、王子様達も。……あまり、目立たないようにしよ)


 エルシャがいなくなった以上、この場での立ち振る舞いが分からない。仕方なしに……ひっそりと壁の花になることを決意するミアレットだったが。センサーでも付いているのかと言いたくなるような素早さで、ミアレットを見つけたらしいナルシェラがこちらにやってくる。


(ひっ、ヒエェェェ⁉︎ こっちに来ないで〜!)


 目立ちたくないミアレットとしては、王子様との歓談はできる限りご遠慮願いたい。


「やぁ、ミアレット。……約束通り、来てくれたんだね」

「は、はひ……えっとぉ、私はおまけです……。今夜は、ラゴラス伯ご夫妻にお誘いいただきまして……」

「そうだったんだ? あぁ、そうか。エルシャはラゴラス伯のご令嬢だったっけね」


 ミアレットの不安など、つゆ知らず。気さくな様子でナルシェラが微笑みかければ……たちまち周囲から注がれるのは、好奇と敵意の視線ばかりかな。


(ゔっ……もしかして、私……めっちゃ、注目されてる⁉︎ しかも……)


 注目は注目でも、あまり良くない類の視線だろうと、タラタラと冷や汗をかいてしまうミアレット。本格的に生きた心地がしないと、慌ててナルシェラの意識を他に向けようとしてみるが……。


「ナ、ナルシェラ様?」

「うん、何かな?」

「私よりも、お話しするべき相手がいるのではないかと……」

「そうなの?」

「そうですよ! 皆さん、ナルシェラ様とお話ししたくて、ウズウズしていると思いますし! ほ、ほら! 王子様とお話しする機会なんて、滅多にありませんから……」

「そうか……。でも、僕はミアレットと喋りたいのだけどね」


 しかし、ナルシェラにはミアレットに対して、相当の「思い入れ」がある様子。いかにも寂しそうに目を伏せると、ガクリと肩を落として見せる。


(いやぁぁぁ⁉︎ 今、ここで! そんな顔、しないでッ! わざとらしく、ガッカリしないでッ⁉︎)


 ナルシェラが肩を落とした瞬間、視線の鋭さが増したように感じる。そうして、「見るに見かねた」のだろう。見事に着飾ったご令嬢達が、何やらプリプリした様子でこちらへ向かってくるではないか。


(あぁぁぁぁ……これ絶対、メンドい展開になるヤツだ……!)

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