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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第3章】選考試験と王子様
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3−3 見せしめの王族

 ミアレット……か。

 ルクレス領主が用意したカントリー・ハウスへ向かう馬車の中で、ナルシェラは興味深い相手を見つけたと、口元を緩めていた。一緒にいたエルシャは上質な服装からしても貴族のようだが、飾らない着衣からしても、ミアレットは貴族ではないだろう。


(それはつまり、彼女は血統に左右されずに魔力適性を持ち得たということ……)


 彼女の素性は、まだ知れないが。もし、彼女が貴族ではなく平民だったのなら……ミアレットの血に眠る、強力な魔力適性は王族を救う可能性を秘めている。


(僕達は飾りの王族。そんな事は、僕だって分かっている……)


 活気溢れるカーヴェラの商業地区を通り過ぎ、いよいよ貴族街に入った頃。ナルシェラは理路整然とした美しい街並みに、ルクレスは相当に力のある自治領なのだと考える。そして……魔法学園の分校がグランティアズにない時点で、天使達や悪魔達はローヴェルズの要衝はカーヴェラであると判断したのだと気づいて、忽ちやるせない気分にさせられていた。


「……ところで、兄上」

「うん? どうした、ディア」


 ナルシェラが王都と首都の扱いに、やりきれない思いをしていると。ディアメロが拗ねたように口を尖らせ、話しかけてくる。


「兄上はまさか、あの見窄らしい娘を気に入ったんですか?」

「見窄らしい娘……? あぁ、ミアレット君のことかい? そうだね。うん……とても、気に入った」

「あれのどこがいいんですか? 美人でもないし、生意気だし……。王子である僕達にまで意見するなんて、あり得ない!」

「……ディアはそういう所、直した方がいいと思うよ。確かに、僕達は王子なんだろう。だけど……僕達は王子である以前に、落ちこぼれでもあると自戒するべきだ。魔力が蘇って、魔力適性を吹き返した貴族達がいる一方で……最も血が濃いとされた僕達は、未だに魔力適性を取り戻せていない。それはつまり……僕達はまだ許されていないんだろう、霊樹・オフィーリアに。そんな僕達が、自力で魔力を取り戻す事はできない事くらい、ディアも分かっているだろうに」

「……それは、そうですけど……」


 ディアメロの悔しそうな呟きを誤魔化すように、馬車がカトンと揺れる。揺れない快適な魔法駆動車を使えればいいのだが、あいにくと魔力を扱えない者は時代遅れの馬車に乗るしかない。クラシカルで風情があると強がってみたところで、虚しいだけである。


(僕達は絶対に、魔力適性を持たせてもらえない。でも、このまま……見せしめの王族でいるのは、ゴメンだ)


 ローヴェルズの王族が魔力適性を取り上げられたのは、偏に、女神となった王女・シルヴィアへの仕打ちに対する罰であるとされている。

 かつて、オフィーリアの女神が人の子だった頃。……当時のローヴェルズには愚かな国王と、体が弱かった王妃が残した双子の姫がいた。しかし、姉・シルヴィアは先天性色素欠乏症……つまりはアルビノで生まれてきたが故に、不吉だと烙印を押され、最初から姫ではなく王の駒として育てられた。

 一方、妹・ジルヴェッタは国王に大層愛され、シルヴィアの分まで愛情を独占して育てられた。そして、彼女も父王と同じく、時にシルヴィアを見下し、時にシルヴィアを蔑み。そんな逆境が故に、いつしかシルヴィアは「偽姫」と呼ばれ、汚れ仕事を淡々とこなすだけの存在へと成り下がっていく。初めからその存在なぞ、なかったかのように……王宮には、シルヴィアの「姫としての居場所」はなかった。


(だけど、本当に王の座を継ぐべきはシルヴィア姫だった……)


 だが、ローヴェルズの王宮において、最も高貴な血を持ち得ていたのは他ならぬ、シルヴィアだった。彼女は神界から「女神の器」として見出され、霊樹戦役の後にそのまま女神として昇華した一方、辛くも1人生き残った父王は寂しい余生を送ったという。

 ローヴェルズ王はシルヴィアに頭を擦り付け、赦しを乞い、側にいてくれるよう懇願したが。彼女は悲しそうに微笑むばかりで、ただ別れを告げたきり、グランティアズに降臨する事は2度となかったと伝えられる。

 そして、オフィーリアの女神に見捨てられたローヴェルズの王族は、霊樹の恩寵を受けることができなくなった。父王がシルヴィアを蔑ろにしたのと同様に……女神もまた、自分を虐げてきた愚王の一族を見捨てたのだ。


(それ以来、僕達は王族としての存続は許されているけれど……それは、統治者としての存在ではない……)


 愚か者の象徴としての存在。女神に与えられた役割は、ただそれだけだった。女神に愛されない王族として、末長く醜態を晒せと、彼女達は言いたいのだろう。

 歴史が下り、王族の醜聞も噂も薄れ、真相が伝説化したとしても。ローヴェルズの王族は未来永劫、「傀儡の王族」として惨めに生きていくしかない。女神を輩出した血統というレアリティはあれど、ゴラニアの魔法世界では能無し扱い。いくらナルシェラが帝王学を齧り、優れた王になろうと努力をしても……魔法が使えない限り、お飾りとしての価値しか与えられない。


「……僕はお飾りでいるのは嫌なんだよ、ディア」

「兄上……?」

「僕は父上みたいに、大臣の言うことを聞いているだけの人形になるつもりはない。……だから、魔力適性を持つ配偶者が欲しい。相手が貴族だろうと、平民だろうと。例え他力本願で滑稽だと、後ろ指をさされようとも。……子孫には、同じ思いはさせたくないんだ」

「……」


 豪奢な馬車は華やかだが、如何せん目立ち過ぎる。道行く人々に好奇の視線を向けられながら、ナルシェラはまるで見せ物になった気分だと、ため息をついた。

 いくら高貴で美しいと煽てられたところで、皆が必要としているのはお人形としての自分。それでも、ナルシェラは街の人々に、微笑みかける。いつしか……自分を自分として愛してくれる者が現れると信じて。今日も美しい笑顔で、愛想を振りまいた。

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