2.5−1 過去とは、グッバイしたんだもん!
章間に「イグノ」こと「ユウト」の近況報告をつらつらと。
相変わらず、若干テンション高めとなっておりますので、ご了承(ご注意)くださいませ。
「……こうして整理してみると、意外と少ないもんだなぁ」
自称・特殊祓魔師のハーヴェンにしてやられたが。才能を認められた俺は、今日から魔法学園の本校へ拠点を移すことになった。だから、こうして荷物整理をしているんだが……貴公子の荷物にしては、随分とラインナップが貧相だ。部屋着と下着一式、そんでもって筆記用具の類。本校では制服を着ないといけないということで、華々しい衣装の数々は置いていかなければならない。
(魔術師帳とやらがあれば、本もノートもいらないからなぁ。ま、俺には教科書なんか必要ないがな!)
俺には天才的な頭脳と、才能が備わっている。勉強なんかしなくても、楽勝DAZE!
しかし……あらぬ誤解は解けないままなもんだから、俺は問題児扱いで「観察が必要になったから、本校で預かる」と養父共に通達されていた。そんなもんで、本校に行ったらば、この屋敷に帰っては来れないらしい。それなのに……。
(この家の奴ら……俺が出て行くことを大喜びしやがって……! 俺は女神に認められた、神子……いや! いずれは世界の王になる男だと言うのに……!)
これは、あれだな? 有能な俺を追い出して、養父共が没落して行くパターンだよな? きっと後から「やっぱり戻ってきて」とか、「お前がいないとダメなんだ」とか言われるんだろう。そんでもって、「帰ってきて欲しいだと? 今更遅い!」と言ってやればいいヤツだよな?
「デュフフ……! ハーレムルートだけじゃなくて、ざまぁ展開キタコレ!」
「ざまぁとは……何でしょうか、イグノ様」
「む……いたのか、ホーランド」
「えぇ、いましたよ? さっきから」
俺としたことが、抜かった! 選りに選って、ホーランドに聞かれてしまうなんて! 一生の不覚なりッ!
ホーランドは俺に付けられた専属執事だが……何かにつけ、俺を軽蔑するような目で見てくるから、嫌いなんだよ。なんか、こう……こういう視線を浴びると、昔の惨めな自分を思い出しちゃうと言うか……。
(お、落ち着け……。俺は昔の俺とは違う……!)
そう、そうだよ。今の俺はイグノ・ガルシェッド。昔の「モテない・冴えない・金もない」のナイナイ尽くしな俺とは違うのだ! そんな過去とは、グッバイしたんだもん! まぁ、昔の俺だって、他の奴らがちゃんと認めなかっただけで。本気を出せば凄かったはずなんだ! ……多分。
「……相変わらず、意味不明なことをおっしゃっていますね……。そんなんだから、旦那様の悩みが尽きないのでしょうに……」
「構わん。そんなもの、悩ませておけ。女神にも認められた、俺の価値が分からん奴は誤解させておけばいい」
「問題児扱いで身柄を引き渡される方が、何をおっしゃっているのです……。あなたのお陰で、ガルシェッド家は今や、クージェ貴族中の笑い者です。最高峰の特殊祓魔師に勝負を挑んだ時点で、頭が沸いているとしか思えません」
クソ……! 最近はずっと、この調子だ。使用人でさえ、俺を軽蔑してきやがる。
(ファイアボールを初めて発動した時は、チヤホヤされていたのに……!)
言っておくが、俺はまだ本気を出していないからな? 本気を出すのは、これからなんだ。今に見ていろ……!
「それはそうと、準備は終わりましたか?」
「一応な。……持って行っても、他は役に立ちそうにないし」
「左様ですか。あぁ、そうそう。一応、旦那様からお餞別をお預かりしております。この場でお渡ししますね」
「えっ?」
お餞別だって? もしかして、あれか? やっぱり本当は俺の実力を認めていて、貴重な道具を託しちゃうぜ……みたいなイベントだろうか? なんだ、なんだ。お前らも、分かっているじゃ……
「……手切金です。ここに銅貨30枚がありますから、後はご自身でなんとかして下さい」
「はっ?」
いや……待て待て待て! なんだよ、手切金て! しかも……銅貨30枚ってシケてんな、オイ! そんなんじゃ、俺のビューティに磨きがかけられないじゃないか!
「ちょ、銅貨30枚って、何の冗談だよ! そんな端金、1週間も持たないぞ⁉︎」
「自分でお稼ぎにもならないのに、端金等と……まぁ、いいでしょう。ご安心を。魔法学園の本校で大人しくして頂ければ、衣食住は最低限、保証してくれるそうですよ。浪費癖のあるイグノ様に、耐えられるかどうかは別問題ですが」
「俺のは浪費じゃない! 必要経費だ!」
「私達には必要経費には見えませんがね」
くっ……! これだから、意識の低い一般ピーポーは嫌いなんだよ。
「とにかく、本日がついほ……あぁ、いや。門出でございましょう? 一応は、門の所までお見送りします」
おい、ちょっと待て! 今、追放って言いかけたよな⁉︎ そうだよな⁉︎ しかも、一応って何だよ、一応って!
(本当にナメ腐りやがって……! 今に見ていろ……!)
ふ、ふん……まぁ、いい。追放されて、後から有能だって判明して……なパターンは見飽きるレベルで、オヤクソクな話だ。どうせ、こいつもざまぁ要員だろうし……最後に笑うのは、俺だ! ザマァ見ろ(と、先に言っておく)!
「と……おや? まさか、あのお方は……」
「ん? 誰かいるのか?」
もしかして、俺のファンが別れを惜しんで見送りにでも来ていたか?
「……って、なんだ、あの化け物は……?」
しかし、門の所で待ち構えていたのは美少女じゃなくて……。見るも禍々しい、黒い怪物だった。遠目に見ても結構デカいし、角も生えてるし……あれはもしかして、悪魔って奴じゃなかろうか……?
「あっ、来た来た。おーい、こっちこっち!」
しかも、なぜか親しげに俺に向かって手を振ってくれちゃっているんだが……? いや、俺には化け物の知り合いはいないぞ……?
「は、はい……? ま、まさか、俺を呼んでいるのか……? おい、ホーランド! お前……俺に嫉妬するあまり、悪魔なんぞ、呼びやがって!」
「違いますよ。第一……イグノ様に嫉妬する要素が何1つ、ないのですが……」
「うるせぇ! とにかく、何とかしろよ、アレ!」
「何とかするも何も……あの方は多分、例の特殊祓魔師ではなかろうかと……」
「はっ……?」
特殊祓魔師? アレが? どう見ても、悪魔なアレが……?
「あっ、そっか。こっちの姿だと、分からないよなぁ。ゴメンゴメン。ほれ、俺だよ、俺。ハーヴェンだよ。そんなに怯えなくても、大丈夫。取って食ったりしないから」
「ハーヴェン……って、あの情けない特殊祓魔師か⁉︎」
「えっと……俺、君の中では情けないことになっているんだ……?」
怪物姿のままで、ポリポリと顎をかいているハーヴェンらしき悪魔だが。そんな奴の肩には、ちょこんといかにも可憐な美少女が座っていて。俺に射抜くような熱視線をくれちゃっている。これは、もしかして……!
「おっ、お前! 恥ずかしくないのか!」
「えっ、何が?」
「そんなイタイケな女の子を攫ってきて、何をやっているんだ!」
「……」
可愛い女の子を連れ去って、アレコレしようだなんて、うらやま……いや、けしからん! ここは俺がキッチリ、成敗してくれる!
「やはり、悪徳魔術師だったんだな……! こうなったら、ここで……」
「そんな訳、ないだろう。話には聞いていたが……とんでもない阿呆だな、コイツは」
「へっ?」
えっと……今、そっちの美少女ちゃん、阿呆って言った? それ、俺のことじゃないよね?
【登場人物紹介】
・ホーランド
ガルシェッド家の使用人。32歳。
元はガルシェッド公の補佐役として事務処理を担当していたが、当主の切実な願いもあり、仕方なしにイグノの専属執事をしている。
要するに貧乏くじを引いた格好ではあるが、使用人としての能力は非常に高く、イグノの身の回りの世話をソツなくこなしてきた。
おそらく、彼の本校送りを誰よりも喜んでいる人物。




