表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第2章】目指せ! オフィーリア魔法学園本校
65/328

2−24 ネーミングも含めて黒歴史

「それはそうと、2人が選んだ道具の性能は確認しておいた方がいいわね」


 アンジェレットの黒歴史部屋から、再び陰湿な地下牢エリアへ。心迷宮の廊下に戻った所で、2人の手元から道具が消えない事を確認し……アレイルが自分の魔術師帳を見つめている。そうして、ミアレットにも魔術師帳を出すように促すと、何かの情報を送り出した。


「えっと、アレイル先生……これは?」

「ミアちゃんの魔術帳に、アイテム鑑定のアプリケーションを追加したわ。その【アイテムジャッジ】を使えば、心迷宮で一時発現した道具も含めて、効果を鑑定できるのよ。元の部屋から出しても消えなかった事を見ても、まずは道具として心迷宮内では安定した証拠だし。今なら、基本情報も固まっているでしょ」


 アレイルによれば黒歴史部屋は心迷宮の持ち主にしてみれば、他者には見せたくない心理が働く反面……誰かに知って欲しいという思惑も作用する物らしい。もし仮に、「他の人には見せたくない心理」が「誰かに知って欲しい心理」を上回っていた場合は、黒歴史部屋から出た瞬間に、持ち出した道具は消失してしまうのだとか。


「じゃ、じゃぁ……アンジェレットさんは、変身願望もオープンにしたかったって事ですか……?」

「多分ね。本当は誰かと秘密の趣味を共有したいのだけど、諦めていたり、拒絶されるのが怖くて打ち明けられなかったんじゃないかしら。だから、こんな所でこっそりと自己主張してきたのかも知れないわね」


 その気持ち、ちょっと分かる気がする……。ミアレットはまたも遠い目をしながら、アンジェレットの「隠れ趣味」にひっそりと理解を示す。

 幸か不幸か、ミアレット(生前のマイ)が大好きだったのがメジャーなアーティストだったため、共有の話題で盛り上がれる相手もおり、推し活仲間にもそれなりに恵まれていた。その分、ライブチケットの競争率も上がるのだが……それでも、悔しさも互いに慰め合えるのだから、趣味を語り合える戦友がいるのは心強い。


(……理想と現実の間で、アンジェレットさんは苦しんでいたのかも知れないのね……って、いけない。今はそんな事を思い出している場合じゃなかったわ)


 不意打ちの感傷に浸るのも、早々に切り上げて。ランドルにも見えるように魔術師帳を覗き込みながら、ミアレットは【アイテムジャッジ】の項目をタップする。すると……今度は魔術師帳の上部から、アンテナらしき突起物が生えた。


「うわっ⁉︎ なんか、触覚が生えたんですけど⁉︎」

「そんなに驚かなくても、大丈夫。その触覚に鑑定したい道具を触れさせてみて。ちゃんと道具の性能や、補助効果を教えてくれるから」

「は、はい……」


 ヒョコヒョコと辺りを探るような動きをしている触覚を、ランドルが持ち出した剣を近づけてみると……すぐさま鑑定結果が出たようで、魔術師帳に道具名と道具データが表示された。


・勇者のキラメキ★マジックソード(風属性/攻撃力+46)

 特殊効果:キラキラ気分を盛り上げるたび、攻撃力がアップ★ 目指せ、世界を救うキュートな女勇者★


「うあぁぁ……」

「……えぇと、ミアさん。これ……キラメキ★マジックソードって言うんすか? ★が入っている必要、あります……?」

「それはアンジェレットさんに聞いて下さい。……ネーミングも含めて黒歴史なのでしょうから」

「……そうっすか。そうっすよね。……でも、お嬢様にもなんて聞けばいいんだか……」


 攻撃力46が果たして、武器として強いのか、弱いのかはミアレットには分からない。それでもって、「特殊効果」と銘打ってあるのにも関わらず、説明文も全くもって意味不明である。はっきり分かっているのは、風属性という事くらいか。


「もしかして、私の箒も変な名前なのかなぁ……。どれどれ……?」


 キラメキ★マジックソードの字面に、しょっぱい顔をしているランドルを尻目に……ミアレットは意を決して、今度は触覚に箒を当ててみる。これまた、素早く鑑定結果が出たようだが。ミアレットは続けてスラスラと踊る文字列に、新たなる戦慄を覚えずにはいられなかった。


・大魔女のプリティ★ラブリーブルーム(風属性/攻撃力+38、魔法攻撃力+60)

 特殊効果:ラブリーを振りまいて、世界中を魅了しちゃえ★ 憧れのあの人のハートもガッチリ絡めとっちゃうんだから★


「プリティにラブリー……? 世界中を魅了しちゃえ……? ハートもガッチリ……⁇」


 さっきまでの感傷もぶっ飛ばす、キラキラなパワーワードの数々。風属性だという以外は具体的な効果の解説がないので、どこをどう理解していいのか分からないし、これまたツッコミどころしかない。


「効果の程は、実際に使ってみれば分かると思うわ。早速、練習台が来てくれたわよ」

「……えっ?」


 ミアレットがランドルと一緒に、お嬢様の趣味にゲンナリしていると……アレイルが示した通り、薄暗い廊下の先から猿のような風貌の魔物と、大きな熊の形をした魔物とがやってくる。それぞれ、1体ずつ……計2体。猿の方はともかく、熊の魔物は明らかに強そうである。


「それじゃ、2人とも。頑張ってみて」

「はっ、はい⁉︎ いきなり実戦とか、スパルタすぎません⁉︎」

「大丈夫よ。フォローはちゃんとするし、いざとなったら一発で仕留められる相手だから。それに、道具を持ち帰ろうと思うのなら、ちゃんと使わないと」

「それ、どういう意味っすか……うおっ⁉︎」


 しかしながら、言葉も空気も通じない魔物が、こちらの作戦会議を待ってくれるはずもなく。ランドルの質問を遮り、猿型の魔物が殴りかかってくる。軽やかながらも鋭い一撃を、ランドルが「キラメキ★マジックソード」で既のところで弾くが……。


「と、とにかくミアさん! ここはやるしかないっす!」

「そうですね……」


 いざとなったら仕留められると言われましても。元から剣術の心得があるランドルはともかく、ミアレットは戦闘に参加すること自体が初めてである。


(だけど、やるしかないのよね……!)


 ランドル1人だけに、無理をさせるわけにはいかない。そうして、ミアレットは覚悟を決めると……ギュッと箒の柄を握りしめ、走り出した。


「ここは殴るっきゃないわね! ランドルさん、退いて、退いて!」

「わっ、わっ……!」


 ランドルの攻撃を猿の魔物が避けたところに、その脇腹目掛けて、ミアレットが箒を振り払う。しかし、当然ながら……箒の穂先では大した打撃にはならない。ボフンと情けない手応えが返ってくるのみで、ダメージらしいダメージは与えられていない様子。


「やっぱ、箒じゃダメか……!」

「そりゃ、そうっすよ!」


 何か、当たったか? ……とでも、言いたげに。微塵も痛がる様子もなく、腹を掻く猿の魔物。そして、仕切り直しとばかりに、ミアレットに真っ赤な双眸を向けてくるが……。


「くっ……! 来るんなら、もう一発、行くわよ……!」


 こうなったら、度胸も大事とミアレットは精一杯、魔物を睨み返す。だが、少女のか弱い渾身の威嚇なんぞ、易々と受け流し。今度は猿ではなく、熊の魔物が腕を振り上げ、殴りかかってくるではないか。


「ちょ、ちょっと! そっちはお呼びじゃないんですけど⁉︎」

「ミアさんッ!」


 こんな事だったら、勢い任せに飛び出すんじゃなかった……。万事休すと、ミアレットが諦めかけた、その刹那。熊の魔物に炎の矢が命中しているのと同時に、何故か猿の魔物までもが熊の腕に齧り付いている。


「えっ? えっ……?」


 炎の矢はアレイルが放ったものだろう。的確に熊の肩を射抜いて、一発で片腕を封じてくるのだから、手際も見事なものである。しかしながら、猿と熊が喧嘩をし出した理由は全くもって、理解不能。それでも、黒い魔物が互いに唸り声を上げては、牙を鳴らしているのは事実で……。


(もしかして、仲間割れ……?)


 突然始まった、魔物同士の小競り合い。その仲違いのお陰で、ミアレットはとりあえず助かったと、汗を拭うものの。……助かった安堵以上に、不可解な状況はひたすら不気味でしかない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 勇者のキラメキ★マジックソード(笑) もうやめたげて!(笑) ちょっと前から、アンジェレットさんが可哀そうすぎて……。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ