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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第2章】目指せ! オフィーリア魔法学園本校
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2−22 怪しい逸品

 俺の責任って、どういう事だろう?

 昼間に彼女を軽んじた(と言うよりは、アンジェレットが勝手に癇癪を起こしただけ)ミアレット達が原因ならともかく……一応はアンジェレットの味方だったランドルが原因とは、これいかに。


(もしかして……)


 ランドルは「自分が目を離したのがいけなかった」と、言っていたが。その言い分からしても、彼が目を離した隙に、アンジェレットはよからぬ事態に巻き込まれたのだろう。……アンジェレットの性格からして、巻き込まれたのではなく、自ら進んで厄介事を起こした可能性も高いけれど。いずれにしても、何かしらのハプニングに見舞われたことは、間違いなさそうだ。


(やっぱり、アンジェレットさんの執事さんは大変だわぁ……。私だったら、逃げ出してるかも……)


 ミアレットは雑多な意味で、ランドルに憐憫と尊敬の情を抱いてしまう。そんな風にミアレットが同情しているなんて、露知らず。薄暗いだけではなく、どこか不気味な空間で……一方のランドルはすぐ横の檻を摩りながら、話を続ける。


「……お嬢様が魔物になったのは、シャルレット様が食べるはずだったリンゴを横取りしたからなんすよ。父上が魔力増強の秘薬だなんて、用意していたリンゴを……お嬢様が無理やり取り上げちゃいまして」


 ……やはり、アンジェレットの基本スタイルは受動的に巻き込まれるのではなく、自発的に巻き込まれにいくタイプだったか。そんな事をゲンナリしながら考えつつも、彼の証言に捨て置けないキーワードがある事にも、しっかり気づく。彼の言う「魔力増強の秘薬」は、まさか……。


「ね、ねぇ、ランドルさん。一応、聞きますけど……そのリンゴ、真っ黒なヤツだったりしました?」

「あれ? ミアさんも知ってたんすか? そうっすよ。それです、それ。俺は父上がどこから調達しているのかは、知らないんですけど……怪しい逸品なのは、間違い無いっすね」


 あぁ、やっぱり。「例のリンゴ」が一枚噛んでいたんだ。

 ランドルの反応に、思わず顔を見合わせるミアレットとアレイル。こうも清々しいまでに「彼ら」の予想が的中すると、空恐ろしいものがあるが。やはり、アンジェレットは深魔になったのではなく、深魔にさせられたのだ。


「貴重なお話、ありがとう。ランドル君の話からするに、君のお父様を問い詰めた方が良さそうね」

「やっぱ、そうなるっすよね。俺も、父上は怪しいと思うっす」

「そう。だったら、君の疑念を晴らすためにも……まずは、ここを攻略しないと。で、ミアちゃん」

「はっ、はい!」

「悪いのだけど、サポートをお願いできる? ……ウィンドトーキングで、ルートと遮蔽物の状況を確認して欲しいの」


 ウィンドトーキングは風魔法の基本的かつ、初歩の初歩とされる魔法だ。風の流れを作り出し、その風がどこで遮られ、どこで止まったか。術者がそれを感じ取ることで、空間を把握する……ただ、それだけの魔法ではあるが。心迷宮のように入り組んだ経路を進むには、ウィンドトーキングが使えるかどうかで攻略難易度が変わるとまで言われる程に、重要な魔法でもある。


「分かりました。えぇと……空虚なる現世に、風の叡智を示せ! 我は空間の支配者なり、ウィンドトーキング!」


 自分でも驚く程に、スムーズに魔法を発動し。ミアレットは目を閉じ、風の流れを通じて周囲の状況を探る。その結果、エルシャの心迷宮と比較して分岐路は少ないが……やはり鉄格子や曲がり角が多く、アレイルには非常に不利なフィールドなのは間違いなさそうだ。そんな中……。


「……あれ?」

「どうしたの、ミアちゃん」

「は、はい……経路と障害物はある程度、把握できたんですけど……その他に、妙な空間があるっぽくて」

「妙な空間?」

「風の流れが変な場所があるんです。あっ、丁度その角を曲がって、すぐのポイントなんですけど……」


 前方よーし、右よーし、左よーし。

 おっかなびっくりで、ミアレットは曲がり角から顔を出し……魔物がいないと確認した所で、気になるポイントに向かう。そうして実際の問題箇所を見つめては、やっぱりおかしいと首を傾げる。


「うーん……ここが鉄格子だったら、普通に風が通り抜けるはずなんだよなぁ……」


 それなのに、ウィンドトーキングの風はこの箇所を通り抜けることはなく、弾かれていた。そんなことを考えながら、ミアレットは鉄格子に何の気なしに触れようとするが……。


「って、えっ? わっ、わぁぁ⁉︎」

「ミアちゃん⁉︎」


 スカッと鉄格子を掴み損ねると同時に、ミアレットはすり抜けるように鉄格子の奥に入り込んでいた。勢い、ドサリと転んだ先で顔を上げれば。……そこには、先程までの陰鬱な空間とは別世界としか思えない、黄金色の空間が広がっている。


「……何、ココ……?」

「ミアさん、大丈夫っすか……って、おぉ⁉︎ 眩しッ⁉︎ ってか……ヴッ。なんすか、この部屋……」


 ミアレットを追って、ランドルもやってくるが……直視できない程に悪趣味な部屋に驚くと同時に、尻込みしている。それはそうだろう、キンキラキンな壁一面にはアンジェレットと思われる、美少女の肖像画がズラリと並んでいるのだから。一方、アレイルは興味深そうに繁々と部屋を見渡した後、「ヒューッ」と楽しげに口笛を吹く。


「あらあら……ミアちゃん、アンジェレットさんの黒歴史部屋を探り当てちゃったみたいねぇ……」

「へっ? 黒歴史部屋……?」

「ここは所謂、隠し部屋というやつなのだけど……心迷宮はターゲットの深層心理の状態が反映されるのは、知っての通り。だけど、本人が隠していたい憧れや秘密なんかも、運悪く反映されることがあって……」


 だから、通称・黒歴史部屋と呼ばれるの……なんて解説が馬鹿馬鹿しくなるくらいに、この部屋にはアンジェレットの恥ずかしい憧れが詰まっている。

 アレイルの説明からするに、この悪趣味(自己愛?)丸出しの部屋はアンジェレットの理想(妄想)が反映された場所になるらしい。そしてミアレット達は運悪く、そんなアンジェレットの「秘密の部屋(主成分:黒歴史)」に踏み込んでしまったようで……。


「なんだろう、これ……魔法の杖かなぁ……?」


 肖像画以外にも、アクセサリーやらドレスやらも所狭しと並んでいるが。……どれ1つとっても、大袈裟でゴテゴテとしており、お世辞にも趣味がいいとは言えない。そんな独特なファッションセンスが溢れるドレスの合間に、杖らしきものが立てかけられているのを見つけて、ミアレットは思わず手に取ってみる。


「天辺のハートとかリボンとか、なんの冗談なんだろう……」


 もしかして、この「素敵なステッキ」もアンジェレットの憧れの逸品なのだろうか? やたらと既視感のある、ピンクのハートを見つめては……こんな感じのステッキ、ニッポンのおもちゃ屋さんでも売られていた気がすると、ミアレットはため息をつく。


(そう言えば……子供の頃に魔法少女ステッキ、買ってもらったこともあったっけなぁ……)


 星に代わってナントカ……と、無邪気にはしゃいでいた頃の自分、結構ピュアだったかも。そんな事を考えながら、ミアレットはそっとステッキを元の場所に戻し、見なかったことにしようと心に決めるのだった。

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