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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第2章】目指せ! オフィーリア魔法学園本校
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2−19 災難を鎮めるのが最優先

「ミアちゃん、しっかり捕まってて!」

「はっ、はい!」


 急遽、アレイルと一緒に出動することになったミアレット。今日は2度目の空中散歩ともなれば、慣れたものと腹も括る。そうして、あっという間に深魔の発生ポイントにアレイルと共に降り立つが……今回の深魔は庭ではなく、屋敷内で発生したらしい。立派ながらも、どこか寂れた空気が漂う洋館の一角が、黒い靄で覆われている。


「……さて、と。探す手間が省けたのは、何よりだけど……」

「建物も崩れちゃってますし、結構、危なさそうですね……。お家の人は、大丈夫でしょうか……?」

「怪我人は天使様達に任せるしかないわ。ティデル様が手を回して下さると言っていたし、フォローは彼女達に任せましょ」


 本当は回復魔法を使えればいいのだけど……と、アレイルが残念そうにポツリと呟くが。使えないものは仕方ないと、首を振る。

 ハイエレメントと総称される光属性と闇属性の魔法は、該当エレメントを持たない者でも行使可能な魔法とされている。だが、それは精霊と人間に限った話で、天使は闇属性の魔法を使う事ができず、逆に悪魔は光属性の魔法は扱えない。ハーフとは言え、悪魔に属するアレイルには回復魔法を使うことはできないのだ。


「だから、人命救助はどうしても天使様達に頼るしかないわ。私達は私達で、できる事をしましょう」

「そうですね。とにかく、深魔を鎮静化させるのが先ですよね」

「その通り。……行くわよ、ミアちゃん」


 アンジェレットがどうして深魔になったのか……を追求するのは、後回し。まずは、目の前の災難を鎮めるのが最優先だ。

 そうして対象を捕捉せねばと、アレイルがクイっとメガネを小突いて、魔法を唱えるのではなく……手元に武器を呼び出す。凛と背筋を伸ばし、黒い靄の先を見据えて……アレイルが構えたのは真っ赤なリムを持つ、美しい一張の弓だった。


「……ちょっと下がってて。まずは、彼女を引き摺り出すわ」

「は、はいっ?(引き摺り出すって……弓で⁇)」


 ミアレットの疑念を知ってか、知らずか。アレイルは矢を番ていないままの弦を引き絞り、僅かに呪文を唱える。そして、見事な炎の矢を作り出すと、勢いよく放った。


(引き摺り出すって、そういうこと……? 弓って、こんな武器だったっけ……?)


 何かが違う気がする。少なくとも、ミアレットが知っている「弓」とは、何かが違う。

 またも、摩訶不思議な武器を前にして、ミアレットは唖然としてしまうが。アレイルが放った矢には、彼女の手元に繋がっている光の糸が伸びており……時折、チリリと何かを焦がすような音をさせながら、弛む事なくピンと張っている。


「よし、捕まえたわ。それじゃぁ……せいの、っと!」


 ギュンと伸びた光の糸を、握りしめ。アレイルが足を広げると同時に、グッと腰を落とす。スリットから覗く脚線美の眩しさに、ミアレットは同性ながらもクラクラしてしまうが……そんなことはお構いなしとばかりに、アレイルが驚異的な剛力を発揮すると、絡め取られた深魔を一気に引き寄せる。


「……アレイル先生って、意外と力持ちなんですね?」


 無駄な抵抗もそこそこに、光の糸で雁字搦めになっている深魔が庭先に転がされる。しかしながら……アンジェレットの面影さえ残していないそれは、どこをどう見ても、アレイル1人で引っ張り出せるような小物ではなかった。


「あら、この程度はできて当然よ? ママもこの位はできるでしょうし……ミアちゃんもその気になれば、できるようになるわ」


 しかも、アレイルは涼しい顔を保ったまま。苦労をした様子を滲ませもしなければ、アーニャだけではなく、ミアレットにも「この程度」はできると言ってのける。しかし……。


「そ、そうですか……?(いえ、是非にご遠慮したいんですけど……)」


 スラリとしたスマートボディのどこから、こんな馬鹿力を発揮しているんだろう。すまし顔で淡々と深魔を観察しているアレイルを尻目に……ミアレットは若干、腰が引けてしまう。そして、思うのだ。こんな事ができるようになった頃には、人間を辞めているんだろうな、と。


「おっ、お嬢様っ!」

「……あれ? 確か、あの人は……」


 アレイルが引き摺り出した深魔に向かって、「お嬢様」と呼びかけながら駆け寄ってくる1人の男の子。彼はまさしく、お昼のラゴラス邸で顔を合わせたばかりの「お知り合い」ではあるが。その彼が「お嬢様」と呼んでいる時点で……目の前の深魔は間違いなく、アンジェレットその人なのだろう。


「ミアちゃん、この子ともお知り合い?」

「はい。アンジェレットさんの執事さんです。今日のお昼もアンジェレットさんのお世話と、尻拭いをしっかりとしてました」

「……お世話と尻拭いって、随分と辛辣な……あっ、でも。……それも、間違いじゃないなぁ……」


 ミアレットの皮肉が含まれた説明を否定するどころか、思わず肯定してしまうランドル。……どうやら執事さんご本人にも、アンジェレットのワガママは目に余るものがあったらしい。


「お貴族様ともなれば、専属の執事さんがいるのねぇ」


 一方、アンジェレットを必死に追いかけて来たらしいランドルを見つめながら、アレイルがどこか物憂げなため息をつく。


「どうしようかしら……。心迷宮の攻略には、対象者をよく知っている人について来てもらった方がいいのよね。でも……執事さんを連れて行くのは、危ないかしら……?」


 同行させる協力者は、基本的に学園関係者(生徒を含む)であることが前提だ。心迷宮の攻略は「力を持たない一般人」を庇いながら遂行できる程、甘くはない。

 だが、アレイルもすぐさまランドルがそれなりの魔力を持つ事に、気づいた様子。「もしかして」と前置きを加えながらも、ランドルに質問を投げる。


「……執事さん、魔法を使えたりする? その様子だと……戦闘訓練とか、していたりするのかしら?」

「あっ、ハイ……一応は。俺の家系は代々、ヒューレックの皆さんを守るのが使命でしたし……。防御魔法と剣術くらいは仕込まれてます」

「そうなの⁉︎ それじゃぁ、決まりね!」


 嬉しそうに手をポンと打ち、何かを決定したらしいアレイル。しかして、そんな彼女の様子に、ミアレットはまたも嫌な予感を募らせるが……。


「決まりって……アレイル先生、まさか……執事さんも一緒に連れて行く、とか言わないですよね?」

「あら。もちろん、そのつもりだけど?」

「ちょっと待ってくださいよ! 心迷宮の中って、メチャクチャ危険なんですよ⁉︎ もしかしたら、私より執事さんの方が強いかも、ですけど! アンジェレットさんは風属性でしたし、水属性の執事さんには不利ですって!」

「もぅ、大丈夫よ〜。ミアちゃんがフォローしてくれれば、それで」

「……フォロー、私がするんですか……?」


 アレイルの実力の程は、定かではないが。弓を使っている時点で、彼女は遠距離攻撃が得意なタイプだろう。マモンのように、最前線でガリガリ敵襲を削れるタイプではないように思える。


「……大丈夫っすよ、ミアさん。俺も自分の身くらいは、自分で守ります。足手纏いにならないように、頑張るっす。それに……お嬢様がこうなったの、父上のせいですし。……是非に連れて行ってください」

「えっ?」


 軽薄な調子を引っ込めて、意外な程に真剣な眼差しで同行を願い出るランドル。そんな彼の視線を受けて、アレイルは満足そうに大きく頷いているが……ミアレットの不安は払拭されないままである。

【武具紹介】

・フレアノート(炎属性/攻撃力+58、魔法攻撃力+103)

アレイルが所持する魔法武器。紅蓮の炎と装飾を纏った、美しい大弓。

魔界に自生する漆黒竹をリム(本体)に利用している他、特殊鉱石・マグニスクロサイト製のスタビライザー(安定器)がセットされており、魔法効果を高めている。

武器自体の攻撃力はさほどではないが、魔力を矢として打ち出す事で、様々な特殊効果を発揮する。


【補足】

・漆黒竹

マモンの領地・強欲の所轄地全体に群生している、魔界産の竹。

元は東方・オリエント原産で、ゴラニアでは非常に珍しい植物。

魔界の魔力と瘴気の中で育つため、稈(幹に該当する部分)が非常に硬い上に分厚く、通常の竹よりも加工が難しいが、その分丈夫である。

魔力との親和性も高く、魔法道具素材として利用される他、漆黒竹の筍は珍味として喜ばれ、魔力増強効果があるとされる。


・マグニスクロサイト

魔界の溶岩エリアで採掘される、魔法鉱石。

サタンの領地・憤怒の所轄地全域を覆う、熱を帯びる岩石の総称である。

真っ赤な見た目に違わず強力な炎属性を示し、この鉱石を加工した武器や装飾品は、一律炎属性を持つことになる。

魔界では割合ありふれた鉱石ではあるが、魔法鉱石の例に漏れず瘴気との親和性も高いため、悪魔以外の種族が加工するのは難しいとされる。

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