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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第2章】目指せ! オフィーリア魔法学園本校
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2−11 魔法の目的

 やっぱり、正面突破は難しい……か。

 隣でアンジェレットが懲りもせず、ウィンドブレイドをがむしゃらにぶつけている一方で、ミアレットは憎らしい程に平然と佇む、水の柱を凝視している。

 アクアバインドは初級の魔法とは言え、柱を形成する「水」に対するアレンジの幅も広いため、用途や効果も多種多様なのが特徴。そんな事が初級魔法の指南書にも書かれていた事を思い出し、ミアレットはハーヴェンのアクアバインドが「どんな目的で構築されたものなのか」をまずは考える。


(セバスチャンさんの魔法は「相手を傷つけずに移動する事」が目的だったから、柔軟性を保ちつつ、頑丈になるように工夫されていた……と思う。じゃぁ、目の前のハーヴェン先生の魔法の目的は……?)


 この魔法の目的は、ミアレットとアンジェレットの魔法の実力を見るため……だったはず。誰かを捕まえるためでも、何かを阻むためでもない。あくまでも、「的」としての役割しか持たされていない。


(……でも、的を用意するだけでいいのであれば、他の魔法でもいいよね? いや……何も、的が必ず魔法である必要性すらない……)


 そこまで思い至って……ミアレットは今一度、アクアバインドの柱を見つめる。アンジェレットの魔法は表面で弾かれては、アクアバインドの外観を僅かに変える事さえできていない。だが、柱の中身は攻撃があろうとなかろうと、時折ゆらゆらと揺れては、流動的である事も窺える。だとすると……。


(なるほど……だから、アクアバインドなのね。……初級魔法の指南書に載っている魔法なら、私達でも知っている可能性が高いし)


 アンジェレットが他のエレメントの魔法まで、指南書に目を通しているのかは、分からないが。ミアレット達の魔術師帳でも、初級であれば全てのエレメントの魔法の知識を得ることはできる。もちろんミアレットとて、全ての内容を熟読してはいないが……ペアを組むのがエルシャだったため、水属性の魔法に関しては重点的に指南書を一読していたのだった。


「だったら……空虚なる現世に、風の叡智を示せ! 我は空間の支配者なり、ウィンドトーキング!」

「はっ? ミアレット、どうしてここでウィンドトーキングなんか……。この私でさえ、無理なのよ? あなたにだって、できっこない……」

「……アンジェレットさん、邪魔しないでくれます? 私には、私のやり方があるんです」


 既に息も切れ切れのアンジェレットのちょっかいも軽く受け流しては……目を閉じて、風の流れを見極めるミアレット。そうして意外な部分に「僅かな抜け穴」があることに気づくと、今度は入念に照準を調整しながら、アクアバインドの真上にアンジェレットと同じ攻撃魔法を展開する。


「煌めく風よ、天を臨め……風の息吹を刃と成さん! ウィンドブレイド!」


 ミアレットが展開したウィンドブレイドはアクアバインドの側面ではなく、天辺から垂直に落とされる。そうされて、あれ程までに鉄壁の防御を見せていたはずの水塊が、綺麗にスパッと縦に分断された。


「よっし!」

「な、な、なッ……! 私の魔法は効かなかったのに、どうしてミアレットの魔法は効くのよ!」

「え〜と……あのアクアバインドですけど。上と横とで、水の構成が違うんじゃないかと……」

「は……はぁッ? それ、どういう事よ⁉︎」

「う〜ん、ちゃんとした正解はハーヴェン先生に聞かないと、分からないですけど。きっと、先生は全体的に錬成度を高めることで、風属性への抵抗力を構築しつつ……ちゃんと攻撃が通る部分を、敢えて作っていたんだと思います。アクアバインドって構築や錬成度の調整で、硬さや水質を変えられるらしくて。それに関しては、指南書にもしっかりと書かれていましたよ?」

「水属性の魔法なんて、勉強する必要もないし、知らないわッ!」

「ですよね〜……うん、そう言うと思いました」


 悔しさ紛れの逆ギレに、説明しても無駄だったと、ミアレットが半ば遠い目をしていると。パチパチと拍手が送られているのにも、遅ればせながらに気づく。そうされて周囲を見やれば……ハーヴェンやマモン、エルシャはもちろんのこと、アンジェレットの付き人のはずな男の子まで、嬉しそうに手を叩いているではないか。


「あっ、ども……」

「いや〜、流石だな、ミアちゃん。ちゃんと魔法の使い所を見極められて、偉いぞ〜」

「すごい、すごい、ミアレット! ハーヴェン先生の魔法を解除しちゃうなんて!」

「ウンウン、俺もちょっと感動しちゃった。しかし、錬成は結構頑張ったつもりなんだけど……。まさか一発で両断されるなんて、思わなかったなぁ」


 参ったなと頭を掻きながら、一応の答えも解説してくれるハーヴェン。しかしながら、口では悔しそうにしつつも、穏やかな表情を見る限り……ミアレットが正答を導き出したことを喜んでくれているようだ。


「因みに。ミアちゃんのさっきの見立ても、きちんと合ってるぞ。このアクアバインドは、側面を電気伝導度が抑えられる純水でコーティングすることで、風属性の攻撃を通さないようにしてあったんだ。そうだな……イメージとしては、水槽のガラス部分を別枠で作った感じかな? その上で、側面の錬成度は最大まで高めてあったから……多分、マモンの攻撃魔法もある程度は防げるかも」

「確かになー……この感じだと、それなりの上級魔法でもぶっ放さないと、真正面からは解除できないかもな。んじゃ、デモンストレーションも兼ねてどこまで耐えるか、そっちのヤツで試してみよっかな」


 クイと顎をやりながら、アンジェレットが仕留め損ねたアクアバインドを見つめるマモン。そうして、ちょっと下がってて……と、しっかりとミアレットとアンジェレットを避難させつつも、すぐさま魔法の展開をし始める。


「さて……と。初手は初級魔法から行こうかな? 煌めく風よ、天を臨め! 風の息吹を刃と成さん……ウィンドブレイド、トゥエルブキャスト!」

「……えっ?」


 初手は初級魔法から。しかし、軽い口調とは裏腹に、マモンが放った魔法は同種多段構築の12段構えだった。そんな初級魔法のクセに異常な魔法が、容赦無くアクアバインドの柱に襲いかかる……!


「おぉ、スっゲェ! この程度じゃ、ビクともしねーか」

「もちろん! 最大錬成を舐めんなよ?」


 だが、しかし。アンジェレットの魔法を弾いていたのと同様に、マモンの魔法でさえも易々と防いで見せる、堅牢な水塊。ここまでくると、冗談抜きで真正面からの強制解除は相当の難易度になりそうだ。


「ウンウン、流石だなー。じゃ……これなら、どうだ?」

「ハハ、次は何が飛んでくるのやら」

(……先生達、なんか楽しんでません……?)


 生徒をそっちのけで、検証に目を輝かせる教師2人組。それでも、ミアレットはマモンの魔法を見るだけでも勉強になるかもと、彼の次の一手も見逃すまいと集中する。


(……さっきのウィンドブレイド、スピードも威力も別物だった気がする。連発もそうだけど……錬成度を高めるテクニックも、勉強した方が良さそうね)


 魔法は具体的なイメージができるかどうかで、展開の成功率にも影響する。特に、攻撃魔法はイメージが先行する部分も強く、マモンのデモンストレーションはまたとないチャンスに違いない。


(ここはしっかりと、勉強させてもらわなくちゃ! それにしても……)


 この好機を、萎れるだけで無駄にするつもりなんだろうか?

 すぐ横で完全に凹んでいる、アンジェレットをチラリと窺っては。本当に勿体ない事をすると、ミアレットはやっぱり呆れてしまうのだった。今は拗ねて、そっぽを向いている場合ではないだろうに。

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