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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第2章】目指せ! オフィーリア魔法学園本校
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2−7 心当たりはゼロなんですけど

「ところで、マモン。……気づいてるか?」

「うん、気づいてる。……誰か、付けて来てやがるな」

「えっ?」


 ルシー・オーファニッジはカーヴェラでも「グリーン・エリア」と呼ばれている、居住区に位置している。そして、今日の目的地でもあるエルシャの住まい、ラゴラス邸は貴族街・「ブルー・エリア」にある。意外と距離はあるものの、目抜き通りに出てしまえば、そこまで苦労する道程ではない……はずだった。


「ついて来ているって……誰がですか⁇」


 カーヴェラは街の中央にある時計塔を中心に、4本のメインストリートが伸びており、4つの区画で大まかに街の機能が整備されているのだが……各エリアを移動する際には、どうしてもメインストリートを跨ぐ格好になる。そして、メインストリートは多種多様の店が立ち並ぶショッピングエリアでもあるため、いつも大勢の人で賑わっている。

 そうして、ミアレットが慣れたように目抜き通りの1つ、グリーン・ストリートに出たところで、ハーヴェンがヒクヒクと鼻を鳴らしながら、不穏な事を言い出したものだから……ミアレットは思わず、悪魔男子達に振り向くものの……。


「う〜ん……こいつは、初めましてさんの匂いだな。感じからするに、若い男の子と女の子みたいだが……」

(……この人混みでそこまで分かるだけでも、凄いんですけど……)


 ハーヴェンは本性に「エルダーウコバク」という悪魔の姿を持っている……と言うのは、ミアレットも聞き及んでいる。彼自身のベースは犬科の動物(厳密にはキツネ)とのことで、人間に化けている状態でも、嗅覚と聴覚がズバ抜けて鋭いそうな。特に、1度嗅いだ相手の匂いは絶対に忘れないとかで……数キロ程度であれば、ターゲットをピンポイントで追う事もできるらしい。


「ハーヴェンでも分からないとなると……相手は、ミアちゃんの知り合いかもな。俺達の知り合いだったら、ハーヴェンが嗅ぎ分けられないわけないし」

「あっ、そうなるんですね。でも……う〜ん、心当たりはゼロなんですけど……」


 ハーヴェンの鼻に絶対の信頼を寄せているらしいマモンが、そんな事を呟くが。しかしながら、ミアレットには尾行されるような用事も相手もいないのだが……。


「つーことで、ミアちゃん」

「えっ? はい?」

「ちょいと、ごめんよ?」


 慌てるでもなく、騒ぐでもなく。何かを示し合わせたかのように、マモンが悩むミアレットを抱き上げる。そうして、間髪入れずにバサリと翼を広げるが……。


「わっ、わっ⁉︎ も、もしかして……このパターンは……!」

「アハハ。そうだよなぁ。相手を撒くには、飛んじまった方が早いよな」


 しかも、マモンが翼を広げるや否や、こちらはこちらで準備万端と翼を広げているハーヴェン。彼もマモンの強硬手段に賛成と見えて、ニコニコしている。


「って! ハーヴェン先生も止めてくださいよ!」

「うん? どうして? こんなにお天気もいいんだし。空中散歩も悪くないぞ〜」

「いや、そうじゃなくて! これ……お嫁さん的には、大丈夫なシチュエーションなんですよね⁉︎」

「もっち、大丈夫だって〜」


 本当かな。本当に、本当ですか? 本当に、大丈夫⁇

 それでなくとも、ミアレットは知っている。ハーヴェンのお嫁さんも、マモンのお嫁さんも、とにかく独占欲が強いことを。特に、ハーヴェンのお嫁さん・ルシエルは大天使階級の実力者だ。……今回は実行犯ではないため、お咎めはないのかも知れないが。マモンと共謀した時点で、厳しいお小言くらいはあるかも知れない。


(彼女達に、見つかりませんように、見つかりませんように……!)


 ハーヴェンが見事な左ストレートで、吹っ飛ばされていたこともあったような……と、思い出し。ミアレットの心配は、嵩む一方だ。


***

「……お嬢様。尾行、バレてたんじゃないすか? あいつら、飛んで行っちゃいましたけど」

「……」


 メインストリートに出てからと言うもの。あまりの人出にミアレット達の姿を追うのも、やっとだったと言うのに。歩くのが面倒になったのか、はたまた、ランドルが指摘するように……尾けていたのが、バレてしまったのか。あろうことか、悪魔男子達はミアレットを抱えて、空の向こうへ飛び去っていってしまった。あっという間の出来事に、呆然としているアンジェレットの視界には……ただただ呑気に澄んだ色をしている青い空と、商店街の鮮やかな屋根の色が映るのみである。


「で? どうするんすか? お嬢様」

「もちろん、追うに決まってるじゃない」

「いや、ですけど……俺達はどう頑張っても、飛べないっすよ?」


 またまた無謀な事を言って……と、ランドルは呆れてしまうが。アンジェレットには、ミアレットの行き先に心当たりがあるらしい。やや自信ありげに、彼女なりの推測を披露する。


「あいつらが飛んで行ったのは、ブルー・エリアの方だったわ。ミアレットが貴族街に用事があるとなれば……多分、行き先はラゴラスの所でしょうね」

「へっ? ラゴラス……ですか? そりゃまた、どうして?」

「ミアレットがペアを組むっていってるのが、ラゴラスの落ちこぼれなのよ。全く……私から、ミアレットを横取りするなんて、生意気にも程があるわ!」

「いや……それ、横取りじゃないっすよね? それに、お嬢様も十分に落ちこぼれだと思いますけど……」

「うっ、うるさいわね! とにかく、行くわよ!」

「……へいへい……」


 アンジェレットが相手でも、ランドルの辛辣さは変わらない。あろうことか、「お嬢様も落ちこぼれ」だと客観的な指摘をズバズバとしてくれるのだから、非常に趣味がいい。だが、ランドルの意見は絶妙な事実でもあるため、アンジェレットも使用人相手でも反論ができずに、できることと言えば……お嬢様権限で尾行を強行するだけだ。

 兎にも角にも、行き先が分かっているのだから、あとは移動あるのみ。ランドルが真っ当な意見を述べたところで、お嬢様のご意向は変わらない。そうして、仕方なしに……結局はアンジェレットに引きずられる格好で、ランドルもラゴラス邸を目指さざるを得ないのだった。

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