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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第7章】思い出の残り火
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7−45 縁もゆかりもない、瑣末な相手

 午前中の授業は「魔法概念を理解するための、知識の収集方法」について。特殊祓魔師とまでは行かないにしても、トコロが魔法学園本校ともなれば、普段の教師陣もエリート魔術師揃い。当然ながら、内容もハイクラスである。

 そんなエリート魔術師による、難解かつ分かり易い授業を乗り越えた貴重な中休み。ミアレットはエルシャと復習にピッタリな教材を探しに、魔法書架にやってきていた。


「凄い数の本……! なんだか、本に埋もれている気分になるわぁ……」

「そ、そうね。やっぱり、本校の図書館は違うよね。本棚も天井まで伸びてるし……」


 カーヴェラ分校の図書室もそれなりに、必要な蔵書は揃ってはいたが。魔法学園本校の「魔法書架」はやはり、規模も桁違いだ。

 重厚な扉を開くなり、ミアレットとエルシャを出迎えたのは、天井まで続く高さの本棚と、本棚に負けじと長く長く伸びる梯子の群れ。静謐かつ厳粛な雰囲気を纏いつつも、カラフルな本の背表紙がゾロリと並んでいる光景は、どことなく賑やかでもある。


「これ……どこからどう探せばいいのかなぁ。ミアレット、どうする?」

「えぇと、確か……ライブラリページに魔法書架の利用ガイドがあったはず……」


 手元の魔術師帳によれば……至る所に設置されている魔力式パネルから、お目当ての魔法書を検索し、お取り寄せするのが手っ取り早いようだが。そもそも、検索ワードすら思い浮かばないミアレットとエルシャの場合は、キーワードも手探りだ。そうして、物は試しとミアレットが「エアリアルダスト」と、目下習得目標としている魔法名をパネルに打ち込んでみると……。


「うわぁぁぁ……これまた、凄い件数がヒットしちゃったんですけどぉ……」


 一瞬で表示された検索結果によれば、エアリアルダストに言及している魔法書は1291冊もあるらしい。風属性の中堅ドコロという事もあり、エアリアルダストは習得する魔術師も多い魔法ではあるものの……いくらなんでも、ヒット件数も多すぎる。これでは本に齧り付く前に、本棚に齧り付く事になりそうだ。


「うーん……。キュラータさんに魔法書の探し方のコツ、教えてもらおうかなぁ……」

「キュラータさんって、ディアメロ様の執事さんだっけ?」

「そうそう。で、そのキュラータさんなんだけど。魔法書を探すのが、とっても上手みたいで。ディアメロ様に合った魔法書をピックアップしてくれているみたいなの」

「そうなんだ。いいなぁ。私にも、自分に合った魔法書を探してくれる執事さんがいたらいいのに……」


 あっ、そうなるか。

 エルシャは生粋のお嬢様とあって、自分で探すよりも、探してもらう方にシフトしている様子。そんな親友の様子に、「それもそうか」とミアレットは納得してしまうものの。あのキュラータ相手だったらば、「いいなぁ」と思うのは自然かも知れないと、考えてしまう。


(エルシャの気持ち、分からなくもないわぁ。今更だけど。キュラータさん、実はかなーり渋くて素敵なのよね……じゅるり)


 ……ミアレットの年上好きは健在である。しかも、キュラータの本性はクラシカルな機神族ベースだと聞かされれば。アンティーク万歳なミアレットにしても、ポイント高し。キュラータ本人はかなりの皮肉屋ではあるが、ウィットに富んだ言い回しも妙に心地よく、滲み出る大人の余裕も実にいい。


「あなたのような未熟者を寄越されたところで、こちらとしても甚だ迷惑です」

「えっ? 今の……キュラータさんの声⁇」


 だが、ミアレットが内心で「渋ダンディ万歳!」と三唱をしているところに、当のダンディボイスが響いてくるではないか。どうやら声の発信源は、ミアレット達が眺めていた本棚の反対側のようだが……刺々しいセリフからしても、穏やかではない様子。


(ねぇ、ミアレット……どうする? なんだか、揉め事みたいだけど……)

(うん、そうみたいね。えぇと、キュラータさんの相手は……あぁ。ロッタさんかぁ……)


 ミアレットとエルシャがコソコソと本棚の影から、様子を窺えば。キュラータの背中越しに見えるのは、悔しそうに唇を噛み締めるロッタだった。今朝の様子からしても、不穏な空気はミアレットも肌で感じていたが。やはり、使用人同士の仲はあまり良くなかったらしい。


「……ところで、ロッタ殿。あなたはどこまで思い出している悪魔なのですか? その特定の相手以外を見下す癖は、生前からのものと感じられるのですが。あなたは何を、どこまで知っていて……どのような判断基準を持って、ディアメロ様を愚弄するのです?」

「妙なことを聞くのですね、キュラータ殿は。……悪魔でもない、裏切り者に与えてやれる答えなんて、持っていないわ」

「左様ですか。クク……それはそれは。まぁ、いいでしょう。私めが裏切り者なのは、紛れもない事実。ルエル様のご温情で生かされているだけの、一兵卒でしかありませんからね。あなたにとっては、所詮……縁もゆかりもない、瑣末な相手でしかないのでしょうから」


 面と向かって「裏切り者」と言われても、キュラータは怒るどころか、皮肉っぽく笑う余裕を見せている。その上で、ロッタの指摘を受け入れつつも……何かを諦めた様子。背中のシルエットだけでも、明らかに落胆している様子を見せながら、厄介払いとばかりにロッタに「自由になさい」と告げる。


「そういう事でしたらば、もう結構。ディアメロ様の護衛は私めにて、引き続き対応いたしますので。ロッタ殿はミアレット様のお使いを優先されたらば、よろしい」

「あぁ、ご存知でしたの? ……もしかして、カテドナ様が?」

「いいえ? 情報源はディアメロ様ですね。ディアメロ様も、ロッタ殿とは相性が悪いとおっしゃっていましたし。ロッタ殿はそちらを優先していただいた方が、都合も良いとご判断されたようです」


 キュラータの寛大ながらも、含みのある返答を聞いて、ロッタはまたも苦々しい表情を見せる。しかして、これ以上一緒にいたところで、互いに不愉快なだけ。「フン」と忌々しげに鼻を鳴らしながら、燕尾服のテールを軽やかに翻してロッタは去って行った。


「……もう出てきていいですよ、ミアレット様」

「あっ、キュラータさん……気づいてたんですね?」


 しかし、キュラータはミアレット達にも気づいていた様子。ロッタが魔法書架から出て行ったのを見届けた後、ミアレット達に向き直る。


「もちろん。護衛対象に気づけぬようでは、役立たずもいいところです」


 それは要するに、ロッタは役立たずだと言いたいのだろうか?

 先程の険悪な雰囲気も相まって、ミアレットは苦笑いしかできないが。キュラータが皮肉っぽいのはいつもの事なので、ここは彼に倣ってサラリと流してみる。


「あぁ、それと。ミアレット様のご学友……エルシャ嬢でしたか? この度は見苦しい所をお見せして、申し訳ございません」

「い、いえ……むしろ、盗み見しててすみません……」


 しかも、エルシャにまでしっかりと頭を下げるのだから、キュラータの丁寧な姿勢に乱れはない。これではロッタが「未熟者」に見えるのも、無理からぬ事とミアレットなりに理解するものの……。


(でも……なーんか、引っかかるのよねぇ。キュラータさんは、ロッタさんの事を以前から知っていた気がする……?)

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