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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第1章】ややこしい魔法世界の隅っこで
32/325

1−29 超興醒めなんですけど

(帰ってこれた……?)


 夢のようで、現実でしかなかった心迷宮からの帰還。気づけば、ミアレットは黒ではなく、深いグリーンの芝生の上に座り込んでいた。そんなミアレットに手を差し伸べるのは……やっぱり、頼りになる先生その人である。


「ミアちゃん、大丈夫か?」

「は、はい……なんだか、まだ実感がないんですけど……無事に帰ってこれた、で合ってます?」

「うん、合ってる。ウンウン、意識もしっかりしてるみたいだし、問題なさそ……オワッ⁉︎」


 しかし、ミアレットがマモンの手を取る間もなく、横から大悪魔様に抱きつく者がある。勢い、倒れ込みそうになるマモンを見上げれば……既に彼に抱きついたリッテルが、彼のほっぺたにスリスリと頬ずりしていた。


「って、リッテル! スリスリはもうちょい、待ってくれ!」

「イヤ! 待てないわ! 今の私はグリちゃん欠乏症なんだから! たっぷりグリちゃん成分を補給するの!」

「うわぁ……」


 ある意味で見慣れた光景に、ミアレットは乾いた声を漏らす。詳しい事は知らないが。リッテルはマモンを「グリちゃん」と呼んでおり、事あるごとに抱きついては、彼を物理的にも精神的にも振り回すのだ。そんな呆れるばかりのミアレットに、マモンの代わりにと手を差し伸べてくれたのは……ティデルである。


「ミア、お疲れ。全く……あのバカップルは気にしなくていいからね」

「は、はい……ありがとうございます、ティデル先生」


 ティデルに手を引かれ、ようやく立ち上がれば……少し離れた場所でエルシャを抱きしめた、彼女の両親らしき男女が涙を流しているのも見えてきた。その様子に、ミアレットは一気に嫌な予感を募らせる。まさか……。


「そ、それはそうと、エルシャは無事なんですか⁉︎」

「あ、大丈夫よ。あれは喜びの涙だから。エルシャもちゃーんと、戻ってきたわよ。その辺はそれこそ、リッテルが診てくれたし、問題ないわサ」

「そっかぁ……あぁ、よかったぁ……!」


 しかし、安堵の息を漏らしたのも、束の間。ミアレットは手の平に残った大きめの宝石の存在も思い出し、すぐさまマモンに向き直る。

 今までの話からするに、ミアレットの手に残った宝石は相当の貴重品のはず。そんなものをおいそれと、持ち逃げしてしまうのは寝覚も悪い。


「それはそうと、マモン先生! これ……どうすればいいですか⁉︎」

「あっ、そうだった。……リザルトの確認、必要だよな。だから……リッテル、いい加減、離れろ! ちゃんと最後までお仕事させてくれよ……」

「もぅ……仕方ないわね。30分、我慢してあげるわ」

「ねぇ、リッテルさん。アナタ、もうちょい我慢できないの? それ……完璧に子供以下だぞ?」

「まぁ!」


 ため息混じりで、ベリベリとリッテルを引き剥がしながら。ミアレットに魔術師帳を出すよう、マモンが促してくる。そうして、自分の魔術師帳も取り出すと……これまた、何かのデータを送信し始めた。


「ホイホイ、探索結果の残り分も具現化されたから……戦利品リストを送ったぞ」

「は、はい……」


***

発生対象:人間(幼体)

発生日:人間界暦 2722年 287日

発生レベル:★★★

報酬分配:シェア

最終迷宮性質:魔法攻撃遮断

最終深度:★★★★


戦果状況

マモン(クラス:ダークジェネラル)

貢献度:90%


ミアレット(クラス:メイジ)

貢献度:10%


トロフィー

①深魔の破片・特級 ×1

②深魔の破片・中 ×3

③深魔の破片・小 ×6

④グラディウスの枝 ×1

***


(この「トロフィー」って項目が今回の戦利品なのかしら……? それはそうと……アハハ。貢献度10%って……私、むしろ10%も貢献してた⁇)


 意外と「戦利品」が多いことに、戸惑いつつ……マモンの指示を待つ、ミアレット。この貢献度では、そもそも全部マモンの戦利品だと言っても、差し支えないだろう。いくら怖い思いを沢山させられたとは言え……この状況で戦利品をくれだなんて、厚かましいことは言えない気がする。


「そんじゃ、ま。俺の取り分は④だけでいいかな。後はミアちゃんが持ってるといい」

「えっ? いやいやいや、ちょっと待ってくださいよ! 私、そんなに活躍してないし……深魔の破片とか、何に使えばいいのか分からないですし!」

「別に使わないんなら、他の魔術師に譲るのもアリだぞ? 深魔の破片は小サイズでも、銀貨5枚くらいになる。金策にも使えるから、取っておけって」

「で、でもぉ……」


 大体、目の前の大悪魔様は「強欲の真祖」のはず。ここまで気前がいいのも、おかしな話なのだが。


「マモン先生はそれでいいんですか? それこそ、欲しいものとか……」

「う〜ん、今のところ金にも困ってないし、特にないかな〜。お仕事してれば、コーヒーの調達にも困らないし。商売もお陰様で、上手くいってるしなー」

「ソウデスカ……」


 強欲とは、一体。ミアレットはますます、マモンの微妙な悪魔感に困惑してしまうものの。そういう事なら、いっそのこと譲ってしまうのもいいかも知れないと……エンドサークルの中から恨めしげにこちらを見つめている、お兄様の元へと歩み寄る。


「あなたが欲しかったのは……これなのかしら?」

「えぇ、そうですね。だけど、それは君の戦利品だろう? ……もしかして、自慢しに来たのか?」

「まさか。……私には使い道も分からないし、まだ必要ない気がするの。1番大きいのは、エルシャにあげるとして……この中くらいのサイズだったら、あげてもいいわ。いる?」

「なんだって……?」


 もう2度と、馬鹿な真似をしないように……と、ミアレットは軽い気持ちで戦利品を分けてやることにしたのだが。感激で驚いていると思っていたセドリックの口から漏れたのは、あまりに救いようがなく……あまりに業の深い言葉だった。


「特上の方をエルシャにやるだって……? そんな勿体ないことをするのなら、それを僕にくれてもいいだろう⁉︎」

「はい?」

「どうせ、エルシャみたいな馬鹿には破片を使いこなせやしない! それは僕が使ってこそ、真価を発揮できるものなんだ!」

「うわ〜……メチャクチャ感じ悪ぅ……! ヒトの厚意を無駄にするとか、超興醒めなんですけど……」


 これが貴族の感覚なのだろうか? それとも、純粋にセドリックの神経がズレているだけなのだろうか?

 いずれにしても、理解できないわ……と、ミアレットは諦めたように首を振るより、他にない。……強欲の大悪魔様が無欲な一方で、人の子はなんと欲深きことかな。同じ人の子でもあるはずのミアレットとしてはどうにも、こうにも。……やはり、興醒めである。

【補足】

・ゴラニアの貨幣制度について

ゴラニアの人間界には、白銀貨から銅貨までの4種類の貨幣が流通しており、一般庶民の平均月収は銅貨90枚程度とされている。大まかな価値は以下の通り。


・白銀貨は1枚で金貨10枚分。

・金貨1枚は銀貨50枚分。

・銀貨1枚は銅貨100枚分。

・銅貨1枚で丸パン2個とスープ1杯の食事にありつけるくらいの目安。

・端銀・半銀と呼ばれる、銅貨10枚分と50枚分の貨幣も存在しているが、基本的に白銀貨から銅貨までの4種類の貨幣が流通している。


普段の生活で目にするのは銅貨数枚で、銀貨以上はお目にかかる機会すらない者も多い。

なお、霊樹戦役以前よりも平均所得は増加しており、人間界の景気は緩やかに上昇傾向にある。

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